そのルートの存在は何十年も前から広く知られているにも関わらず登った人は全宇宙にたった一人しかいない.自分は二人目になりたいわけじゃない.でもどうにもこのルートに魅せられてしまったようだ.

三段ハング
『#御在所はいいぞ』で知られる御在所山には実は西日本最難クラスのクラックルートがある.それが三段ハングだ.藤内壁の最上部に位置しており,おそらく御在所で一番映えるルートだ.

このルートは古くから登攀の対象となっており当初は人工登攀で登られていた.その後,国内で生じた人工ルートのフリー化の風に乗り多くの(?)クライマーがトライを重ねたが初登されたのは2019年とずいぶん最近の出来事だ.そして2026年現在再登者はいない(と思われる).
5.14というグレードは一般的なクライマーである筆者からすると超常的なものであるが,おそらく世界中にこのグレードを登るクライマーは数えきれないくらいいる.日本に限ってみても同程度の難易度である(と推測される)ルートであるMARSで9人,デイドリームで5人が完登している(筆者の小さな情報網に入ってくる情報に限られるので実際はもっといるかもしれない).

それなのに三段ハングだけ再登者が出ていないのはおかしいじゃないか.そこには単純な難しさだけではなく,御在所という辺境の地にあること(少なくともクライマー層の厚い甲信・関東エリアから見ると)やそのアプローチの遠さ(登山口から2時間弱)のため母数となるトライ人数が少ないのではないかと推察する.小川山とか瑞牆にあったらもう少し再登者がでそうな気がする.
一人で臨んだ3日間
幸いなことに東海エリア在住の筆者にとって御在所は近い山だ.クライミングを始めたときから御在所には何度と足を運んでいる.その中でいつも目にする三段ハングに興味を持つのは自然なことだ.
そんなわけで実際に行ってみた.とはいうものの近くに他の課題はないのでパートナーは見つけられずとりあえずはひとりで行ってみた.
1回目は主にアプローチの確認とともにLRSで離陸のみ触った(というか途中で心が折れて敗退した).2回目はトップロープソロでトライをしてみようと思い行ったが再び心を折られ上部だけ触って帰宅.そして3回目で(これもトップロープソロ)初めて通しで触ることができたが,3日目にして自分の手に負える課題ではないことをようやく理解した.

3日のトライで『登れない』は傲りが過ぎる
最初は「自分の手に負えない課題とわかるまで3日もかかった力量をはき違えた愚か者だ」と思った.もちろんその節はある.本来5.14aというグレードは自身にとってオーバーグレードも甚だしい.それにこれまでも自分よりはるかに強いクライマーたちが挑戦し跳ね返された課題である.登れるかもと思う方がどうかしている.
そんな風に不貞腐れながらなんとなくROCK&SNOW86号を手に取って初登記録を読み返した.
長くプロジェクトとして存在していたこのクラックに、初めてトライしたのは2015年5月。(中略)
初めてクラックを見上げたとき、それほど圧倒的に思えなかった第一印象は、取付いてみると一変。張り付くことすらままならず、ほとんどロープにぶら下がってクラックをまさぐっているだけなのに指は血だらけ。「これは自分には登れないな」と、ほとんど諦めかけていた(中略)血だらけの指をクラックにねじ込んだその日最後のトライで、ほんのわずか「トライを続ければ進歩する」という光明が差しました。
(中略)
2017年11月、シーズン最後のトライでお互いに全ムーブを解明。ただ、つなげられる自身は私にはまだなく、(後略)
ROCK&SNOW086 御在所のフィンガークラック「三段ハングクラック」5.14a初登 浦野誠動
自分が愚かだったのは『自分の力量を測り違えた』からではない,『たった3日のトライで登れないと決めつけていた』からだと気がついた.様々な難ルートを攻略している浦野氏でさえ,ムーブの解明には2年かかっている.それをどこにでもいる平凡なクライマーである自分がたった3日のトライで何を言っているのか.いくらで何でも傲りが過ぎるだろう.

実際に流れ星をトライしたときも,The progressionをトライしたときも,スカラップをトライしたときも最初は何もできなかったではないか.もちろんこれらのルートとは数字ひとつ以上違うので同じ理屈は成り立たない.だからと言って3日で『登れない』と判断するにはいささか早すぎるような気もしてきた.
冷やかしでも面白半分でもいい
かといって現実を目の当たりにした以上,黙々とひとりで通うモチベーションは残っていない.だけども,もし万が一誰かのモチベーションに便乗させてもらうことができたのであればまだ頑張れるかもしれない.その場合は僕もそのモチベーションの火に薪をくべることくらいはできるので.
もし興味があれば冷やかしでも面白半分でも大丈夫です.このサイトのコメントでもお問い合わせでも,Xでもインスタでもいいので連絡ください.

- グレード 5.14a
- 初登者 浦野誠動
- 初登年 2019年
- サイズ #0.3~0.75
- ルート長 7m
- 傾斜 140度
- 場所 御在所藤内壁(裏道登山口から1時間30分程度)
- シーズン 5~10月




コメント