月とすっぽん!?レッドポイントとピンクポイントの違い|クラッククライミングの完登スタイル

トラッドクライミング

 こんにちは!にわかアルピニストです.

 クラッククライミングを嗜む皆さん,あなたは完登のスタイルにこだわりはありますか?

 クラッククライミングの完登スタイルというと主に問われるのはカムをセットしながら登るレッドポイントか,カムをプリセットして登るピンクポイントだと思います.

 この2つを比べた時にピンクポイントスタイルは単にレッドポイントスタイルの下位互換として捉えられていることもあるかと思いますが,筆者はこの2つのスタイルには大きな壁があると思っています.ピンクポイントで登るか,レッドポイントで登るか,それは似たようで全く違うことなのです.今回はそんなテーマで話を進めていきます.

完登スタイルのあれこれ

 岩場やジム,SNSなど様々な場面でクライミングの完登スタイルに関して議論になることがあると思います(えてしてこの議論は白熱することが多い気がします).スタイルについてはいろいろと書きたいことはありますが,今回はレッドポイントとピンクポイントに絞って話をしていきます.

 話をしていく前に前提として言葉の意味を確認しておきましょう.山と渓谷社が運営する山と溪谷社のクライミング・ボルダリング総合サイト CLIMBING-net クライミングネットの用語集から引用します.

レッドポイント red point

2回目以上のトライで完登すること。ドイツのクルト・アルベルトがトライ中のルートの赤丸(レッドサークル)をつけ、完登するとこれを塗りつぶしていたことによる。

ピンクポイント pink point

プロテクショ ンをセットしたままの状態でリードし、完登すること。ボルトルートではレッドポイントに含めているので、主にクラックルートで使用される戦術。

 基本的にはクラッククライミングをされる方は,レッドポイントを目指すことが多いと思いますが時としてピンクポイントをもって完登とすることもあるでしょう.一方でルートによっては初登者がピンクポイントで初登としていることもあります.

初登者よりもよりよいスタイルで登る

 ところでフリークラミングでは再登者は『初登者よりもよりよいスタイルでの完登』を目指すという暗黙の了解があります.スタイルの良し悪しについては多々議論があると思いますが,例えば初登者がオンサイトならばオンサイトを目指すし,初登者がグラウンドアップならばグラウンドアップを目指す,そして初登者がレッドポイントならばレッドポイント以上(レッドポイント,フラッシュ,オンサイト)を目指すといったようにです.

一生記憶に残る渾身のオンサイトートワイライト5.11c

 これを当てはめるとピンクポイントで完登としてよいのは,ピンクポイント(ないしはトップロープ)で初登された場合に限られ,むしろ『よりよいスタイル』という意味合いではこの場合でもレッドポイントを目指した方がいいのかもしれません.

ピンクポイントの方が易しい?

 ではなぜ人はピンクポイントで完登としてしまうのでしょうか?

 その答えは簡単です.『ピンクポイントの方が易しい』からです.

 これは誰しもが実感できることでしょう.プリセットされたカムにロープをクリップするだけのピンクポイントと比較すると,適切なクラックをみつけ,ギアラックから適切なカムを選択し,適切にカムをセットし,適切にテスティングを行い,そしてロープをクリップするレッドポイントでは身体的・精神的に負荷が大きく異なります.

 ルートがシビアになればなるほどこの負荷は大きくなり,それは単なるスタイルの違いを飛び越えグレードに現れてくることもあります.

湯川 白髪鬼の一例

 一番わかりやすい例は湯川にある白髪鬼でしょう.このルートは日本を代表するクラックルートで1988年に保科雅則氏にピンクポイントで初登され5.13b/cと発表されています.そのおよそ20年後に当時13歳の中嶋徹氏によってレッドポイント初登され5.13d Rとグレーディングされました.もちろんリグレードという意味合いもあるかもしれませんが,同じルートなのにプロテクションのセットがあるかないかだけでグレードが変わってしまったという風にも見ることができます.

 これは分かりやすい一例ですが,皆さんの中でもレッドポイントとピンクポイントでは大きく負荷(あるいは難易度)が異なる経験をしたことがある方も多いでしょう.

 おそらく多くのトポでは初登時のスタイル(多くはレッドポイント)で登ったことを前提にグレーディングされているため,万が一あなたがそのルートをピンクポイントで登ってしまっていたら実質的には1つか,場合によっては2つ以上グレードが下がっている可能性があります.

スポートにおけるマスタースタイルとの違い

 少し話はそれますが,スポートルートを登るときにマスタースタイルかどうかこだわっている人はいますか?おそらくクラックの時ほどプリセットに対してネガティブな方は少ないと思います.筆者もそれほどこだわってはいません.

 ここで日本を代表するフリークライマーである故杉野保氏の見解を引用しておきます.

(前略)

 シーサイドの「虎の穴」、いまや13の入門ルートとして人気が高いが、ほとんどの人が2本目にプリクリップして登るのはどういうわけだろう。(中略)

 このルートの初登者は保科雅則。彼は一手目のホールドに下から飛びついて取り付き、全てのヌンチャクをセットしながら(もちろん1本目にもスティッククリップせず)登った。今では聞くことのなくなった「マスタースタイル」で初登したわけだ。13aというグレイディングもこのスタイルを基にしてつけられた。

 完登とは、初登と同じスタイルかそれよりも優れたスタイルで登ることが前提となっているならば、厳密に言えば「虎の穴」は、マスタースタイルで登らなければ完登とはみなされないことになる。しかし、実際はそこまでこだわる人もいないだろうし、所詮は自己満足の遊びなのだから自分が納得できれば良いわけだ。

 ただ、2本目にプリクリップをして登り、それを完登としているのならば、口をはさみたくなるのは僕だけではないだろう。
(後略)

https://cliff.climbing-instructor.jp/story/stick.htm

 理想を言えばマスタースタイルで登るに越したことはないのですが,スポートクライミングではプリセットで登ることが許容されているのが現実です.なぜスポートの場合にはプリセットが許容されるかについて少しだけ考察してみます.

クリップする場所が決まっている

 スポートルートとトラッド(クラック)ルートの一番の違いはボルトの有無でしょう.スポートルートでは事前にボルトが打たれておりプロテクションの位置が決まっているため,状況に応じて密にプロテクションをとったり,逆にランナウトを許容したりなどの駆け引きが必要なくなります.プロテクションの取り方がルート攻略の戦略性に与える影響が少ないため許容されている可能性があります.

プロテクションのセットに技術が影響されにくい

 クラッククライミングでは同じ場所に同じカムをセットしても技術が習熟してなかったりすると抜けやすいセットになっていることがあります.またプロテクションが細かい場合には複数個セットするなど経験や技術でプロテクションの強度が左右されることがあります.一方でスポートではそのプロテクションは絶対に外れない(という想定の)強固なものになります.ここには個人の技術が介在する余地があまり残されていません.そうするとルート攻略においてプロテクションセットの重要度は下がってきて,求められるのは純粋なクライミング能力となります.

多人数でトライするときにプリセットしていた方が効率が良い

 残念なことに(?)クラッククライミング人口よりもスポートクライミング人口の方が圧倒的に多く,一つのルートに集中し順番待ちとなることも珍しくありません.そうなったときに,上記2つの点を前提とするとヌンチャクをセットしたまま回す方が効率がいいに決まっています.トライのたびにヌンチャクを回収していたのでは,特に被りのルートなどでは,待っているクライマーはいら立ちを覚えるかもしれません.

ピンクポイントになってしまいがちなケース

 これまでピンクポイントはなるべく控えた方がよいという話を進めてきましたが,そうはいってもピンクポイントになってしまいがちなケースはあります.ここでは筆者の経験をもとに2つほど紹介します.

ルーフクラック

 ルーフクラックはピンクポイントになりやすい典型例です.張り出しが小さい場合にはロワーダウンで回収できなくもありませんが,城ヶ崎のような張り出しの大きいルーフの場合には非効率的です.なので一般的にはフォロー回収となりますが,これがまたしんどい.カムを回収しながらのクライミングはリードで登るよりも難しい場合がほとんどです.

 複数人でトライしている場合には別の人がムーブの確認も兼ねてトップロープで回収できますが,トライしているのが一人の場合は回収なんかで余計な体力を使っていられない!ということでカムを残したまま降りてきてそのまま次のトライをすることは珍しくありません.

プロテクションセットがシビア

 もう一つはプロテクションセットがシビアな場合です.グレードが上がってくると厳しいムーブの中でカムをセットしなければならないルートも出てきます.そんなときはまずはピンクポイントで,その次の段階としてレッドポイントを目指すということもよくあります.筆者は触ったことはありませんが,たぶん前述の白髪鬼なんかはこの手のルートなんだろうなと想像します.

ピンクポイントは小声で言おう!

 昨今は自分の登ったルートをSNSに投稿する人も多いと思います.承認欲求は過去も未来も現代もクライマーの原動力の一つになりえます.でもそんな気持ちをぐっと抑えて,ピンクポイントの時は控えめに投稿するようにしましょう.そうしてそのモチベーションをレッドポイントへとっておくことをおすすめします!!

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