錫杖岳は近いアプローチで本格的なアルパインクライミングが楽しめる人気のエリアです.無雪期には左方カンテや3ルンゼ,1ルンゼなど初心者でも楽しめる質の高いルートがそろっていますが,冬になるとそれらのルートも厳しいものに姿を変えます.アイス,冬壁,雪稜,様々な楽しみ方ができるのが錫杖岳の魅力です.
今回はそんな冬の錫杖岳の中から,無雪期には渋さMAXながら冬になると一気に花形の冬季クライミングが楽しめる1ルンゼ左ルートを紹介していきます.
- ピリリとしびれるピッチが連続するThe 冬壁ルート
- 1ルンゼに継続するとことで冬壁あり,アイスありの全7-8ピッチのビッグルートに大変身
- 雪崩などの外的リスクが少なくどんな天候でも登ることができる
錫杖岳
錫杖岳は日本百名山のひとつである笠ヶ岳の南に延びる稜線に位置する標高2168mの山です.一般的な登山道はなく,登山者にとってはあまり馴染みのない山かもしれません.
しかし,錫杖岳には前衛フェイスをはじめとした巨大な岩壁がありクライマーにとっては本格的なロッククライミングが楽しめる山になります.また新穂高温泉から2時間ほどで岩場にたどり着くというアクセスの良さも魅力のひとつかもしれません.

無雪期には初心者でも楽しめるアルパインクライミングの入門的なルートから一流のフリークライマーが苦労するような高難度のものまで多彩なルートがある錫杖岳ですが,冬の錫杖もまた魅力的です.八ヶ岳などで冬季クライミングを経験した人が次のステップとして挑戦する少しだけ敷居の高いエリアになります.
1ルンゼ左
1ルンゼ左ルートは,前衛壁の顔でもある白壁の下部の凹角を登るラインで草付きやブッシュがやや多めで無雪期にはあまり人気のないルートです.錫思杖戯や深夜特急と一部ラインを共有するため,これらのルートを登る際に登られる程度でオリジナルラインをわざわざ登りに引くひとはそれほど多くありません.

そんな無雪期には渋い部類に属する1ルンゼ左ルートですが,草付きが凍り岩に雪がつく冬にはその姿は一変します.強傾斜の壁をフッキングやトルキング,草付きへの打ち込み,細かいスタンスへの足置きなど冬壁の技術を駆使して登り,最後には1ルンゼに継続する,八ヶ岳や3ルンゼで経験を積んだ冬期クライミング中級者にとっては垂涎もののルートになります.


アプロ―チ
1ルンゼ左の取付きは,左方カンテと1ルンゼの間にあります.出だしは1ルンゼ左というよりも左方カンテ右という方が感覚的にはあっているかもしれません.クリヤ岩舎から直上し前衛壁基部にぶつかったところから左側にトラバースしていきます.雪の状態にもよりますが,ラッセルがあっても岩舎から2時間以内には到着するでしょう.
装備(登攀具)
1ルンゼ左は基本的には岩のルートでプロテクションはカムでとれます.1P目でスクリューを使うこともありますが氷は短くそんなに多く入りません.ただし1ルンゼに継続する場合には本格的なアイスクライミングになるのでしっかりと持っていく必要があります.基本的に支点は灌木で3P目の終了点だけしっかりとしたボルトです.シーズンはじめなどは念のため捨て縄を持参した方がいいでしょう.
- ダブルロープ(50m×2)
- キャメロット(#0.3~5×2)
- トライカム(0.5,1,1.5,2)
- スクリュー(13㎝×2)
- ナッツBDストッパー(4,5,6)
- アルパインヌンチャク(60㎝×8,120㎝×6)
- ハーケン
- 捨て縄etc
ルート紹介
ここからはルート内容を紹介していきます.1ルンゼ左は比較的わかりやすいラインで凹角に沿って進んでいけば4ピッチほどで1ルンゼに合流する緩傾斜バンドまでたどりつきます.参考までに体感グレードも記載しておきます.
1P目 5.8? M5(体感)
1P目のラインの取り方としては2通りあります.オリジナルラインは左方カンテすぐ右の凹角&クラックですが,1ルンゼ左は日当たりがよく,このでだしの凹角は氷結が甘いことも多いためたいていの場合には20mほど右にある錫思杖戯の1P目を登ります.

出だしは2mほどの氷柱となっていることが多いですが,スカスカでまともなプロテクションは取れません.もしくは左のフェイスから上がって左上する凹角に上がります.凹角に入ると所々にクラックがありカムでプロテクションをとることができます.途中小ハングを左から巻いて越えていくところが核心で,その後はやさしい草付き雪面をアイゼンアックスを効かせて登っていきます.
易しい雪のルンゼを10mほど登るとピッチを切れる灌木があります.ここでピッチを切ることもできますが,この灌木を木登りしてさらに進むと50m目いっぱいロープを伸ばしたあたりで1ルンゼ左の本流に合流します.
2P目 M5(体感)
通常は2ピッチ目で1ルンゼ本流と合流します.右側の雪のつまったクラックを登るか,正面のホールドは豊富ですがプロテクションの取りにくいフェイスを登っていきます.15mほど登った先の灌木でピッチを切ります.

3P目 M5-6
2ピッチ目の終了点から左手を見ると上の方に錫杖岳前衛フェイスの顔である白壁がそびえたっています.白壁の基部に向かって1ルンゼ左の核心部である3ピッチ目,4ピッチ目の凹角が続いています.

3ピッチ目は出だしはほぼ垂直の凹角ですがカムでのプロテクションは比較的とりやすく思い切って登っていけます.後半は露出感のあるフェイスで2か所ほど被りを感じる箇所もあります.草付きやベルグラにアックスを打ち込んでパワフルなムーブで体を上げていきます.30mほどでしっかりと整備された終了点のある小テラスにたどり着きます.

1ルンゼ左の上部ピッチは日当たりがよく天気が良いとすぐに雪が解けドライなコンディションになります.除雪の労力は減りますが,草付きが解けてきてこれはこれでジャパニーズアルパインクライミングを楽しむことができます.
4P目 M6(体感)
4ピッチ目は3ピッチ目以上に奮闘的です.終了点の真上にみえているチムニーが核心と思いきやチムニーに入るまでがまず一苦労.チムニーに入ってからも奮闘的.チムニーから出たら細かいスタンスに足を置きつつ体を上げ,体を上げること40m.まさに冬壁の面白さがたくさん詰まったピッチです.

出だしにチムニーはトルキング,フッキング,ジャミング,チキンウイングなど多様なムーブを駆使します.ちょうど体がはいるサイズなのでザックがあるととても苦しいパートです.リードは空身の方がいいかもしれません.

チムニーから出るといったん傾斜は落ちて一休みできますが,そのあとの凹角も侮れません.草付きにアックスをきめつつ,左右の壁にスタンスを探します.筆者たちがトライしたときはドライなコンディションでしたが,雪がついているとかなり大変な気がします.プロテクションは所々にとれるのでそこまでランナウトはしませんが厳しい体勢が続きます.最後にあるちょっとしたトラバースもなかなかの緊張感です.

40mほどでちょっとしたテラスに出てしっかりとした木でピッチを切ります.ここから1ルンゼに継続する場合は緩傾斜バンドをもう1ピッチ登ると合流します.

下降は往路下降で50mで3ピッチの懸垂下降をすると本来の1ルンゼ左の取付きに戻ってきます.
まとめ
錫杖岳の冬の人気(?)ルートである1ルンゼ左ルートを紹介してきました.どのピッチも冬期クライミングの要素がみっちりと詰まった好ルートです.4ピッチと短いルートですがどっぷりと冬壁につかることができるでしょう.八ヶ岳の上級ルートや錫杖岳の3ルンゼなどの次のステップとして挑戦してみてはいかがでしょうか.
少しでも軽量化は測りたいアルパインクライミングではキャメロットULがおすすめです.通常のタイプに比べると弱そうな印象のあるウルトラライトですが冬山でも特に問題なく使えるため筆者は愛用しています!
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