錫杖岳といえば登山対象としての認知度は低いですが,知る人ぞ知るロッククライミングのルートが沢山ある人気のエリアです.左方カンテ,1ルンゼなど入門的なアルパインクライミングが楽しめるルートはシーズンになると多くの人で賑わいます.
一方で錫杖岳には入門ルートだけではなく,しっかりとトレーニングをした人や一部のエキスパートしか受け付けない厳しいルートもたくさんあります.
今回はそんな中でもしっかりとしたフリークライミングが楽しめる黄道光(こうどうこう)を紹介していきます.
- 錫杖を,いや日本を代表するマルチピッチルート!!
- 核心ピッチは5.11c,55mと圧巻!
- アルパインのエリアにおいて充実するフリークライミングを楽しめる
錫杖岳
錫杖岳は日本百名山のひとつである笠ヶ岳の南に延びる稜線に位置する標高2168mの山です.一般的な登山道はなく,登山者にとってはあまり馴染みのない山かもしれません.しかし,錫杖岳には前衛フェイスをはじめとした巨大な岩壁がありクライマーにとっては本格的なロッククライミングが楽しめる山になります.

左方カンテや1ルンゼなど入門的な立ち位置にあるルートは人気がありシーズンになると渋滞ができるほど賑わいます.
- 左方カンテ
- 1ルンゼ
- 3ルンゼ
- 注文の多い料理店
しかし,錫杖岳にはこれらの入門的なルートだけではなくデシマルグレードがつくような中難度や高難度のルートも多く存在しており,フリークライミングで修練したクライマーの挑戦の場という側面も持っています.
黄道光
錫杖岳の中でも多くのクライミングルートが集まる前衛壁は1~3のルンゼに分けられた4つのピークからなりますが,その中でも花形というべき岩壁が超人気ルートである左方カンテや注文の多い料理店,日本屈指の難易度を誇るラ・カンパネラ,そして今回紹介する黄道光などが拓かれているP1です.

P1はカンテを挟んだ2枚の巨大なフェイスを中心に構成されています.前衛壁をみたときにまず目を引く白壁,そしてこちらもすっきりとした1枚の岩壁である北沢フェイスです.
黄道光は2002年にフリークライミングのレジェンドである大岩夫妻を中心にこの北沢フェイスに開拓されました.ナチュラルプロテクションとボルトのミックスルートでアルパインクライミングのルートながら最大グレード5.11cとしっかりとしたフリークライミングを楽しむことができます.2022年に出版された「日本50名ルート」にもその名を連ねています.
アプローチ
黄道光の取付きは左方カンテと共通です.左方カンテは錫杖岳の前衛フェイスと呼ばれる岩壁にあります.新穂高にある槍見館脇からクリヤ沢の登山道を登り錫杖沢出合まで1時間半ほど登ります.そこからさらに1時間ほど錫杖沢を登ると前衛フェイスの基部に到着します.
装備
筆者たちが黄道光を登るのに使用した装備を紹介します.
- 60mシングルロープ
- 60mダブルロープ
- アルパインヌンチャク 120cm 4本,60cm 6本
- クイックドロー 16本
- キャメロット #0.3, 0.4, 0.5, 0.75, 1, 2, 3×2セット
- 個人登攀具(ハーネス,ヘルメット,クライミングシューズ,確保器,,)
- 捨て縄(敗退用)
黄道光の2P目は55mあり60mロープが必須です.またこれだけの長さがあるので基本的にはダブルロープ推奨ですが,筆者たちは60mのダブルロープが1本しかなかったのでシングルロープで登り,下降時のみサブで持って行った60mダブルロープを使用して懸垂下降を行いました.
また最終ピッチはトポによるとボルトが16本あるとのことです.たしかにたくさん打ってありますが,ボルト間隔が非常に近いところもあり通常はある程度間引きながら登ることになるので気持ち少なめでも間に合います.
ルート紹介
黄道光はアプローチ的な意味合いをもつ左方カンテと共通の1P目と歩きの3P目も含めて全5Pのルートです.これ以外のピッチは全部5.11台でありピッチ数は少ないながらも非常に充実します.核心ピッチは55mもあり完登には心技体いずれも必要になってくることでしょう.
1P目 Ⅲ級(左方カンテと共通)
黄道光の1P目はアプローチ的なピッチです.左方カンテの1P目と共通でⅢ級程度なので実力のあるパーティならロープなしで上がることもあるようです.
傾斜の緩いルンゼを岩や灌木をつかいながらぐいぐいと上がっていきます.30mほど登ったところで途中右壁にボルトが打たれているところがあり,これが黄道光のラインとなります.残置スリングの巻いてある木でピッチを切ります.
2P目 5.11a
この2P目からがいよいよ黄道光のオリジナルラインとなります.2P目は25mほどのフェイスでオールボルトのピッチです.

出だしは大きい動きでカンテのレッジに乗り移り,そこからパワフルなレイバックで核心部分を越えていきます.細かいホールドが続くフェイスを少し登ると傾斜が落ち,ようやくレストができるようになります.
そこからは右に抜ければ草付きを歩いて登ることもできますが,ボルトは直上のスラブに続いておりこちらもなかなかいやらしいです.
全体を通して5.11aの範疇かとおさまるかと思いますが,しっかりとしたフリークライミングで朝一からなかなか強度のあるピッチでパンプ必至です!!
2P目の終了点から北沢フェイス下部にあるピナクルに向かって簡単な草付きを歩きます.トポではこの歩きの部分を3P目としている場合もあります.
3P目 5.11c
黄道光のハイライトであり,核心となるのがこの3P目です.北沢フェイスの1枚岩をピッチを切らずに55mもの長さをつなげて登っていきます.
前半部分はサンシャイン・クラックと呼ばれる見事な左上クラックでクラックが閉じてからは85度ほどのフェイスを細かいホールドで登っていきます.一見,傾斜が緩いように見えますが途中2回の小ハングもあり,実際に取付いてみるとそれなりに傾斜を感じます.

3P目はハング越えからはじまります.ピナクルの上に立ってハング上のハンガーボルトにプロテクションをとってからポジティブなホールドを使って思い切って登りだします.その後は少しバランシーなムーブが続きますがクラックを少し登るとすぐに2つ目のハングにぶつかります.
2つ目のハングを利きの悪いジャミングとフェイスムーブで越えた後はいよいよメインのクラックです.

サンシャインクラックは意外とガタガタしていて左上もしているため純粋なクラック上りというよりはフェイスのホールドも使いながら登っていきます.長い長いクラックを20mほど登ると右上にハンガーボルトが出現してきてそれを目印にクラックが閉じてきますが,そのた後はフェイスに絶妙にホールドがつながっておりここが核心となる場合が多いでしょう.

登り始めてから40mほど,核心部分を越えたあたりで小テラスがあり,ここでピッチを切りたくなりますが本来の終了点はまだまだ先になります.弱い気持ちをぐっとこらえてこの後も気が抜けないフェイスを登っていきます.扇テラスと呼ばれるビバークもできそうな広いテラスでようやくこのピッチは終了です.
4P目 5.11c
3P目の陰に隠れておまけになりがちな4P目ですが,このピッチもぴかいちです.ありきたりな言葉で恐縮ですが,これが地上にあったら三ツ星間違いなしの好ルートです.長さもしっかり40mあり,3P目よりも傾斜が強くなります.

出だしはフェイスに散らばったホールドを繋ぎながら上部に見えているハングに向かって右へ左へとラインを求めて登っていきます.ボルトは豊富にありこまめにプロテクションが取れますが,逆に多すぎるので少しは間引きながらでもいいかもしれません.
ある程度登るとボルトがなくなりますが,今後は右上にクラックが出現しカムでプロテクションをとることができます.でだしはバチバチのフィンガーサイズですがフェイスのフットホールドも交えながら少し登ると快適なハンドサイズに広がります.

クラックに沿って登っていくとそのままハングにぶつかります.一見難しそうなハングですが,実際はハング真っ向勝負ではなく,その隙間にある弱点をついて登っていきます.

2つのハングを越えた後は核心部分となるホールドがわかりにくいフェイスをトラバースするとこのピッチの終了点となります.終了点は壁の途中で少しだけ中途半端です.黄道光はここで終了ですが,上部に北沢デラックスの5.11b,その先に左方カンテがあるので時間のあるパーティは継続すると充実すること間違いなしです.
まとめ
高難度アルパインフリーの代表的なルートである錫杖岳の黄道光について紹介してきました.4Pと一見短いですが,オリジナルの3Pは長さもありその内容も濃く充実すること間違いなしです.
錫杖岳はアルパインクライミングのゲレンデとして人気のエリアですが,たまには山の中での本格的なフリークライミングを楽しんでみてはいかがでしょうか?


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