小川山に四天王と呼ばれているクラックがある.
誰が最初にそう呼んだのか,いつからそう呼ばれているのか,なぜこの4本が選ばれたのか,わからないことだらけだ.
だがこれらのクラックを触ればそんなことどうでもよくなる.なぜか「あぁ,これは四天王だ」と合点がいくようになる.
四天王 …
仏教における神々であり,東方の持国天(じこくてん),南方の増長天(ぞうちょうてん,、西方の広目天(こうもくてん),北方の多聞天(たもんてん)の四神.四大王(しだいおう)ともいう.これになぞらえ,特定分野・集団の中で有力な4者の総称.(Wikipediaより引用改変)
花崗岩クライミングの聖地 小川山
日本のロッククライミングでは花崗岩はメジャーな岩質ですが,そんな花崗岩のクライミングを聖地と言っても過言ではないのが長野県川上村にある廻り目平周辺の岩場です.クライマーには親しみを持って”小川山”と呼ばれています.

小川山は日本におけるクライミング黎明期であるおよそ半世紀前から今日に至るまで継続して多くのクライマーが訪れており,名ルートと呼ばれるルートも数多く生み出されています.
今みたいにオールボルトのスポートクライミングがあたりまえとなる前はナチュラルプロテクションを支点にのぼるクラッククライミングやグラウンドアップでボルトを打ちながら登るスタイルでの開拓が主流でした.小川山にはこれらのスタイルで開拓され今も同様のスタイルで登られている歴史的な価値のあるルートも多くあります.これらのルートは今では”クラシックルート”と呼ばれたりもします.
クラック四天王
そんなクラシカルなクラックルートの中で,特に初期の方に開拓され,いずれも入門的なグレードで,1筋のきれいなクラックからなり,その内容はだれが見ても素晴らしい,ある4本のクラックをいつからか総称して”クラック四天王”と呼ぶようになりました.
- 小川山レイバック
- カサブランカ
- ジャックと豆の木
- クレイジージャム
クラック四天王はどのルートも見た目も内容も素晴らしく5.10台(小川山レイバックは5.9+)のクラックでは絶対に見落とせないものになります.逆に何をやろうかと迷ったらこれをやっておけば間違いはないです!!
また4本の中でも小川山レイバック→カサブランカ→ジャックと豆の木→クレイジージャムの順番でほどよく難しくなっており,この順番に触ることによってクラックを登るのに必要な基本的なジャミング技術の習得につながります.
もちろんほかの岩場でクラックの経験を積んだクライマーが力試しの意味合いでOSを狙ってトライするのも楽しいと思います.

ここからはこのクラック四天王について紹介していきます.
小川山レイバック 5.9+ 親指岩
自然の造形美は自然と目を引くものですが,クラックは特に顕著です.小川山レイバックは小川山で最も美しいクラックと言っても過言ではありません.はじめてこのクラックは見た人はその美しさにあっけにとられること間違いないでしょう.

一般的に日本での本格的なフリークライミングの夜明けとなったのは1980年2月発行の岩と雪72号でジョン・パーカーがヨセミテにあるこちらもスーパークラシックである”Midnight lightning”を登っている姿が表紙を飾ってからと言われています.ですがそれより1年近く前の1979年5月に室井由美子氏と吉川弘氏はこのクラックを見つけ人工登攀ながら登っています.そして翌年の11月にはフリークライミングで完登しています.
ルートはシンハンドからタイトハンドを経て,快適ハンド,ワイドハンドなど手のサイズによっても違いますがとにかくハンドジャムをします.上部は傾斜も若干強めですが中間部のレッジでレストもでき,ちょうどよいクラック入門ルートになります.
カサブランカ 5.10b 妹岩
小川山レイバックを登った次の目標となるのがカサブランカです.カサブランカは小川山を代表するフェーシングクラックで,こちらも小川山レイバック同様に見ているだけでうっとりとするようなきれいなクラックです.純粋なジャミングだけではなく基本的なフェイスクライミングの技術も求められます.

出だしはスラブですが最初のプロテクションをとるまでがやや緊張します.そのあとも思いの他フレアしておりプロテクションワークは頭を使います.部分的に細い箇所もありフィンガークラックが必要となり全体を通してグレード通り小川山レイバックよりもワンランク上の難しさを感じます.
ジャックと豆の木 5.10b/c 妹岩
ジャックと豆の木もカサブランカと同じく妹岩にあるルートです.その名の通り童話ジャックと豆の木を彷彿させるような下から上に向かって細くなるクラックで迫力があります.

出だしのワイド部分が濡れていることもあり見た目以上に登りにくいですが,核心はその上のシンハンド部分です.いったん快適なハンドサイズに戻りますが延々と続くクラックで前腕はパンプ必至です.最後は簡単なフェイスを抜けて全長25mのロングルートです.
クレイジージャム 5.10d 親指岩
小川山レイバックが初登されてから,同じクラックの反対側にあり対をなすクレイジージャムが初登されるまではそほど時間がかかりませんでした.

出だしの核心部分は絶妙に悪いシンハンドサイズでありジャミング真っ向勝負で登ろうとするとしっかりとした技術が必要です.パワフルなレイバックで登る人も多いでしょう.ですがここは敬意を表してジャミングで登ってみることをおすすめします.5.10dから5.11aというクラック中級者への足掛けとなることでしょう.
核心部は出だしですが,中間部のフレアしたワイドハンドも奮闘的ですし,そこを抜けたトラバースも緊張します.最初から最後まで飽きさせない間違いなしの四つ星ルートです.
まとめ
小川山クラック四天王と総称されるクラックを紹介してきました.どのルートも最初から最後まで一筋のクラックでつながっており見事としか言いようがありません.また登ってみてその内容に再度見事といわされます.
小川山でクラックをやるならまずはクラック四天王,そして登れたその先には三大クラックと呼ばれる蜘蛛の糸,イムジン河,バナナクラックなど目指してみてはいかがでしょうか.




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