昨今,界隈で静かなブームになっている(?)クライミングスタイルがある.瑞牆マルチ継続登攀である.1日で何十ピッチも登るこのスタイルはヨセミテやパタゴニアなど海外のビッグウォールに通じるものがある.今回,ノーズへのトレーニングへの一環として瑞牆マルチ継続30ピッチを行った.
目次
瑞牆マルチ継続
瑞牆といえば日本を代表するクライミングエリアで,トラッド,スポート,ボルダリング,マルチピッチなどありとあらゆるタイプのクライミングを楽しめる.その中でも瑞牆マルチと呼ばれ親しまれるマルチピッチクライミングは海外でのクライミングを彷彿させるスケールと雰囲気を持ち合わせる.そんな瑞牆マルチを継続して登るのだ.カンマンボロンや大面岩,小面岩,十一面岩には充実するマルチピッチがあり,またこれら同士は比較的近く継続に最適である.

瑞牆マルチ継続の記録としては佐藤裕介氏&横山勝丘氏の瑞牆マルチ継続50Pが有名だ.だがグレードやルート数を調整することでどんなクライマーでも楽しむことができる.

概要
日程 2024年9月21日
天候 曇り

コースタイム
駐車場(6:10)-調和の幻想取付(7:00)-終了点(8:35)-ペガサス取付(?)-終了点(?)-錦秋カナトコ取付(12:50)-終了点(13:55)-山河微笑取付(14:39)-終了点(16:35)-ベルジュエール取付(17:23)-終了点(21:10)-駐車場(22:47)
装備
シングルロープ60m,細引き4mm60m,キャメロット(#0.1~0.2×1,#0.3~4×2,#5-6×1),アルパインヌンチャク10本くらい,クイックドロー×4 etc

行動食はノーズのシミュレーションも兼ねている.ジェル×2,スポーツ羊羹×2,ラムネ,タフグミ,柿の種1袋,雪の里2袋,クリフバー,アミノバイタルプロ(1411kcal/451.4g)
詳細
ノーズトレーニングの最終調整,あるいは追い込みとして瑞牆マルチの継続登攀を行うことにした.瑞牆マルチの継続としては7月末には大面岩左稜線-一刀-ベルジュエールの継続27P680mを行ったがこれらのルートは歩きのピッチも多く体力的にも追い込めている感がなかったので今回はさらに追い込めるだろうルートを設定した.歩きのピッチはほとんどなく内容的にも手強く,かつ導線がスムーズなナイスなマルチ継続を選択できたと思う.

例の如くみずがき自然公園に前日入りし朝6時にパートナーと合流し駐車場を出発した.今回のノーズトレで幾度となく通った十一面であるがホールバックがないだけ気が楽だ.
①調和の幻想/5.10a
30分程度でアプローチをこなし何度通った末端壁へ.ペガサスやベルジュエール,初見の風鈴や山河微笑など手こずるだろう場面はいくらでもあったのでルートを把握している調和の幻想でとにかく時間を稼ぐ作戦とした.
1-2P目 フォロー
どんな1日にも最初の1本があり,それはいつどんな時でも緊張する.幸い今回はフォローからのスタートだ.天気としては高曇りで涼しく,普段は濡れ濡れの調和の幻想の出だしも乾いている.幸先が良い.パートナーがうまいこと1-2P目をリンクしてくれてほぼロープいっぱいで2P目終了点へ.
3-4P目 リード
3P目だけで終わるつもりだったが,3P目後半でロープ半分のコールがあったためそのまま4P目へ継続.はじめて登ったときはとんでもなく難しく感じたが今はそうでもない.ランナーは延長しており気軽には落ちられないが,落ちる気はしない.重いロープを引っ張りながら終了点のテラスへ.順調だ.
5P目 フォロー
今回唯一キャメロットの6番を使うピッチ.特に問題なくリードがトップアウト.フォローはとにかくスピードを意識しひたすらレイバックで駆け上がる.鋭利なフレークで手のひらを切ってしまったが大した傷ではなくそのまま登る.1時間半ほどで登攀終了.

5/30(145/835m) 2h25m
試験的に導入した1本懸垂&細引きでのロープダウンを試みるが細引きが伸びてロープがなかなか引けない.軽量化のために導入したがなるべくならやりたくないなあ.
②ペガサス1-2P~風鈴3-5P/5.10d
一つ目の核心であるペガサス.自身は大好きなルートだがパートナーは初見で実力を考えるとてこずることが予測される.また後半の風鈴は難しくはないがルートの情報がほとんどなくこちらは完全にオンサイトトライとなるため不安はあった.
1P目 リード
何度も登っているペガサス1P目.中間部の苦しい部分はやはりスムーズにはいかせてもらえない.スピードを意識しつつもそれなりに時間をかけて終了点へ.2P目もリンクしようかと思ったが今回はパートナーに譲ろう...
2P目 フォロー
個人的には瑞牆ベスト10に入るほど素晴らしいピッチ.今回は残念ながらフォロー.パートナーは離陸後2mほどで早々にエイドしていた...いやいいけれども...

後半のワイドはやっぱり左は難しくて右に逃げてしまう.35mほどある充実のピッチ.フォローでも楽しい.
3P目 リード
目の前にあるぼろぼろのチムニーを登る.よく見ると右にも左にも立派なチムニーがある.あってるのか?あってるのか?

4P目 フォロー
左の立派なチムニーに移動しチョックストーンをくぐりテラスへ.そこでピッチが切れるがパートナーは次ピッチもリンクしようとしてよくわからん凹角に入り迷子になっていた.適当なところでピッチを切りフォローも登りだす.テラスまで上がるも,もはやルートと呼べるようなところは見当たらない.
5P目 リード
下のテラスから右の木の生えた凹角を少し進み捨て縄のある所でピッチを切る.これ以上進むと大幅なタイムロスになりそうなので下降することにした.すぐ右には調和の幻想の大フレークが見えている.
10/30(275/835m)
同ルート下降しつつペガサスは避けて春うららの方から降りると60mシングル4回で下降できた.
③錦秋カナトコ1-2P~山族’79黄昏3-5P/5.10c
ペガサス&風鈴で思わぬ(想定内?)タイムロスをした.1度登っている錦秋~山賊はスピードアップのため筆者がオールリードすることに.明るいうちに終わるためには11時くらいには左岩壁に取付いておきたかったけどこの時点でおよそ13時.
1-2P目 リード
簡単な1P目はプロテクション2個だけのランナウトで突破.核心のスラブはロープが出ていたのでおちたらグラウンドフォールしそうで緊張した.ハンドジャムが決まってからは宴会テラスまでダッシュ!ダッシュ!!ダッシュ!!!
3-4P目 リード
3P目はロープの流れを気にしなきゃと思いながらも屈曲が多くてなかなか難しかった.めちゃくちゃ重いロープを引っ張りながら4P目のトラバースこなし終了点へ.
5P目 リード
出だしのワイドクラックをこなすためにキャメロット#5を持ってきたが結局使わなかった.ブリッジングでダイクにうつりあとはフェイスムーブで終了点まで.約1時間で登攀終了.我ながら頑張った.

15/30(400/835m) 7h45m
山河微笑のラインから懸垂下降.大チムニーは細引き使っての懸垂をしたがなかなかロープが引けずタイムロス.このシステム大丈夫か?
④山河微笑/5.10a
ここからは元々のツルベに戻り再び左岩壁の頂上を目指す.けっこう登ったつもりだけどようやく半分といったところ.明るいうちにはベルジュエール2P目までは終わらせたいので下りたらすぐに準備をし登攀開始.この時点で15時前.けっこうきわどい.
1P目 リード
初めて登ったが岩が脆くて緊張する.おまけにプロテクションが取れない部分もある.5.9の割には難しいよ.
2P目 フォロー
大チムニー.ひたすらバック&フット.楽しい.

3P目 リード
瑞牆本で小林由佳の写真が載っているピッチ.快適なコーナークラックかと思いきや,出だしは傾斜があって普通に難しい.おまけに岩も粗く素手ジャミング派になった私にはつらいピッチだった.後半は快適ハンド(でも痛い)で30mしっかりロープを伸ばし先ほどまでいたテラスに戻ってくる.ただいま.
4-5P目 フォロー
クライムダウンの4P目とワイドクラックの5P目をパートナーがリンクしてくれた.フォローはテンショントラバースで4P目をこなした.5P目の出だしは勇気をもってフィストをきめる.痛い.そのあとはリービテーションで快適.
20/30(545/835m) 10h25m
先は細引きを使った大チムニーのピッチも普通に60mシングルで降りられた.降りたら小走りでベルジュエールの取付きへ移動.まだ3分の2か!いや,もう3分の2か!ここからはメンタルの勝負.
⑤ベルジュエール/5.11b
パートナーが偶数ピッチを行くとのことで自分から登りだすことに.内心ほっとした.落ちられない2P目よりも難しいけど守られた1P目の方が気が楽だ.とテンションを入れる前提で考えていた.心が負けている!!
1P目 リード
というわけで本日唯一の5.11台の1P目.辺りは薄暗くヘッデンをつけての登りだし.木の高さを越えるとまだ明るいが時間の問題だ.早々に抜けなければと集中力が欠いていたのか,スラブに入るところでテンション.そこからはテンションを入れつつフリーで終了点まで.この日,自分にとっては唯一テンションを入れたピッチ(だった気がする).

2-3P目 フォロー
パートナーが登りだすころにはヘッデンなしでは登れなくらいに暗くなっていた.エイドを混ぜつつトップアウト.暗闇のスラブって足元が影になって見えないから超怖い.ロープを目いっぱい張ってもらいながらフォローで登る.
4P目 リード
スラブは怖くてもクラックなら!と思ったけどそれでもヘッデン登攀は怖い.一手一手一足一足確実に決めながらシロクマのコルまで.
5P目 フォロー
時間は19時を回り辺りは真っ暗.風はびゅんびゅん吹き普通に寒い.ビレイ中はパーカーを羽織る.正直このピッチも苦手でフォローでよかった.パートナーがナイスなクライミングで大フレークを越える.フォローはレイバックでぐいぐい登る.ヘッデン登攀に少しずつ練れてきたかもしれない.

6-7P目 リード
明るいときならなんてことないチムニー.でも今回は抜け口でてこずった.一瞬バランスを崩しヒヤッとしたけどチョックストーンのガバをつかみのっこす.
8P目 フォロー
後半の核心であり実質今回の最後のピッチ.チムニーで苦しめられたパートナーにギアを渡しそのまま登りだす.気のせいかぽつぽつ来ている気がする.雨雲レーダーを見ると35分度に「雨が降ります」となっている....なんてこった..とはいえここから降りるよりも登ってしまった方が早いので運を天に任せて登るのみ.
岩に背中を預け眠さと戦いながらビレイをしていると「うわっ!!」と絶叫,それと同時にロープにテンションがかかる.すぐ3mほど上にいるパートナーだが持った岩が崩れフォールしたようだ.幸いピナクルにかけたスリングでとまった模様.その後はエイドを混ぜつつ無事にトップアウト.どうやら雨は降らないらしい.苦しむピッチかと思っていたがフォローでもスムーズに抜けることができた.体力的にも集中力的にもまだ戦える.
9P目 コンテ
簡単な岩稜帯歩き
10P目 リード
いよいよ最終ピッチ.お約束のように,でだしの被ったクラックに「あれ?こんなに難しかったっけ?」とか言いながら登る.RCCの支点にスリングをかけスラブに立ちこめばそこは十一面岩の頂上だ.フォローも無事に到着し二人でグータッチ.設定したときは難しいかと思われた瑞牆マルチ30P継続だったが心折れることなく無事に完遂することができた.
30/30(835/835m) 15h0m 完

体力的,精神的にまだ余力があると思っていたが下山はもたつき結局駐車場についたのは23時前,行動時間16時間37分の大行程となったのであった.
総括
今回ノーズトレの最終調整として瑞牆マルチ継続30Pを行った.充実するクライミングができたが,パーティとしてエイドをしたりフォールしてRPしていないピッチもあるので不完全ではある.また実力相応といえばその通りだがグレードが比較的低めのルート選択をしていた.先々にはピッチ数や行動時間をさらに増やしたり,難易度を上げたものにも挑戦してみたいと思った.とはいえ現時点の自分たちの実力にしてはなかなか追い込めたとは思う.特に精神的にはノーズに向けての自信になった.途中何度も何度も心が折れそうになり敗退もよぎったが無事完遂できた.そして何より無茶な計画に一緒に立ち向かってくれたパートナーには感謝しかない.
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