七面山南壁LongHope【山行記録】|2026年5月

アルパインクライミング

 人類がクライミングという活動を精力的に始めてから100年ほどが経っただろうか.決して長くない年月ではあるが,それぞれの時代においてクライマーを名乗るのであれば登っておきたいルートがある.

 七面山南壁にあるLong Hopeはまさにそんなルートだ.現代のクライマーを名乗るからには一度はこのルートを目指す義務があると言っても言い過ぎではないかもしれない.今後そんな挑戦をする人々の一助となるべくここに登攀の記録を残す.

七面山南壁 Long Hope

 初登者によると七面山南壁自体は決して新しい壁ではなく,1960年から70年代にかけて手を付けられていたようだ.そこに50年以上のときを越えた2019年に1本のマルチピッチルートが開拓された.それがLong Hopeだ.

 ロープスケールで450mにも及ぶ壁を全12ピッチのオールフリーで登っていく.マルチピッチやアルパインクライミングにありがちなほぼ歩きみたいなピッチがほとんどなく,特にアプローチとなる3ピッチ目を終えてからは1枚の巨大なフェイスを登っていく.そしてクライミングの内容自体もいたって現代的なフリークライミングである.

フリーでもアルパインでもない山の壁

 このルートは開拓者によって100本以上のボルトを打たれ,おそらく唯一といっていいほど合理的にラインを引かれている.山頂からのラッペルダウンで開拓されており,いわゆるアルパインクライミングというわけではないが,小川山や瑞牆あるいは御在所といった半ばゲレンデ化している岩場とはまるで違う.正真正銘『山の壁』なのだ.

 そのためフリークライミング気分で挑むと痛い目を見るかもしれない.高度感や体力の消耗はまさにビッグウォールのそれだし,若干のもろさが残る岩質は山の壁ならではだ.核心ピッチのグレードこそ5.11-であるが,5.12を触るくらいの登攀力があった方が楽しめると思う.

情熱の軌跡

 このルートに挑戦してみようと思う人はぜひ開拓者の記録を読んでいただきたい.もちろん冒険性を重要とするのであれば登攀後でも構わない.このバックストーリーを知るか知らないかでルートの見え方が変わってくるだろう.

 常人であればこの壁にボルトの1本でさえ打とうとは思わない.こんな秘境の壁にあるつながるかどうかわからない壁に,1本のラインがつながると信じてひたすらに開拓を続ける.そこには半ば狂気じみた情熱が必要だろう.その大仕事をやり遂げた開拓者一同には尊敬の念を抱かざるを得ない.

 遥かな夢、遠いアプローチ、壮大なスケール、長いピッチ・・・このラインを『Long Hope』と名付けた。みんなの支え無しではこのルートの完成は成し得なかっただろう。素晴らしい、最高の仲間に恵まれた。最高に楽しく、充実した日々だった。消えることのない、僕の一生の思い出だ。

七面山南壁 Long Hope ~Climbing Guide~

 さて,前置きが長くなったが以下がこの記事の本旨となる山行の記録である.

概要

日程 2026年5月

天気 両日とも晴れ

パートナー たまさん

コースタイム

初日

駐車場(13:08)-登山口(14:34)-ビバーク地(16:35)

2日目

ビバーク地(04:48)-取付き(05:59)-登攀開始(06:20)-2P目開始(07:02)-3P目開始(07:33)-4P目開始(07:46)-5P目開始(08:52)-6P目開始(09:52)-7P目開始(10:52)-8P目開始(11:31)-9P目開始(12:18)-10P目開始(13:26)-11P目開始(14:19)-12P目開始(14:35)-終了点(15:34)-西峰(15:44)-ビバーク地(15:53-16:21)-登山口(17:14)-駐車場(18:10)

登攀時間 9時間14分

装備(登攀具)

60mシングルロープ,60m2mmパラコード(敗退時回収用),クイックドロー8本,アルパインヌンチャク8本(60㎝&120㎝),アルパインヌンチャク支点用,捨て縄5m

詳細

 ここからが山行記録の詳細となる.

背景

 この冬はボルダリングをすることが多かった.暖かくなってからもなかなかにリードに切り替えられず漫然とボルダリングをしていた.さすがにこのままじゃまずいと思い動き出すことにした.そうだ!どうせリードをやるならマルチがいい.うんと長くてうんと気持ちのいいマルチがいい.そうしてロングホープに行きたくなった.そんな中でたまさんを誘ったら二つ返事でOKをもらえ今回の山行に至った.

初日

 愛知から昼食を入れつつ5時間ほどで駐車スペースに到着する.すでに車は4台泊まっており,友人からの情報通り他にもLong Hope狙いのクライマーがいることが予想される.

渡渉から始まる

 踝くらいの深さの渡渉からアプローチが始まる.この時期なのに水がとても冷たかったが,足の向くんだ帰りには逆に心地よかった.渡渉先にサンダルをデポして長い林道歩きが始まる.

ひたすら林道歩き

 かつては車が通っていたことを思わせるコンクリートで舗装された長い林道を歩く.落石はゴロゴロと落ちているし所々崩落しているしで今はたとえジープであっても来るまでは走れないだろう.

七面山登山口

 1時間ほどで七面山登山口につき,ここからは登山道となる.最初は急登だが歩きやすい杉林を300mほど登る.かつては林業が盛んだったのだろう.一見自然のように見えて完全に人の手によって作り出された擬似自然ともいえるのかもしれない.今は生い茂った杉の木が花粉症という弊害を生み出している.

尾根歩きも長い

 尾根にあがると今度は自然に生えた気が生い茂っていていかにも山道といった感じ.

空が見えたらあと少しで山頂

 山頂が近くなると植生が変わって一面笹になる.視界は開けるがなかなか最後の一登りがしんどい.東西峰の間のコルに適当な場所を見つけてビバークとした.

アプローチ

 Long Hopeのアプローチはスタイルによって複数あるようであるが筆者たちは1泊2日の行程であり七面山登山口から七面山山頂経由でのアプローチを選択した.このアプローチに関しては下記サイトを参照にした.そのほかにもヤマケイやYAMAPなどにも複数記録があがっている.

 西峰から東峰を経由せずに楊枝ノ森方面にあるくとすぐに漏斗状のガレた沢に出くわす.ここから倒木を頼りに沢におりた.地形図を見ながら途中で尾根にも上がりながら沢筋を150mほど下っていくと運よくピンクテープを発見した.

漏斗状沢地形

 そこからはピンクテープを辿って尾根を下降,岩壁が見えてきてからは岩壁基部をトラバースしていくと最下部でLong Hopeの取付きとなる.

 このトラバースが思いのほか長く,まだかまだかと思う.岩壁があっては「Long Hopeか?」と思うが,期待は裏切られる.そんなことを3回ほど繰り返すと本命の岩壁にたどり着く.長いアプローチだなと思うが,よく考えてみると下からアプローチした際に最も近いのも,登攀する際には最も長いラインをとることができるのもこの壁だ.クライミングという壁を登る行為をするために上から下ってアプローチする我々の方が非合理的なのだということに気がつく.

Long Hope

 ここからはいよいよ登攀の記録となる.オンサイトに差し支えるような情報は書いていないつもりではあるが,これを読むことで多少なりとも冒険性は損なわれるはずなのでそこにこだわる人は完登後にぜひ読んでもらいたい.

1P目 5.10- 【体感グレード 5.10-】

 濡れていることもあるとトポには書いていあり,経験者からは濡れているとかなり怖いとの話も聞いていたのでドキドキしながら取付きまで行った.確かに見た目は水の通り道になっている様子だったが,幸いなことに岩は乾いていた.幸先よし!

 準備をしながら先行パーティのトライを待っていると「ラークッッ!!」という音とともにゴリラの拳大の石が落ちてきて目の前で砕け散った.後には焦げ臭いにおいが残っていた.どうやら脆い岩質のようだ.

 岩は乾いてはいるものの出だしからなんだか気持ち悪い.そのあとも傾斜は緩いがホールドは外傾しており丁寧に登る必要がある.確かにグレードとしては5.10-かもしれないが,気を引き締めて取付いた方がよいだろう.ちなみにガイドとなるボルトは草が被っていて見にくい. 

2P目 5.8 【体感グレード 5.9】

 2P目も1P目同様にブッシュとブッシュの間の岩を巧みにつないで高度を上げていく.グレードに関しては5.一桁台であることは間違いなさそうだが実のところはわからない.

 1&2P目はメインウォールへのアプローチ的な立ち位置だが,この2ピッチがロングホープを極上のマルチにするのに一役買っているのは間違いない.もしここがアルパインクライミングにありがちな藪漕ぎのピッチだったらその魅力は一気に色褪せていただろう.このラインを見出した初登者一同の慧眼には感服する.

3P目 Cont. 【体感グレード Ⅱ】

 2P目が終わるころにはルンゼも細くなる.途中藪を歩きつつ,メインウォール基部までアプローチする.左上ポイントを見落としてルンゼを直上しすぎクライムダウンする羽目になった.先行パーティが次ピッチにいなかったら道に迷っていたかもしれない.

4P目 5.11- 【体感グレード 5.11-】

 いよいよ長い間,期待に胸を膨らませてきたロングホープのメインディッシュだ.いったいどんな壁が待ち受けているのか楽しみでならない.その先駆けとなるのLong Hope自体の核心ともなるこの4P目だ.

 トポにあるように易しい階段状を右上する.ある程度行くと明らかに核心とわかるフェイスが目の前にやってくる.軽くルートファインディングをしてから離陸すると思ったよりもホールドが遠く次の一手が出せなくなった.とりあえずクリップだけしてぎりぎりクライムダウン.

 レストを再度オブザベーション.ビレイヤーに「落ちるかも―」と一声伝えてから突入すると作ったムーブがしっかりとかみ合い無事に突破.山の壁とは思えないフェイスクライミングで核心を越えたあとはボルトとガバに導かれて進んでいいくだけ.

 フォローのたまさんも重い荷物を背負った中,ノーフォールで核心を突破!ナイスクライミング!

5P目 5.10+ 【体感グレード 5.10+】

 5ピッチ目はフォローで登った.あまり印象に残っていないがもろい箇所が所々にあった気がする.

 さすがに南壁なだけあってこの辺りから日が当たりすぎて暑いかった。

6P目 5.10 【体感グレード 5.10+】

 弱点を突きながらフェイスを進んでいくと,ここを登れとばかりにハング脇のコーナーがある.パワフルなレイバックだが,いい位置にボルトがあり思い切ってムーブを出すことができる.トポだとこのムーブが核心となっているが,本当はそのあとのハングへのトラバース.

 ハング下からは次のボルトが見えず,左に行くか右に行くか迷いどころ.ビレイヤーにトポを読んでもらうと右にトラバースしてハングを越えるようだったので少し上がってみるとハング上にボルトを見つけることができた.リーチ目いっぱいに手を伸ばしギリギリハング上のホールドをとらえ乗越とあとは易しい.このトラバースはフォローの方が大変だったかもしれない.

 全体的にグレードは適正だったが,このピッチだけはトポのグレード以上に難しいと思って取付いた方がいいと思う.

7P目 5.10- 【体感グレード 5.10】

 トポにあるように出だしは難しかった気がするがフォローしたピッチはどうにも記憶に残りにくい.ハンギングビレイで腰が痛くなってきている.トポには比較的広めのレッジと書いてあるが,そこまで快適ではなくて基本的にはハンギングビレイが続く.

8P目(トポ:8P目前半) 5.10+ 【体感グレード 5.10+~5.11-】

 長い長いLong Hopeで5.11のグレードがついているピッチは2つあるが,これが2つ目.ムーブ的には4P目の方が難しいが,体力も加味するとこちらの方がしんどかった.

 出だしのハング越えはホールドは明瞭だがパワフル.そのあとのフェイスも気が抜けない.しっかりとフリークライミングだ.後半は傾斜が落ちて易しくなる.

 トポ上は50mで5.11-だが,心が折れて途中の終了点でピッチを切った.その場合のグレードは5.10+とのことだが,体感的には5.11あってもよいかも.

9P目(トポ:8P目後半&9P目前半) 5.10+&5.10- 【体感グレード 5.10+~5.11-&5.10+】

 折られた心はそう簡単には戻らない.ということで後半部分はたまさんにお願いした.渋々ながら受け入れてくれたたまさんは核心で行きつ戻りつしながら最終的には吠えながらしっかりと登りきってくれた!ナイスクライミング!②.たぶん自分がつなげて登っていたら落ちていたと思う.戦略的撤退ということで弱い自分を慰める.

 おまけに次ピッチの前半部分までつなげて登ってくれた.最後のハング越えのトラバースはかなり悪くて,とても5.10-には思えなかった.僕とたまさんの間では「たぶんホールド崩壊してるよね?」という結論になった.

10P目(トポ:9P目後半) 5.10 【体感グレード 5.10】

 4,5,6,7,9Pと続いてきたメインウォールのクライミングも残すところあと30mとなった!一つのフェイスをこれだけ続けて登ることができる岩壁って日本にはそんなにない気がする.ちょっとだけThe Noseに行った時のことを思い出した.

 前ピッチをフォローで登ってきた僕には当然余力なんて残っていなく,たまさんが腕をつりながら懇親のクライミングでOSしてくれた.ナイスクライミング!③.

 ハイライトというだけあってフォローでも気持ちのいいピッチだった.うまいことカチがつながっていてこのピッチだけ切り抜いても小川山とかにあったら人気のルートになっているだろうなぁと思いながらトップアウト.さすがにしんどい.軽量化のためと言いつつ水を飲み干す.

11P目(トポ:10P目) Cont. 【体感グレード Ⅱ】

 メインウォールのクライミングを終え残すところ実質のクライミングはあと1ピッチのみ!と思っていたらその前のコンテニュアスのピッチが思いのほか悪かった.ぼろいフィックスを頼りにジャルパインクライミングで草付きを登っていく.もしフィックスがなくなったらかなり怖いと思う.

12P目(トポ:11P目&12P目) 5.10- 【体感グレード 5.10-】

 いよいよ最終ピッチ!カンテを右へ左へ行きながら登っていく.ガバばっかりのウイニングランかと思いきや所々にしっかりとしたクライミングがあって最後まで満足度の高いルートだった.

やったぜ!Long Hope完登!!

ちなみにチームOS&フォローもノーフォールです(ドヤァ)

総括

 ルート自体は素晴らしいの一言に尽きる.そんな素晴らしいルートを納得のいく形で登ることができてとても良かった.本当はもっと余裕をもって登るつもりだったが,トレーニング不足のせいか実力不足かなかなかに大変だった.でもその分満足度は大きい.

 それにしても自分としては大きい壁をやりたいのに,適性のなさよ.いったいどうしたものか.そんな感じで浮き彫りとなった自身の課題をもってこの記録を終わりにしたい.

 

 

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