クライミングは登らないと弱くなる?|登らない・登れない期間が与える影響

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 こんにちは!にわかアルピニストです.

 クライミング愛好者のみなさんの中には毎週のように岩場に足を運んでいる方も多いと思います.そんな日々が続いていると,ちょっとクライミングができない日が続いただけで

 「こんなに休んでいたら弱くなってしまうのでは?」

という不安に襲われることも少なくありません.

 実際に長い人生の中で仕事や怪我,結婚,育児,介護などなど一定の期間にクライミングができないようなシチュエーションは容易に想像できます.

 今回はクライミングができない期間がクライマーへどんな影響を与えるかを考えていきます.

登っていないと弱くなるという定説

 みなさんはいろんな形でクライミングを楽しんでいると思いますが,生活習慣の中にクライミングが溶け込んでいる人も多いと思います.習慣的にジムや岩場に行っていると用事があってちょっと登れないだけでもなんだかソワソワしてきませんか?

 ソワソワするだけならまだしもそんな日が続いてしまうと「このまま弱くなってしまうんじゃないか?」という不安に襲われることもしばしばです.

 『クライミング 頻度』でインターネット検索をしてみると”上達するには週に○日登る必要がある””現状維持に必要な日数は○日”といったような記事が沢山出てきます.これらを見ると現状を維持するには最低でも1週間に1回は登った方がよいと考えている人が多いことがわかります.

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 ちょっとした怪我や用事のようにすぐにまた登ることができる時はあまり影響ないかもしれませんが,一方で長い人生の中では仕事や怪我,結婚,育児,介護など一定の期間クライミングができないことは当たり前のようにあります.

 そんな場面に出くわしたときに我々はただただ弱くなっていくのを指をくわえて眺めていることしかできないのでしょうか?

ブランクがクライマーを弱くする要因

 ここでは登っていない期間(ブランク)がクライマーを弱くする要因となりうるものについて考えていきます.

フィジカルの低下

 悲しいことに人間の体は使わないものは必要ないと判断され退化・退縮していきます.トレーニングを行う際に留意しておくこととして3つの原理と5つの原則というものがありますが,その中にトレーニングで得られた効果はやめてしまうと徐々に失われてしまうという『可逆性の原理』,効果を得るためにはある程度の期間くり返してトレーニングを行う必要があ『反復性の原則』というものがあります.

 全身持久力,筋肉,腱,指皮,前腕の毛細血管,柔軟性などなどクライミングではクライミングでしか使わないようなものがたくさんあります.これらはクライミングをやっていれば維持・強化できますが,その機会が少なくなれば当然退化していきます.

 なんだかんだ言ってもクライミングは体を使うスポーツです.フィジカルが低下してしまっては弱くなってしまうでしょう.

恐怖心の芽生え

 人間は本能的に高所や墜落に対する恐怖心を植え付けられています.他のスポーツとクライミングが大きく違うのはこの両者のリスクを伴うという点です.とはいうもののこの高所や墜落に対するリスクというのは基本的にはコントロールされたリスクであることが多く危険性自体はそこまで高くないはずです.このようなシチュエーションでフォールを繰り返すことで高所に対して”慣れ”が生じます.

 以下でリンクしたサイトは高所恐怖症の治療方法として段階的暴露訓練を紹介しているもので興味深いので気になる人はチェックしてみてください.

この記事では

高所という刺激への安全な繰り返し曝露を通じて、非機能的な恐怖構造が修正され、脳内の恐怖反応を司る神経回路に変化が生じることで、恐怖や不安が減弱していくのです。

と紹介されており,一方で

(前略)

この消去学習は、もともとの恐怖条件づけを「消去」または「アンラーン(unlearn)」するのではなく、新たな学習(安全に関する学習)が恐怖反応を「抑制」している状態であるということです。つまり、元の恐怖記憶そのものが脳から完全に消えるわけではありません。この性質から、消去学習の効果はいくつかの要因によって弱まり、条件反応が再び現れる可能性が指摘されています。これを再発(Relapse)と呼びます。

再発は、以下のような現象によって説明されることがあります。 * 自発的回復(Spontaneous Recovery): 消去によって抑制された条件反応が、時間が経過した後に自然と再び現れる現象です。(後略)

とも紹介されています.

つまりこれらをクライミングに置き換えると前者が”クライミングを継続して繰り返しフォールをしていると怖さに慣れる”ということで後者が”クライミングから離れる怖さに慣れたものが元に戻る”というわけです.

 実際に筆者が怪我で3か月ほど休んでいた後の久しぶりのクライミングではいつも以上に怖く感じたことを覚えています.

体重増加

 クライミングはその上に進むという特性上,体重が軽い方がよいとされます.そのためパフォーマンス向上のために体重をコントロールしているクライマー多いはずです.少なくても太りすぎないように気にしているクライマーが大半です.

 クライミング自体は負荷の高めですが,登っていない時間もそれなりにあるので総合すると決して消費カロリーの多いスポーツではありません.おそらくクライミングだけをやっているだけで痩せるということはないんじゃないでしょうか?それ故食事にも気をつかって日々過ごしていると思います.

 そんな意識高い系のクライマーが長い期間登らないと99.99%太ります.ひとは目標があると頑張れますが,明確な目標がないと堕落してしまいます(少なくとも筆者は).

 久しぶりにクライミングを再開してみようと思ったときに体重が重くてはおそらく思ったようなパフォーマンスは出せないでしょう.

登れない期間があっても弱くならないと信じたい

 ここまでは登っていないとクライミングが弱くなる理由を考えてきました.でもそれって悲しいですよね.そういうわけでこの項では登れない期間があっても弱くはならないという説を支持するものを考えていきます.

メジャー 茂野吾郎の一幕

 みなさんは『メジャー』という漫画を読んだことがありますか?筆者が好きな漫画のひとつです.ここではその一幕を紹介します.

野球の名門高校である海堂高校に入学した主人公の茂野吾郎はそのマニュアル野球に意を唱え壮行試合で一軍と戦うことになります.

その準備をしている最中,吾郎のサポートに加わった海堂高校の二軍トレーナー早乙女泰造によって地下室に閉じ込められ大量の折り鶴を折ることを命じられます.文句を言いながらも4日間鶴を折り続け,5日目の朝に泰造と投球練習をしたところ吾郎は肩や体全体に今までにない軽さを感じます.そこで泰造は一言いいました.

私がまず、あなたに肌で感じて欲しかったのは―肩や体を休めるのもトレーニングの一つだということよ。

MAJOR(満田拓也) 31巻3話より引用

 クライミングは体に負荷のかかるスポーツです.そんな中,故障を抱えながら登り続けている人も少なくはないでしょう.この場面は体を休めるのも重要なことで上達への最短経路はただやみくもに登ることではないということを教えてくれます.気になった方はMAJORをぜひ読んでみてください.この場面以外にもスポーツをやる人であれば参考になるようなシーンが沢山あります.

 もちろん今回の場面で触れているのはあくまでも短期的な休養の場合です.しかしながら慢性的な故障でも同じことが言えるかもしれません.登らない期間を設けることは必ずしも強さから遠ざかるのではないのかもしれません.

自転車の乗り方は忘れない

 話は変わりますが,みなさんは自転車に乗れますか?

 おそらく小さいころに自転車の乗り方を覚えた人は今でも乗れるはずです!

 ”何を話したか”,”何をしたか”などの記憶(陳述記憶)は時間が経つと薄れていくのに対して,“自転車の乗り方”のような同じ経験を繰り返して獲得された経験は長期的に保存されることがわかっています.これは”手続き記憶”と言われており,一旦形成されると意識的な処理を伴わず自動的に機能し長期間保存されるといわれています.そのため何十年も自転車に乗っていなくても人は自転車に乗ることができるのです.

 菊池敏之氏が書いた『クライマーズボディ』という本にはクライミングのステップアップの法則として『スポーツ運動学(1960/クルト・マイネル)』から引用して

段階A:粗形態の発生と定着

段階B:精形態の発生と定着

段階C:運転の自動化

と記載されています.

 また『パフォーマンスロッククライミング』にはトレーニングの基本原則としてエングラムの習得の重要性が触れられています.

 詳細は書籍を読んでいただくとして,これらはまさにこの手続き記憶だと思います.さっきの自転車の乗り方と同じようにジムや岩場などで反復して習得したムーブは長い年月が空いたとしても失われることはないのです.

 もちろんそのムーブに必要な筋力がなくては体の動かし方は覚えていてもムーブは起こせないかもしれませんがその点については後で触れていきます.

レミニセンス効果

 先ほども出てきたクライマーのトレーニング教本のバイブルと言っても過言ではない『パフォーマンスロッククライミング』にはレミニセンス効果についての言及があります.

 レミニセンス効果とは活動していない期間に技術的能力が上達する現象のことです.この現象は記憶や学習,技術的なスポーツにおいて確認されています.皆さんは寝る前に勉強したことが寝て起きるとより鮮明になっていたという経験をしたことがありませんか?実はこれもレミニセンスと関連付けて説明されていることも多いです.

 この現象が生じる原因としては神経命令回路の再構築で説明がされています.例えばクライミングのムーブなど新しい何かを習得するときには実は一緒に不必要な要素も覚えてしまいます.脳はこの運動に不必要な要素を排除し内容を整理しようとします.この作業はオフ期間中に行われるため,ある程度クライミングから離れた期間を設けた場合にフィジカル的には低下していてもムーズに関してはオフ以前よりも洗練されているといったようなことが生じ得るのです. 

マッスルメモリー

 手続き記憶,レミニセンス効果についての話をしてきましたが,技術面で問題なくてもフィジカルが弱まっていればクライミングは下手になるんじゃないの?という疑問もわいてくると思います.そこで重要になってくるのが『マッスルメモリー』です.本当は生理学的なところから触れたいのですが,だいぶ長い記事になってきたので簡潔に説明すると一度ついた筋肉は落ちてもすぐに戻りやすいという現象のことです.

 クライミングは筋トレではありませんが同じ筋肉を反復して使います.その作業はトレーニーのジム通いに似たものがあります.勤勉なクライマーであればあるほどマッスルメモリーを多く蓄え復帰後のフィジカル的な復活も早いことが予想されます.

そもそも弱くなることは悪いことではないんじゃない?

 今回の話を総合すると,結局は長期間登っていないと弱くないそうです.とはいえ一度ベースをしっかりと作っておけば回復するのも早そうな印象を受けます.

 でもそもそも弱くなって何が悪いんですか?

 一生右肩上がりで強くなっていくつもりですか?

 やめる時に一番強いのが理想ですか?

 クライミングは楽しいです.実力が上がれば触れる課題も増えてきてさらに楽しいです.でも登れなくたって楽しいのがクライミングです.そういうメッセージを未来の自分に送ってこの記事の結びとさせていただきます.

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