イマジン5.11+|豊田大田エリア~忘れ去られた一筋のクラック~

トラッドクライミング
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 東海クライマーがよく行く岩場といえば,スポートなら鳳来や笠置山,クラックなら瑞浪や名張,マルチなら御在所と相場は決まっている.その中で一般的に豊田と言われるこの一帯はボルダリングの一大エリアとして知られている.

 豊田はボルダリングのエリアではあるが天ヶ峰や古美山といったリードクライミングができる岩場も申し訳程度に存在していている.だがこのどちらでもない大田と言われる完全なボルダリングのエリアに,場違いとしか言いようがないクラックのルートが1本だけ存在している.それがイマジンだ.

イマジン

ボルダーの聖地 豊田

 日本を代表する企業であるトヨタ自動車のおひざ元である豊田市.その市街地から20分ほど車を走らせ丘陵地帯にクライマー界隈で「豊田の岩場」と呼ばれるクライミングエリアがある.小川山や瑞牆のように巨大な岩壁や岩塔があるわけではないが,ボルダーと言われるようなサイズの花崗岩の岩が散在している.Climbing-Netによるとそのルート本数は2000本ともいわれておりその多くはボルダリング課題だ.

 点在する岩の中には10mを越えるような巨大なものも混じっておりそのような岩はリード課題としても登られる.とはいうものの豊田の主役はボルダリングであって,ルートの課題はせいぜい数十本,エリアとしてはたったの2つしかない.リード課題の特徴としてはスラブやスラブ系フェイスが多くいわゆる花崗岩の岩場といった感じだ.クラックの課題に関しては筆者の知る限り片手で数えるほどしかない.ボルトルートがほとんどだ.

その名はイマジン

 定番トポである「日本100岩場 東海・関西編」では豊田の岩場の紹介に多くのページが割かれているが,そのほとんどはボルダーのエリアでリードクライミングをする人が訪れるエリアはほとんど「天ヶ峰」か「古美山」だけでありその他のページは読み飛ばすことになるだろう.だが,時間のある時にパラパラとページをめくっているとボルダリングエリアであるはずの「大田」エリアに1本のクラックルートが載っていることに気がくかもしれない.

日本100岩場 東海・関西より引用

 「イマジン」と書かれている.どうやらクラックのルートのようだ.調べていると驚くほど情報が少ない.Webで調べてみると2つか3つほど記事が載っているだけだ.知り合いで登ったという人も聞いたことがない.だが別にこのルートは非公開なわけでもプロジェクトなわけでもない.ただただ潜んでいるだけなのだ.少ない情報からこのルートの想像を膨らませる.

Rock&Snowより引用

ボルダーの血脈

 幸い豊田の岩場は遠くなかったので休みの日に探しに行ってみることにした.ちょうどイムジン河を登り,5.11台後半のクラックに飢えていたタイミングだ.駐車場に車を止め最初は登山道だが途中から踏み跡に入る.相変わらず100岩場の概念図は頼りにならないがさすがに人気のボルダリングエリアなだけあって踏み跡は比較的明瞭だ.小一時間ほど道に迷い件の岩を発見した.場所さえ知っていれば10分もかからない至近のアプローチだ.

イマジン

 さて,問題のイマジンだが,尾根の踏み跡から少し降りた斜面にあった.15mほどの高さの岩にすっぱりと切れたクラックが走っておりその両側は白い花崗岩で美しい.岩の上は10m×10mほどの広いテラスになっており尾根からそのまま歩いて行ける.この巨大な岩にはイマジン1本しかルートはなく,終了点を含めボルトは1本もない.最後はマントルを返して岩の上に立つようだ.サイズこそボルダーとは言い難いが,しっかりとボルダーの流れを受けている.登る前からわかる,素晴らしい課題だ.

隠伏する極上クラック

 イマジンを眺める.上部はクラックが閉じているようだがちょうど閉じるくらいから左側にクラックが現れ自然につながる.フィンガーサイズのクラックでカムのサイズでは0.3~0.5くらいだろうか.部分的にオフセットしている.出だしは120度ほどに被っていて一つの核心だと予想できる.この部分は豊田の花崗岩らしからぬ感じでつるつるだ.そこを越えてからも90度を少し超えた傾斜で見るからにストレニュアスだ.左のクラックに移ったあとはハンドジャムがよく効きそうだが,前述の如く最後はマントルを返す必要がある.

 登ってみると先に立てた予想はおおむねあたっていた.出だしの核心部は2-3級くらいあるのではないか?最初に触ったときはムーブが起こせなかった.リーチ次第ではもっと厳しいものになるだろう.その先もムーブは明瞭だがいつでも落ちられる緊張感のあるムーブが続く.左のクラックも微妙に遠い.あまり登られていないらしくチョークの跡は全くないし,岩の粒子も粗い,おまけにクラックの中にはセミの抜け殻が挟まっている.一体いままで何人がこのルートを登ったのだろうか,そんなことを思いながら課題に打ち込む.

imagine

 ルートを見る前,触る前にできる限りの情報を集め,このルートを「imagine」した.それは想像を通り越して妄想といってもよいかもしれない.だが自然の造形を人間が思い描くことができるはずもなく実際のルートは見事にその想像をはるかに越えてきた.ボルダーの聖地である豊田の森にこんな素晴らしいルートがあるなんて誰が想像できようか,だがそれだけに惜しい.このルートが生まれたのが瑞牆なら?小川山なら?あるいは瑞浪でも,きっと四つ星ルートになっていただろう.とはいえこの豊田という土地こそがこのルートを生み出したのであり,また言わずもがなそういう所もこのルートの魅力的であろう.

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