プラチナム5.11c|瑞牆カサメリ沢

スポーツクライミング
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 platinum…白金を意味する英語だ.プラチナという響きは日本語でもなじみがあるだろう.その壁は当然のことながら白金でできているわけではない.けれども,うっそうとした林の中にそびえる白く美しい壁は「白金」と比喩するにふさわしい...

プラチナム5.11c

異質な壁

 瑞牆山のふもとには花崗岩のクライミングが楽しめる国内最大級のエリアがある.その中のスポーツクライミングが盛んなカサメリ沢にプラチナム5.11cは存在する.カサメリ沢に渡された丸太橋を慎重にわたると圧倒的なスケールの岩場が目の前に現れる.モツランドと言われるそのエリアは分厚い層の花崗岩が幾重にも重なった後に部分的に崩壊してできたと思われる.結果としていくつものルーフやハング,カンテなどが生まれ,数多くの魅力的なルートがひかれている.必然的にモツランドのルートはダイナミックなムーブで攻略していくもの多い.

モツランドでは岩が複雑に重なり合う
いくつものハングが構成される

 そんなモツランドにおいてプラチナムは異質だ.遠目には何もないような一枚の壁を黙々と登っていく.実際にはやや前傾した壁に過不足なく完璧な配分で配置されたホールドを使ってムーブを組み立てていくのだが..

元素番号78 元素記号Pt

 platinumとは白金を意味する英語だ.白金よりもプラチナと言った方がなじみ深いかもしれない.白金は白い光沢をもつ美しい金属で,名に冠している通り金同様に貴重である.その美しさから純度の高いものは装飾品にもよく使われている.しかし一方で化学的に非常に安定した金属でもあり自動車産業をはじめとして化学,電気,電子などの分野でその多くが利用されている.ただ美しいだけではなく利用価値自体も高いのが他の金属にはない白金の特徴だ.

白金(Pt)(Pixabay)

白金の壁

 モツランドに最初に訪れたとき他の花崗岩の岩場ではなかなか見ることができない幾何学的で複雑に重なった岩のスケールに驚かされる.だがそのスケールにも慣れたころ,ふと右の方を見ると白い壁が目に入ってくる.立体的なこの岩場でどうしてこうも美しく一枚の壁になるのだろうか.これがプラチナムである.白金のように白く美しいその壁はモツランドの中で稀有な存在だ.いや日本のどの花崗岩の岩場をみてもなかなかお目にかかれないだろう.あるいはそんなことないのかもしれないが,瑞牆の,カサメリ沢の,そしてモツランドの雰囲気が絶妙にプラチナム引き立てる.

午後のひと時,プラチナムは白金のように輝く

 そんな見目麗しいプラチナムをみてクライマーなら当然登攀意欲がわいてくる.しかしどうだろう.遠目にみてもなかなか弱点となるようなホールドが見つからない.強いて言うのであればカンテラインくらいだろうか.果たしてこんな壁が登れるのだろうか,そんな不安を抱きつついざ登りだす.

完璧な金属

 大きく右に巻いて階段状の岩を登る.高度感のある易しいトラバースを経てから1ピン目をクリップする.最初は左のクラックに沿って登るのも仕方がないだろう.だがせっかくこの魅力的な壁を登るのになるべくなら不純なものは混ぜたくない.2ピン目のクリップをしたら左の凹角には別れを告げて白い壁に向き合おう.ここからがプラチナムの真価だ.

 下からみたときには垂壁に思われた白い壁はやや前傾している.その迫力にクリップはしたもののなかなか安全地帯から離れることができない.勇気を振り絞り一手進めてみると不思議なことに欲しいところに欲しいホールドがある.そして余分なホールドは一切ない.完璧に配置された手がかり足がかりに対して自分の中にあるムーブを当てはめていく.導かれるままに高度を上げていき気が付くとリップはすぐそこにある.だがここにきて直感する.「ああ,ここが核心なんだ」と...

フィナーレ

 核心のムーブは人によって違うだろう.しかしキーとなるホールドが取れたときの悦びは万人に共通する.このホールドが取るとプラチナムはいよいよフィナーレを迎える.慎重に足を上げリップをとりマントルを返す.難しくもないこれらの動作も最後まで気が抜けない.レッジに立ち終了点にロープをかけるまでがクライミングなのだ.

 時間にしてわずか5分,壁を登る高さはわずか10m.決して長くないこのルートだが,その短い壁の中できっと濃密な時間を過ごすことができるだろう.

 希少価値が高く古くは古代エジプトから装飾品として用いられてきた白金のように美しい見た目,その化学的な安定性から様々な産業に利用されている白金のように完璧に配置されたホールド,これらの特性を併せ持つプラチナムはいつの時代もどのクライマーにも登ってほしい素晴らしいルートであると考える.

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