エアウェイ5.12a|瑞牆十一面岩末端壁~クライマー空を飛ぶ~

トラッドクライミング

 瑞牆といえば日本有数の花崗岩のビッグエリアである.その中でも十一面岩末端壁と呼ばれる岩壁には春うららやアストロドーム,トワイライトなど上質なクラックルートが集まり,歴史的な背景も踏まえれば日本における”トラッドクライミングの聖地”といっても過言ではない.

 そんなトラッドが主流の末端壁のメインウォールには,終了点を除いておおよそボルトらしきものがほとんどない.さらに言うなれば,この壁にボルトを打とうものならクライミング界から総スカンを食らってしまいそうな雰囲気を漂わせている.

 だがそんな壁にもたった1本だけ許されているボルトがある.そのただ一つのボルトを使って登る一風変わったルートがエアウェイだ.

エアウェイ,エアウェイ2

 エアウェイは瑞牆山十一面岩末端壁にあるボルトミックスのトラッドルートであり,かの有名なアストロドームのエクステンションラインである.

 5.11クラックのスタンダードにして登竜門であるアストロドームの終了点からハングを越えて,その上部のフェイスおよびカンテを登っていく.最後にはランナウトしたトラバースを経て春うらら1P目に合流.お昼寝テラスと呼ばれる心地よく昼寝をするにはやや外傾しているテラスまで這い上がる.

白山書房 クライミングジャーナル
白山書房 クライミングジャーナル

 開拓は1987年と今から40年近く以前のことでありクラシックルートと呼ばれる部類に入る.アストロドームが素晴らしいだけに,無理やりお昼寝テラスまで延長した際物ラインかと思いきや,上部のフェイスもこれまた秀逸である.なによりやはり終了点がテラスというのが素晴らしい.

白山書房 クライミングジャーナル

 より難しいルートを求めていた当時のクライマーは,アストロドームのダブルクラックを左だけ使う,右だけ使うなどと限定しており,それに伴ってエアウェイも限定なしの無印とアストロドーム(左)から継続したエアウェイ2に分かれていた.だが無理くりな限定はやはり自然の摂理に反するようで,時の流れの中で限定なしで登るのが自然となってきた.

脳内スイッチの転換

 素晴らしいルートの話をする際にグレードの話をするのはあまり本意ではないが,このルートの特性を語るには少しだけ触れておく必要がある.

 アストロドームのグレードは5.11aだ.先にも触れたように5.11クラックのスタンダードであり登竜門となるルートだ.一方でエアウェイのグレードは5.12aだ.この2つは数字1つ違う.では,エアウェイのオリジナル部分はそんなに難しいのか?

 答えは”否”だ.

 おそらくエアウェイパートだけを切り抜けば5.11bかせいぜい5.11cがいい所だろう.ホールドはポジティブだし長さもそんなにない.細かいながらスタンスは売るほどある.どうやらオリジナル部分のフェイスがアストロドームの上部にあることに意味があるらしい.

 安心感のあるジャミングや手が休まるステミング,窮屈な凹角のクライミングをした後に,露出感のあるフェイス,エッジのあるカチ,細かいスタンスなど180度異なるクライミングを求められるエアウェイではクラックモードからフェイスモードへと脳内スイッチを切り替える必要がある.これがなかなかに難しいのかもしれない.

天空の滑走路

 ”エアウェイ(Airway)”には”航空路”と呼ばれる意味がある.我々が日常的に利用する,あるいは空を見上げると目にする航空機は自由に空を飛んでいるのではなく,あらかじめ定められて道を飛ぶ.その空の道が”航空路”だ.

 エアウェイを登っているとその高度感からか,あるいはカンテという露出感からかまるで空を飛んでいる気持ちになる.木の高さを越え,視界には岩峰らしきものも見当たらない.この広い青空を独占することができる贅沢な時間だ.

クライマー、空を飛ぶ。

 オンサイトするようなよほど強いクライマーを除いてエアウェイを登るクライマーはたいがい空を飛ぶことになる.

 アストロドームの終了点まではクラックが連続しておりいつでもカムやナッツでプロテクションをとることができる.だがその安心感はここまでだ.エアウェイオリジナル部分のフェイスには途中1本だけこの壁に似つかわしくないボルトがあるのみで,そこから先はナチュラルプロテクションとなる.

 とはいえ先ほどまでとは打って変わりフェイスなものだからプロテクションが取れるところは限られる.このルートを知っていればその場所も把握しているだろうが,初見トライではきっと頭を悩ませることだろう.

 そうこうしているうちに腕は張り,足は子鹿のようにプルプルと震えだす.最後のプロテクションははるか足元だ.でも安心していい.ボルトはしっかりとしているし,その下のカムもおさまりはいい.おまけに地上ははるか20mも下だ.安心して空を飛ぼう.それもまたこのルートの魅力だ.

Dive to the Sky

 十一面岩末端壁に行く人の多くはクラックを登りに行く.人気のルートはいつ行ったって行列ができている.アストロドームもその例外ではなく多くのクライマーが登っている.だがそのルートには更なる魅力が詰まっている.

 アストロドームを登って満足している人はぜひエアウェイも触っていただきたい.その際はいきなりトップロープなんかしないでぜひリードでトライして大空へのダイブを楽しもう.もちろん,オンサイトしたってかまわない.

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