アルパインクライミングとは,ザックリと言うと山の壁を登る登山の延長線上にあるスポーツです.この中には人工登攀もあれば,フリークライミング的なものもあれば,アックスとアイゼンで登る冬期登攀も含まれます.
他方,ワイドクラックは主にはフリークライミングのジャンルのひとつで,拳よりも大きいサイズのクラックおよびそのクラックを登ることをいいます.
一見何のかかわりもないようなこの2つですが,筆者はここで
「アルパインクライミングをやるならワイドに挟まれ!」
と強い言葉で言います.それはなぜなのかこの記事で紹介していきたいと思います.
※ちなみに筆者は特別なワイド愛好家というわけではないですし,ワイドクラックが得意というわけで もありません.タイトルにあるように教養として登ることの方が多いかもしれません.
- アルパインクライミングでもワイドクラックはでてくる
- というかそもそもクラシックルートは岩の弱点となる内面登攀となることが多い
- ワイド登りができなくても突破はできるがワイド登りの方が効率がいい場合もある
目次
アルパインクライミング
アルパインクライミングの厳密な定義はそれだけで文章が書けそうなのでここでは割愛しますが,一般的には”山でするクライミング”と考えられてよいでしょう.登ることそのものを楽しむのがフリークライミングなのに対して,登山の一形態で山頂に至るまでの手段のひとつとしてとらえられることもあります.
今みたいにフリークライミングが日本で流行る以前からアルパインクライミングのようなものは行われており,穂高岳や劔岳,谷川岳,北岳など各地の山により難易度の高い岩壁や岩稜を見出し攻略されてきました.

最初は人工登攀で登られることも多かったですが,フリークライミングの流行とともに人工ルートのフリー化をはじめ山の壁でもフリークライミングが行われるようになりました.昨今では5.12や5.13というグレードがつく高難度ルートも存在します.
また雪や氷がついた壁をアイスアックスやアイゼンを使って登るのもアルパインクライミングのひとつです.冬壁とも言われます.これらはアックスやアイゼンという道具は使っていますが,いわゆるA0やアブミなどを使った人工登攀というよりは自分の手足で登るフリークライミングの延長戦にあると考えられることが多いです.
ワイドクラック
ワイドクラックはクラッククライミングという岩の割れ目や岩と岩の隙間を登るクライミングのジャンルのひとつでクラックが拳よりも大きいサイズのものをいいます.
拳までのサイズであれば通常のクライミングのように手足を別々に動かして登ることができますが,拳より多きサイズになってくると,いわゆる”ワイド登り”と呼ばれるような特殊な技術が必要となります.またこの”ワイド登り”では多くの場合で全身を使って登ることになるので「ワイドクラック=きつい」というイメージがついている人も少なくないでしょう.

日本でのワイドクラック第一人者といえば川上村にあるクライミングショップ「ROOF ROCK」の店長さんである北平氏であることは間違いないでしょう.
なぜアルパインクライミングをやるのにワイドなのか?
ここでは登山の一形態であるアルパインクライミングと,フリークライミングのいちジャンルであるワイドクラックがどうつながるのかについて触れていきます.それにはアルパインクライミングの背景をもう少しだけ説明する必要があります.

先ほどアルパインクライミングは手段のひとつと述べました.あくまでも目的は山頂に立つ,あるいはその壁を攻略することであって,実は厳密にその壁のどこを登ったかというのはそこまで重要ではなかったのです(もちろん例外もある).”クラシックルート”と呼ばれるようなアルパインルートを開拓した当時のクライマーたちはその壁を攻略するための岩の弱点を探しました.その弱点の一つがワイドクラックでありチムニーであり凹角なんです.
ワイドクラックやチムニーの中には外からわからない節理の発達やチョックストーンが見つかることもあります.また外部環境への暴露も少なくフェイスよりも風化しにくいですし,冬になれば雪つまったり氷が張ってプロテクションをとったりホールドにしたりすることもできます.

そういった背景がありアルパインクライミングではワイドクラックやチムニー,凹角などを登る”内面登攀”が多くなっています.そんな内面登攀に出くわしたとき,もしかしたらフェイスの技術で登れるかもしれない,でもワイドクラックの技術があるにこしたことはないですよね?だから私は声を大にして言います!!
アルパインクライミングをやるならワイドに挟まれ!
ワイドクラックのでてくる代表的なアルパインルート
これまでの話でアルパインクライミングをやるのにワイドクラックが必要なワケは理解いただけたと思います.ここからは実際にワイドクラックがあるアルパインクライミングのルートをいくつか紹介していきます.
槍ヶ岳 西稜 ”「く」の字ジェードル”
まず最初に紹介するのが日本第5の標高をもつ槍ヶ岳にある西稜というルートです.西稜は小槍,孫槍,曾孫槍と継続登攀していき最終的に大槍の頂上に立つことできます.

小槍の西面には「く」の字ジェードルと呼ばれるワイドクラックがあり,これがこのルートの核心になります.クラック以外のホールドやスタンスも豊富にあるのでワイド技術がなくても登れますが日本を代表するワイドクラックです.
穂高岳 滝谷ドーム中央稜
日本三大岩場である穂高岳で一番人気があるルートのひとつが滝谷ドーム中央稜です.ドーム中央稜の1P目は途中からチムニーに入ります.これもそんなに難しくないですが内面登攀が岩の弱点となるのがよくわかる一例です.

北岳バットレス 第4尾根主稜 ”城塞ハング”
南アルプスからは北岳バットレスの城塞ハングを紹介します.

ワイドクラック?かと言われると微妙ですが,これも間違いなく内面登攀です.前後左右のホールドを探しながら立体的な登りで攻略していきます.
宝剣岳 中央稜 ”オケラクラック”
宝剣岳中央稜のオケラクラックは#4サイズが続く狭めのワイドクラックです.クラックの周囲や中に使えるホールドが少なく,クラック上りが求められます.傾斜は緩いですが冬になると足が決めにくくなかなか手強いクラックです.

錫杖岳 前衛壁注文の多い料理店
錫杖岳は半ばゲレンデ的なアルパインクライミングのエリアですが,クラックのアルパインルートと言えば第一に名前が挙がるのがこの注文の多い料理店です.

ハイライトのピッチは40mにもわたりクラックがつながっており,一番広いところはキャメロットでいう#5~6サイズも出てきます.
在所岳 藤内壁中尾根
御在所岳にある藤内壁は古くから東海・関西のクライマーに登られおり,アプローチも近くピークハントの登山としても人気の山でありよりゲレンデ的な岩場です.藤内壁で人気のマルチピッチのひとつが中尾根です.

中尾根は厳密な尾根ではなく4つの岩峰を継続して尾根のように登るルートです.クラックやチムニーが連続し無雪期はもちろん,冬でも楽しいルートです.
教養としてのおすすめワイドクラック
前項では実際にワイドクラックがでてくるアルパインクライミングのルートを紹介しました.これらのルートを登るのにハイレベルなワイドクラックの技術は必要ありません.ですが教養レベルのワイドクラックの経験は必要かと思います.この項では教養としてのおすすめのワイドクラックをエリアごとに紹介していきます.
瑞牆
山梨県にある百名山瑞牆山の西側一帯に広がる広大なエリアで沢山のルートがあるエリアです.
よろめきクラック 5.10a
よろめきクラックは不動沢不動岩にある6番サイズのワイドクラックです.駐車場からのアプローチも近く周囲に百獣の王やJECCルート,不動沢愛好会ルートなど人気ルートも集まっており定番の1本です.

電光クラック 5.9
ここで紹介する電光クラックと次に紹介するかぜひきルートは不動沢にあるワイドクラックの聖地である摩天岩にあるルートです.摩天岩はそのエリアのほとんどがワイドクラックというとても魅力的なエリアです.
電光クラックは摩天岩にある入門ワイドクラックです.2ピッチで構成されており,ふたつのピッチでサイズのことなったワイドクラックを楽しむことができます.

かぜひきルート 5.10a
かぜひきルートはよろめきクラックと並んで瑞牆のトポで数少ない四つ星がついているワイドクラックです.短いながらワイド以外のホールドが少なく基本的なワイド技術が求められます.
小川山
小川山にも教養となりうるワイドクラックはたくさんあります.ただ筆者が小川山のワイドクラックの経験が疎いのでここでは下記リンクを紹介するにとどめておきます.前述した北平氏が書いたものでり小川山のワイドクラックについてわかりやすくまとめてあります.
瑞浪
瑞浪は東海地方にある花崗岩のクライミングエリアで小規模ながら魅力的なルートが集まっています.
あ~らよ 5.8
あ~らよは10mにも満たないワイドクラックで一見簡単そうでグレードも5.8ですが,ワイドクラックに慣れていないと全然登れません.出だしは3番サイズでフィストクラックも効きますが途中から広がってきてとてもいやらしいサイズになります.
アームロックききますか 5.10a
瑞浪のワイドクラックと言ったらこれ!おそらく日本で一番難しい5.10aです(というか絶対5.10aじゃない).体がすっぽり入ってしまうサイズで奮闘的なクライミングになります.
名張
名張は三重県にあるエリアで凝灰岩の見事な柱状節理が並んでいてその隙間にできたクラックを登ります.
名張入門 5.9
そんな名の通り名張の入門的な立ち位置で,はじめて名張でクラックをやる人で一番最初に目標にしたいルートです.出だしから下開きのワイドで慣れていないと離陸すらさせてもらえません.中間部はハンドやフィンガージャムが効くようになりますがワイド的な部分もあり名張クラックの登竜門です.

ミニラ 5.10b
名張入門と同じクラックの反対側を登るルートで体がすっぽりと入るサイズです.最後はキャメロットの6番もスカスカになるサイズとなります.
ムササビ君の休暇村 5.10b
一見ずっと同じサイズに見えますがちょっとずつ広かったり狭かったり,でもずっと苦しいサイズが続きます.若干傾斜も寝ておりワイドテクニックのひとつである”リービテーション”なんかも練習できちゃいます.

まとめ
一見関係のないアルパインクライミングとワイドクラックについて紹介してきました.筆者は実際にアルパインででてくるワイドでチキンウイングをしたり,アームバーをしたり,リービテーションをしたりすることが多々あります.特に冬壁ではその出番はより多くなる気がします.
ワイドのぼりはアルパインにおいて必須の技術ではないかもしれませんが,習得すると確実にあなたのアルパインクライミングの幅を広げてくれます.なので最後に改めて言います.
アルパインクライミングをやるならワイドに挟まれ!












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