クラッククライミングのすゝめ|-WAREME-より自然な岩との戯れ

トラッドクライミング

 こんにちは,にわかアルピニストです.いつもお読みいただいてありがとうございます.

 当ブログでは登山やクライミングのいろいろな記事を投稿していますが,比較的多く読まれている記事が無雪期の登山関係です.その次が冬山登山やアルパインクライミング関連かな?といった感じです.いつも読んでいただいている方の中には(そんな人いるのか!?という疑問はさておき),このブログは”山関係のブログ”と思っている方もら多いのかもしれません.

 確かに,筆者は自称かつにわかといえど”アルピニスト”を名乗っているわけなので登山を愛するものです.ただ,それと並行してクライマーでもあるのも事実です.そんな筆者が個人的に一番情報収集をして気合を入れて書いているのは,実は自身が登ったルートを紹介する「至高のルート紹介」なのです.

 ただ,この「至高のルート紹介」が全然読まれていない!!

 ビックリするくらい閲覧数が伸びないのです.その原因を考察した際に”紹介するルートの大半がクラックのルートである”ことが関係しているのでは?という考えに及び,そして他責思考の強い筆者は”クラッククライミングを嗜好するクライマーが少ないのが原因だ!!”という結論に至りました.

 前置きが長くなりましたが,そんな背景もあり今回は魅力たっぷりのクラッククライミングについて語っていこうと思います.

クラッククライミング

 そもそも登山しかしない人や,あるいはフリークライミングをやる人の中にもクラッククライミングはなんぞや?という人もいるかもしれません.まず初めにクラッククライミングがどういうものか紹介していきます.

トラディショナル(伝統的な)クライミング

 日本では”クラッククライミング”という名で親しまれていますが,一部界隈や海外ではトラッドクライミングという呼ばれ方をする場合もあります.これはトラディショナル(伝統的な)クライミングを略した呼び方になります.

 オリンピックやワールドカップなどで目にするスポーツクライミングは墜落したときのプロテクションとなるボルト設置が事前に行われていますが,クライミングの本質は下から登って上を目指す行為であり,そのような状況では事前にボルトを設置することは不可能でした.そのため,そもそものクライミングでは自身でプロテクションを設置しながら登っており,このようなクライミングをトラディショナル(伝統的な)クライミングと呼ぶようになりました(という風に筆者は理解しています).

トラッドクライミングの聖地 ヨセミテ

 プロテクションをセットする際に利用されることが多いのがクラックであり,またこのクラックは岩を登る際の弱点ともなるため,クラックを登るクライミング,つまりクラッククライミングと呼ばれます.一方で同じプロテクションを設置しながら登るクライミングでもクラックを登らない場合はクラッククライミングではなく,単純にトラッドクライミングと言われます.

スポートクライミングとクラッククライミングの違い

 クラック(トラッド)クライミングの対義語的に扱われるのがスポートクライミングです.この2つの大きな違いは,やはりプロテクションを自分で設置するかどうか,になります.つまりフリークライミングにおいて事前にボルトが打たれているルートは,垂壁にしろ,スラブにしろ,前傾壁にしろ,5.8にしろ,5.15にしろ,全部スポートクライミングとなるわけです.

プラチナム5.11c 瑞牆 カサメリ沢

 ボルトを打つということは,ラインを作る自由度が上がるということも意味します.1つのルートを作るときにトラッドクライミングでは登るだけではなくてプロテクションをセットする場所も必要になります.一方でスポートクライミングでは岩質によってボルトの打てる打てないはあるにしろ,登れそうなラインがあればボルトを打てばいいわけなので選択肢は広がります(厳密にいうとその他にもいろいろありますが今回は極論で許してください!!).

 また登る対象も変わる場合が多いです.前述のとおりクラッククライミングではプロテクションをクラックでとることが多いため登攀対象はクラックが多くなりますが,スポートはその限りではありません.そうすると必然的に手や足の使い方など全然変わってきます.クラッククライミングでは”ジャミング”という技術を駆使して登ることが多いです.

ナチュラルプロテクション

 トラッドクライミング・クラッククライミングの特徴の一つとして自身でプロテクションを設置することがあると述べましたが,この際によく利用されるのが”カミングデバイス”や”ナッツ”などになります.そのほかには単純に木にスリングを巻いたり,あるいは岩角にスリングをかけたりするだけのこともあります.

 これらの自身でセットするプロテクションを総称して”ナチュラルプロテクション”と呼びます.ナチュラルプロテクションはボルトとは異なり自分で設置する必要があるため,場所探しやギア選択,ギアの使用方法など登る以外にも考えるやることが沢山あります.

なぜクラック人口は少ないのか?

 クラッククライミングの概要について紹介してきましたが,ここからはなぜクラッククライミングを嗜む人が少ないのかについて考察していきます.本当にクラック人口が少ないかどうかについてはノータッチでお願いします.実際に調べたわけではありませんが,肌感としてはやはり少ないような気はしています.

❶費用が高い

 まず第一に挙げられるのが費用的な面での参入障壁の高さです.山やクライミングでは必要な装備が多くまとまった額の初期費用が掛かりますが,クラッククライミングに必要不可欠なナチュラルプロテクションもそれなりにいいお値段します.

 ナチュラルプロテクションも1個だけでは1つのルートを登ることはできず,例えばカムの場合だと「まずは1セットからそろえよう」といった形が一般的な気がします.カムを1セット揃えようとすると物価上昇著しい昨今では10万円近くすることもあります.これは「とりあえずクラックはまだいいかな?」と思わせるに十分な気がします.

➋練習する場がない

 続いて,いざクラックをはじめる気になっても,練習する場所がないというのも参入障壁をあげる一つの理由になっていると思います.

 今ではそこら中にボルダリングジムがあり,ふらっとクライミングを始めることができます.またロープを使ったクライミングに興味が湧けば,ジムの知り合いやSNSなどで声を掛け合って遊びに行けるようなゲレンデ的な岩場も比較的多いです.

 これがクラックとなると話はまるで変ってきます.クラッククライミングに必要なジャミング技術ですが,これが練習できるようなクライミングジムは極めて稀です.たまにジャミング課題があっても1つや2つといった程度です.岩場の方もスポートほどは多くはありません.

 こういった「興味はあるけど,やる場所がない」といった層も少なからずいると思われます.

❸スポートと比べるとやや危ない?

 もしかしたらスポートと比べるとクラッククライミングの方が怪我のリスクが高いと思っている人が多いのかもしれません.確かに岩に埋め込まれ,時として化学的に固定されたボルトと比べると自分で設置したプロテクションというのは不安があるかもしれません.プロテクションが壊れるかもしれない,抜けるかもしれない,岩が壊れるかもしれない,などナチュラルプロテクション設置時の悩みは尽きません.とはいえ,これらの悩みは技術の向上に伴い軽減することが可能です.むしろ何の疑いもなく使っているそのボルト,大丈夫ですか?

 また一つのクラックにジャミングもプロテクション設置も行うため足にロープが絡まりやすいというものがクラッククライミングのリスクとしてあるかもしれません.ただこちらもスポートでも少なからず同じことが起こりますし,登攀のときに十分注意することで避けることが可能です.

 つまりトラッドにしかないリスクというのはそこまで多くないのかもしれません.

❹そもそもクラックを知る機会が少ない

 クラック人口が少ない理由として,そもそもクラックを知る機会が少ない,という前提があります.➋とも重複しますが,日常的に目にする,あるいは触れ合うことができるクライミングの多くはボルダリングやスポートクライミングです.

 フリークライミング黎明期では岩の弱点を登る過程で自然とクラッククライミングの技術が必要となりましたが,現代では既成ルートを登るクライマーの方が圧倒的に多いため岩の弱点を考えたりする機会はあまり多くないのでは,と思います.なので自ら飛び込まないとなかなかクラックの世界とは交わらないのかもしれません.

クラッククライミングのすゝめ

 クラック人口が少ない理由を考察してきましたが,それでも筆者はクラッククライミングに魅力を感じます.どんな点に惹かれているかを紹介していきます.

①より自然なクライミングを楽しめる

 何をもって”自然”と考えるかは人それぞれですが,「自然物である岩にボルトなどの人工物を残さない」という点においてはクラッククライミングは”自然”といえるでしょう.

 スポートルートは仮にホールドがつながっていたとしても,そこにボルトを打たなければクライミングとして成立しません.ボルトを打つ過程でたとえ10mm程度と小さいサイズといえど岩に穴をあけることになります.またそこにボルトを埋め込み長期的に残し続けることになります.これは確実に人為的な行為でしょう.

 一方でクラッククライミングは自身でプロテクションを設置し,その設置したプロテクションは回収するため岩を傷つけることなくクライミングを楽しめます.

 また登るラインに関してもクラッククライミングの方が”自然”かもしれません.というのもグラウンドアップで開拓された一部のクラシックルートは除き,多くのボルトルートは登れる可能性のあるラインを見つけ出し,そのラインに対してトップダウンでボルトを設置します.これはもしかしたらクライミングの本質である”下から上を目指して登る”という行為とは矛盾するのかもしれません.

②自分でプロテクションをセットする戦略性

 トラッドクライミングのおもしろさのひとつとして自分でプロテクションをセットする戦略性があります.そのクラックにカムをセットするのか,ナッツをきめるのか,あるいはプロテクションはセットせずにジャミングに使うのか.クライミング以外にも考えることは沢山あります.

 カムを連打するのもランナウトするのもあなたのさじ加減次第です.カムをたくさんきめることで安全性や安心感は高まりますが,一方でその分消耗は大きくなります.カムを減らせば消耗は減らせますが,心理的な負荷は高まることもあります.どちらが完登に近いかはその時々で全く変わってきます.

 同じルートを登っていても,ジャミングの方法や,プロテクションの数や種類など十人十色なのがクラッククライミングです.

③「持てる」と「持てない」の間にあるたくさんの「頑張る」

 3つ目はかなり筆者の主観的な意見となります.

 スポートルートのホールドの場合,ある一定のラインを越えるとフィジカル的にどうあがいても持てないようなホールドがでてきます.またギリギリ保持できるようなホールドでも強度が高くなってくると自分の意思に反して指が開いてくる感覚があります.

 でもジャミングの場合,この開いてくる感覚というのはそこまで多くないような印象があります.どちらかというとじわじわとずり落ちてくるようなイメージで,これに対しては「頑張る」ことがひとつの解決策になります.もちろんフェイスのホールドも「頑張る」ことである程度保持できる部分もありますが,この「頑張る」の幅がジャミングの方が多い気がします.

④クラックができないと登れない素晴らしいルートが沢山ある

 クライミングの歴史的な背景を考えると,現代のようにスポートクライミングが全盛期となる前には確実にクラッククライミングの時代がありました.日本ではいまから40年ほど前には現代の基準で評価しても質が高いとされるようなメガクラシックと呼ばれる人気ルートが多く生み出されました.

 小川山レイバック,クレイジージャム,春うらら,スーパーイムジン,ローリングストーン,タコ,スカラップ...etc

往年の名クラシックルート「イムジン河」
日本で最初の5.13という噂もある「スカラップ」

 これらのルートを登ろうと思ったらクラック技術は必須となります.クラシックルートだから必ずしも素晴らしいというわけではありませんが,新しい技術を習得してでも登る価値のあるルートは沢山あります.

⑤マルチピッチやアルパインでカムセットやジャミングが役に立つ

 「どちらかというとアルパインクライミングの方が好きで,フリークライミングはあくまでもトレーニングとしてやってます.」というクライマーも少なからずいるかもしれません.ですがそのようなクライマーこそクラッククライミングをはじめていただきたいです.

 アルパインクライミングというのはクライミングという名こそついていますが,下から上を目指す過程のツールとしてクライミングを行っているだけであって,むしろ本質的には登山の方が近いのかなと思っています.

 当然山においては事前にボルトを打っておくなんてことはできないので,基本的には自分でプロテクションを設置する前提となります.もちろん日本の山にはいたるところに残置ハーケンやリングボルトがあってこれらをプロテクションとして使えますが,何十年も前に打たれたこれら遺物は到底墜落荷重を支えられるものではありません.そうなると自分の命を預けられるのは自分でセットしたプロテクションのみとなります.クラッククライミングで習得したプロテクションセットの技術はここで役に立ちます.

 またフリークライミングよりはるかに墜落に対して忌避されるアルパインクライミングですが,山の岩は脆くガバやカチのようなホールドは剥がれる可能性があります.それに比べるとクラックがそれごと崩壊する可能性がだいぶ低く,ホールディングとしてのジャミングも役に立ちます.そもそもジャミングができないよりもできたほうがクライミングの選択肢が広がるのでより安定して登ることができます. 

きっとクラックが好きになるエリア別おすすめルート

 ここまで読んでくださった,あなた.ほら,クラッククライミングがやりたくなってきたんじゃありませんか?

 世の中に素晴らしいクラックのルートは沢山あれど,たしかにクラッククライミングの敷居が高いのは事実です.そんなわけで最後に気持ちよく登れて,きっとクラックが好きになる,そんなルートをいくつか紹介していきます.

小川山

 小川山は日本のヨセミテとも呼ばれる花崗岩のビッグエリアです.クライミング黎明期に開拓されたこともありクラックのルートは沢山あります.

小川山レイバック(ハンド)5.9+

小川山のクラックといえばこれ!こんなきれいな岩があるのか!?と度肝を抜かれます.さらにしっかりときまるハンドジャムでぐいぐい登っていける最高のルートです.

小川山レイバック
マガジン(フィンガー)5.10a

 フィンガークラックというと難しいイメージがありませんか?そんなときにはマガジンがおすすめです.ボトミング主体で綺麗なコーナークラックを登るため手も足もフィンガーの割に気持ちよく決まります.まずはトップロープでなれたらぜひリードに挑戦してみてください.

ジョイフルジャム(ハンド)5.9

 こんな気持ちのいいクラックがあってもいいのか!?ちょっと長いアプローチを経て,短いハンドクラックを登る.割に合わない気もしつつ弟岩のピークに抜ければ景色は抜群でそんなことは忘れてしまう.小川山で一番最初に触るクラックにおすすめです.

ジョイフルジャム

瑞牆

 クラックという観点でいうと瑞牆は小川山よりもやや癖は強いかもしれません.その分ある程度経験を積めば面白いルートが沢山あるのでついつい通ってしまう,そんな岩場です.

モツクラック(フィンガー~ハンド)5.8

 瑞牆には入門的なクラックは多くはないけれどしいてあげるならこれ!アプローチも近く長さも十分,おまけにスポートのエリアにあるからカムを使って登れば周りに一目置かれる.ジャミング自体はハンドからフィンガーですが傾斜も緩めで初心者でも楽しめる,そんなルートです.

城ヶ崎海岸

 冬のクラックのエリアといえば一番に上がるのが城ヶ崎海岸.城ヶ崎は強傾斜の3Dクラックが売りですが,ファミリーエリアには入門的なクラックがたくさん!

シスタークラック(ハンド)5.9,ベビークラック(ハンド)5.8

 ファミリーエリアは入門から中級くらいまでのクラックがそろっていて冬のクラックトレーニングに最適です.トップロープも張りやすくちょっと背伸びをしたルートにも触れるかも?シスタークラックとベニークラックはバチぎきハンドで気持ちよく登れます.

瑞浪

 こちらも冬の岩場で,東海には数少ないクラックのエリアです.採石場跡地でちょっと独特な形が集まっています.ここで注意点は間違っても最初に「新人クラック」を触らないこと!!グレードと名前からついつい触りがちですが,最初にこれを触るとクラック沼には入れないかもしれません.

アタックNo.1(ハンド)5.10b

 低グレード帯は基本的に辛めの瑞浪ですがアタックNo.1は適正な感じです.出だしはボルトですが通番からクラックルートになります.ジャミングもよく効くし,全体とを通して長さもあるし気持ちよく慣れます.前半のフェイスが問題ない人はわりと登りやすいかも!?

アタックNo.1
アタックNo.1
ゆうこ&やよい下部(ハンド)5.10c(下部のみ)

 ゆうこ&やよいは瑞浪のクラックではグレードが高い方ですが,下部のハンドは素直なクラックでよい練習になります.上部は花崗岩特有の癖の強さがでていますが,トップロープを張って下部を触ればよい練習になります.

名張

 凝灰岩の柱状節理からなるクラック天国で.1日中クラックだけを触ることができます.ローカルルールがあったりちょっと敷居が高いですが気がつけば沼に使っているはずです.

クラックベイベー(ハンド)5.7

 バチぎきハンドからワイドハンドが続く気持ちのいいルート.筆者が知る中でもっともハンドクラックなルート.

baby crack5.7

さあ,カムをもって飛び出そう!

 長々とクラックについて語ってきましたが,これだけは断言できます.

 クラックはおもしろい

 まだクラックをやっていない人はチャンスです.あなたはまだまだクライミングを楽しめます.思い立ったが吉日でぜひはじめてみてください.そうして気が向いたら「至高のルート紹介」を読んでください!!

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました