”ワイドクラック”
それはロッククライミングの中でも異質な領域です.拳のサイズを越え,時として体がすっぽりと入ってしまうサイズに広がったクラックはたとえ5.14クライマーであっても登りきるのは容易ではありません.
10cm,時として1㎝ずつしか体を上げることができず,そのくせ全身を使って登るのでクライミングは苦しい.サイズによっては落ちることすらできず,ただただ過酷な時間を過ごすことになることも稀ではない.そんなワイドクラックはクラッククライミングをやる人でも好まない人は多いでしょう.
一方で,登り切ったときの達成感や爽快感は他のクライミングと比べ物にならず,あえてワイドクラックを登る愛好家がいるのもこのクライミングの特徴です.
そんなワイドクラックが沢山あり,聖地とも言われるのが瑞牆にある”摩天岩”と呼ばれるエリアです.果たしてそこは天国なのか,はたまた地獄なのか.それは訪れた者のみが知ることになる...
目次
ワイドクラックの聖地 摩天岩
瑞牆山山頂に向かって不動沢の登山道を登っていくと1時間ほどで不動滝に到着します.そこからさらに30分ほど登ると目的地の摩天岩に到着します.

摩天岩は瑞牆において「ワイドクラックといえば摩天岩」「摩天岩といえばワイドクラック」といえるエリアでありたくさんのワイドクラックが集まっています.アプローチは1時間半ほどとやや遠いですが,ワイド好きであればその遠いアプローチをこなしてでも訪れたい岩場です.
5.9の入門的なワイドクラックから日本最難のワイドクラックまでとにかく幅広い(二重の意味で)ルートが集まるのでワイド好きであればだれでも楽しく登ることができます.また標高がそれなりにあり,風通しもよいため夏になっても快適です.

31個の星を獲得した岩場
瑞牆の定番トポである「瑞牆クライミングガイド」ですが,このトポでは面白さとし一般的なグレードのほかにスターグレードがつけてあります.
スターグレードでは“ルートの見た目の美しさ”,“人気度”,“適度な難しさと連続性”,“ムーブの多彩さと意外性”,“歴史的な位置づけ”,“岩や壁の状態,支点の状態”の6項目を総合的に判断して無印から四つ星までの5段階に分けられています.
摩天岩にはトポ上25本の既存ルートが引かれていますが,その☆の合計数はなんと31にもなります!!同じくクラッククライミングの超人気エリアである十一面岩末端壁の総☆数が34個なので,この☆の数だけをみても摩天岩の魅力を垣間見ることができます.また瑞牆にたった25本しかない四つ星ルートがこのエリアに2本もあることを考えるとやはり魅力的と言わざるを得ません.
ルート紹介
ここからは摩天岩のルートを紹介していきます.
電光クラック5.9 ‐まずはこれから摩天岩ワイドの入門編
電光クラックは摩天岩ワイドの入門的なルートです.2Pで構成されるルートですが,2Pまとめて登ることでグレードは5.10aとなります.

やや傾斜のある1P目,傾斜は落ち幅も広くなるが通常のカムではランナウト気味になる2P目,いずれも登りごたえがあります.クラック外のホールドも多めで,レストもしやすいので体感グレードも5.9ですが,ワイドクラックの基本的な技術が必要になってきます.
蜃気楼3P 5.10c-5.10a-5.10d ‐1P目だけじゃもったいない?最高のマルチピッチ
電光クラックから100mほど右にあるコーナーに2本の美しいクラックが見えます.これが看板ルートである蜃気楼と陽炎です.この2つはいずれも3ピッチのマルチピッチとなっていますが,その美しさ故にか1P目だけ登られることも多いです.ですがマルチピッチとしてみたときもとても素晴らしいルートなのでぜひ最後まで登ってみることをおすすめします.

蜃気楼の1P目はすっぱりと割れたコーナークラックでレイバックとジャミングを混ぜながら登っていきます.見た目よりも傾斜は強く緊張します.終了点はないのでカムで支点を構築してフォロービレイを行います.

2P目は1P目からクラックが連続しており,コーナーだったものが今度はチムニー状になってきます.スラブのスタンスと奥のクラックも使いながら高度を上げていきます.

最後はプロテクションが取りにくくやや緊張するスラブのトラバースとなり立ち木でピッチを切ります.
3P目はテラスから伸びるクラックで,出だしはリーチがないとプロテクションが取れなく緊張しますがすぐによく利くハンドクラックとなります.ここからは真っ向勝負のバチぎきハンドですが最初は傾斜も強くパンプします.15mほどのきれいなハンドクラックを登り立ち木あるいはカムで支点を作って終了です.
陽炎1P目5.10c ‐登る芸術作品
蜃気楼と並ぶ形で右に伸びるのが陽炎です.縁が流線形にフレアした神秘的なワイドクラックで,見えている部分は半分くらいです.奮闘的でテクニカルなワイド部分をこなし,クラックが屈曲した後は4番サイズが延々と続き最後まで充実間違いなしの素晴らしいルートです.

大チムニールート5.7 ‐ 瑞牆最恐の5.7
詳細は別記事で触れていますが,おそらく瑞牆最恐の5.7です.一見,簡単そうなチムニーですがいざ登ると取付いたことを後悔させられます.でもその分登りき行った時の充実感はひとしおです.クライミングにはやはり心技体いずれも必要なんだと痛感させられるルートです.

かぜひきルート1P目5.10a ‐誰もが認める最高のワイドクラック
瑞牆の四つ星ワイドクラックといえば”よろめきクラック”,”牛乳瓶クラック”,そしてこの”かぜひきルート”です.

アプローチの比較的近いよろめきクラックは比較的よく登られていますが,それよりもはるかに美しいのがこのかぜひきルートです.決して長くはありませんが,たまごのようにつるっとした縁をもつオフウィズスクラックが15mに渡って続いています.
スタンスを踏んだり,カチを持ったりなどという小細工がほとんどできず真っ向勝負のワイドクラックです.
小春日和5.10c ‐柔和な名前に騙されるな!楽ができない極悪ワイド!
摩天岩に訪れた際,一番最初に出くわすのがこの小春日和です.でだしは苔むしており時として湿っていますが,最初のテラスにたちスクイーズチムニーに入るともうそんなことは気にならなくなります.

そこからは3段にワイドが続き,ワイドを抜けたと思ってもワイド,さらに進んでもワイドと,とにかく挟まり続けます.快適なレストポイントもありますが,ここで集中力を切ってしまっては次のワイドに立ち向かえません.前に進みたくても全然進まない,かといって落ちることもできない,とにかく苦しい,そんなワイドクラックを体現した1本です.
レインボークラック5.8 ‐ワイド地獄(?)に癒しを求めて
レインボークラックはこんなワイド地獄にあって癒しのルートです.とはいうものの侮ることなかれここは不動沢.グレード以上に難しく感じる部分もあり,20mと十分な長さもあるためなめてかかると思わぬ苦戦を強いられるかもしれません.

不動の拳5.13a -日本最難のクラック
日本最難のワイドクラックが不動の拳です.エクセレントパワーやカリスマなどのスポートルートの5.13aであればおそらく100人をゆうに超えるレベルで再登者が出ていることでしょう.ですがこの極悪のワイドはおそらく20人も登っていないのではないでしょうか?

リーチがないと苦しい離陸,慣れないルーフ,強烈なワイドなどどこをとっても苦しく難しく,そして一級品のルートです.ワイドクライマーだけではなくすべてのクラッククライマーが憧れる至高の1本です.
摩天岩上部
ここまでは摩天岩下部のルートを紹介してきました.摩天岩には下部から10分ほど登ったところに上部と呼ばれるエリアもあります.摩天岩上部には摩天楼といった看板ルートをはじめ,やはりワイドクラックが集まっておりこちらも楽しいエリアです.
まとめ
いかがでしたか?瑞牆の摩天岩というエリアについて紹介してきました.
ワイドクラックの聖地
ここが天国か,あるいは地獄か,それを知りたい方はぜひ一度訪れてみてください.きっと新しい世界の扉が開くはずです!






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