もう一度行きたいアルパインクライミング|筆者おすすめルート4選~日本アルプス,他~

アルパインクライミング

『アルパインクライミング』

それは蠱惑的なアクティビティだ.

一度魅せられてしまったらなかなか離れられない.もちろん100%の安全が保証されているわけではない.重い荷物をもって,長い行程を歩いて,寒さや暑さに打ちひしがれて,やっとクライミングができる.

そのクライミングも決して快適ではない.岩は脆く,プロテクションはプアで,やはり寒さや暑さに打ちひしがれる.時には10mをこえるランナウトが待っていることもある.

だがなぜ人はこんなにもアルパインクライミングに魅せられてしまうのか.

夏と言ったらアルパインクライミング

 クライマーや山屋にとって夏は退屈だ.冬は冬壁やアイスクライミング,スキーなどやれることがたくさんあり時間が足りないくらいだ.春や秋はフリークライミングにとってベストシーズンだ.では夏は?

 沢をやる人にとってはいい時期だが,あいにくなことに筆者は沢をほとんどやらない.同じようなクライミングや山を嗜む人でも沢はあまりやらないという人は少なくない.そんな人は夏に何をすればよいのか.その答えのひとつが日本アルプスをはじめとする高山でのアルパインクライミングだ.

 高校生のころに地理の授業で『気温の逓減率』について学んだ.100m標高が上がるごとに気温は0.6度下がるのだ.つまり標高1000mでは6度,2000mでは12度,3000mでは18度も下がることになる.つまり夏でも高いところであれば快適に登ることできる.

 そんなわけだから筆者も夏にアルパインクライミングに行くことが多かった.決して経験豊富というわけではないが,トポに大々的に扱われているようなクラシックルートは割と登ってきた.その中には「もう一度行きたい!」と思わせるような魅力的なルートもあった.今回はその中から4つ紹介したいと思う.

北岳バットレス 4尾根主稜 『王道の”the Best of the best”』

 最初に紹介するのは圧倒的王道で筆者が最も好きなルートだ.好きすぎるが故,季節を問わず4回ほど登っているが全く飽きる気配がない.一生に1本しかアルパインのルートを登れないと言われたら私は二つ返事で『北岳バットレス』を選ぶだろう.

北岳バットレス

 北岳バットレスはそのロケーション,下からアプローチして山頂に抜ける登るというスタイル,日本第2の標高を持つ北岳であるという点,歴史,クライミングの内容,すべてが素晴らしい.中でも一番人気となっている4尾根はクライマーなら一度は登っておきたいルートだ.

 もちろん一年を通して登ることができる.冬期登攀は山頂の標高が3000mを越えるということもありかなり厳しいものとなる.またアプローチには雪崩のリスクが伴うためこの点も判断できなければならない.だがその爽快感たるや夏山の比ではないので厳冬期とは言わないまでも雪の落ち着いた残雪期に一度訪れてみるのも楽しいだろう.

 唯一残念な点を挙げるのであればハーケンなど残置支点に頼る部分が多いことくらいか.多くが古の残置でありいつ抜けてもおかしくないためカムやナッツなどのナチュラルプロテクションやハーケンの扱いくらいは修学しておく必要がある.

前穂高東面 北壁~Aフェース 『アルペンムード満載の”穂高の瞳”』

 次に紹介するのが奥又白池をベースとした前穂高岳東面だ.このエリアを表現するには『アルペン』という言葉がふさわしい.奥又白池は”穂高の瞳”とも言われるきれいな池で,正面に広がる山容と合わせてまるでスイスにでも来たかと錯覚する絶景がそこにある.穂高三大岩場という割に人が少なくこの絶景を貸し切りにできるのもよい.大混雑する涸沢から北尾根を越えた瞬間にそこには別世界が広がっている.

前穂東壁

 北尾根4峰の北条=新村ルートも素晴らしいが,前穂高岳の山頂をもって終了とする北壁~Aフェースは群を抜いて推せる.アプローチは落石必至のガレ沢で,さらにそこに多様な表情の雪渓が加わり激悪だ.だがこういう所も含めてアルパインクライミングを楽しめる.

八ヶ岳横岳 大同心雲稜 『ジムナスティックなクライミングで雲を目指す』

 八ヶ岳は冬にこそその真価を発揮する.特に南八ヶ岳西面は赤岳鉱泉を拠点にアイスクライミングやアルパインクライミングを楽しむ人で賑わう.もちろんピークハントの登山者も多い.

 一転して夏になるとその大半は一般登山者となり,クライマーを探すのはツチノコを探すがごとく労を要する.八ヶ岳の岩は脆く,雪や氷で固められない限りはとても登攀の対象にはならない,大同心と小同心を除いては...

 大同心雲稜はクラシックルートでありながら,かつては人工登攀でも登られていたため,現代的なまるでジムで登っているかのような”フリークライミング”を楽しむことができる.”山を楽しむ”といった他のアルパインルートとは毛色が若干異なり,このルートでは”クライミングを楽しむ”ことができる.登山の延長としてアルパインをしている,普段からフリーやボルダリングをしていない人ではとても登ることができないだろう.礫岩という岩質も興味深い.

槍ヶ岳 西稜 『小槍の上でアルペン踊りをさぁ踊りたい』

 日本で一番有名な山は富士山だ.これは断言できる.だが次に有名な山は何だろう.それはおそらく槍ヶ岳だと思う.幼いころの記憶をさかのぼると『アルプス一万尺~小槍の上で~♪』というメロディーがどこかに残っている人は多いだろう.

 槍ヶ岳というとあまりクライミングのイメージがない山だ.槍の穂先は急峻だがそこまではなだらかかで,その穂先も登攀対象としてはやや物足りない.そんな槍ヶ岳でも小槍,孫槍,曾孫槍,そして大槍と続けて登ると10ピッチにも登るロングルートに姿を変える.小槍とは言うもののスケールとしては十分でピークも広く,そこではアルペン踊りどころか,テントを張っての宴会だって可能だろう.

北鎌尾根からみた槍ヶ岳西稜(小槍~大槍)

 槍ケ岳西稜はクラシックルートだが,昨今再び人気が高まっており,おそらく小槍の上でアルペン踊りをした人は沢山いると思われるが,それをドローンで撮影した人はひとりしか知らない.ここで添付だけしておく.

槍ヶ岳西稜[小槍の上でアルプス一万尺を歌ってアルペン踊りを踊らない]

まとめ

 以上,手短ではあるが筆者おすすめのアルパインクライミングルートを紹介してきた.

 昨今はクライミングに傾倒しているが,私は本来は山屋だ.山を見るのも登るのも話をするのも全部が好きだ.そんな大好きな山にクライミングというスパイスが加わればそれはもう垂涎ものだ.その中でも秀逸なものを紹介したつもりだ.楽しんでもらえれば至極恐悦である.

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