ザ・ラストリゾート 5.10c|小川山烏帽子岩本峰~気分はヨセミテ,小川山で最長のクラック~

トラッドクライミング
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 2022年に出版された廻り目平周辺のクライミングトポ,通称「小川山本」にはこう書いていある.

小川山で最長とも言われる1本の長いクラック

これを読んだならばクラックを嗜むクライマーであればいかない選択肢はない.そこには日本離れした最高の楽園が待っていた.

日本のヨセミテ,廻り目平

 ヨセミテはクライマーならだれもが知るロッククライミングの聖地である.だが日本からほど遠いアメリカ合衆国にあり気軽に訪れることはできない.

 だが長野県川上村に「日本のヨセミテ」と言われるロッククライミングのエリアがある.金峰渓谷の中にある憩いの地,廻り目平キャンプ場の周辺には花崗岩の岩峰が数多にありこれらをまとめてクライマーの間では「小川山」と呼ばれている.アメリカは遠くても長野県なら比較的アクセスはしやすい.渓谷沿いの岩壁,花崗岩らしいスラブやクラック,クライマーの集まるキャンプ場,,ヨセミテと比喩するに十分だ.

 猛暑の厳しい日本には貴重な夏でも快適に登れる岩場であり,春から秋のシーズンには多くのクライマーがこの地に集まる.キャンプ場も快適で夜になるとそこらじゅうからクライミング談議が聞こえてくる.

 最近のキャンプ場では珍しく直火でのたき火が可能なのもありがたい.

クライミングの聖地に残された楽園

 小川山が開拓されたのは今からおよそ半世紀前にもわたる.長いときの中で数々の名ルートが産み落とされ人気のルートには渋滞ができることも珍しくない.現代でも新しいルートは開拓されているが,屋根岩や西俣沢中流などアクセスのよい人気のエリアは大分煮詰まってきており,時折新ルートが開拓されるとそれに対する査定の目には厳しさが伴う.

 そんな小川山の中でもベースキャンプからアプローチが遠いエリアにはまだまだ開拓の余地が残されている.烏帽子岩を代表とす西俣沢上流はその代表だろう.2022年に出版された小川山本によると

この地域には50-100mクラスの岩塔が少なく見積もっても30は眠っているとみている.

とのことだ.そんな未開の地の入口にクライミングルート「ザ・ラストリゾート」はある.

小川山で最も長いクラック

 「ザ・ラストリゾート」は2011年に「ガメラ」の愛称で知られるクライマー菊池敏之氏によって開拓されたルートだ.クラシカルなルートの多い小川山においてはかなり最近開拓されている.このルートの売りは何といっても「小川山で最も長いクラック」ということだ.

 日本にあるクラックのロングルートとといえば十一面岩末端壁か,あるいは名張あたりが有名だろう.名張には40mスケールのルートが複数本あるし,十一面岩末端壁でいえばクラック自体の長さは60mほどある.

 一方で小川山にはそれほど長さのあるクラックはない.ボルトを打つことで人為的に設定するできるスポートルートとは違い,クラックの場合は岩の割れ目が続いているかどうかは神のみぞ知る.

 そんな中,ザ・ラストリゾートは1本のクラックが70mも続いている.日本離れしている.その雰囲気も相まって,日本のヨセミテにあってまさにヨセミテらしさを一番味わえるルートといっても過言ではない.

 通常は中間部にある立ち木でピッチを切って2ピッチで登られるが,70m以上のロープがあればもちろん1ピッチで登っても構わない.クラックに入るまでのランナウト気味の出だし,すっきりとしたクラックのメインパート,ワイルドな後半部分と70m分退屈することなく存分に楽しむことができるだろう.

 振り返るとそこには「日本のヨセミテ」の絶景が広がっている.

The Last Resort(1976)- Eagles

 Eaglesはアメリカのロックバンドだ.その曲に一つに「The Last Resort」がある.アメリカ開拓時代を歌った曲で,自然破壊と開発競争を憂えた社会的メッセージを乗せたプロテストソングでもある.

Eagles – The Last Resort – (Paradise) – "The Last Resort" lyrics on screen & description

 以下はその歌詞の一部を抜粋したものだ.

Who will provide the grand design? What is yours and what is mine?
(その巨大な計画は誰が立てたの? 何が君のもので何が私のものか?)

‘Cause there is no more new frontier, we have got to make it here
(だってもう未開拓の地はないんだから 私たちはここでやっていくしかない)

We satisfy our endless needs and justify our bloody deeds
(私たちは自分の底知れない欲望を満足させて 血まみれの悪行を正当化する)

In the name of destiny and in the name of God
(正義の名のもとに そして神の名のもとに)

 ロッククライミングは自然の中で行うスポーツだ.その過程でボルトを打ったり,木々をきったり,人がはいらないような土地に入り込んだり,これらはある意味自然を破壊しているのかもしれない.だからといってクライミングをすることが良くないことだといっているわけではない.もちろん筆者も楽しんでいる.だがそういった行為の延長線上にあることを忘れてはいけない.

最後の手段

 ”ラストリゾート”は直訳すると最後のリゾートだが,実はもう一つの意味がある.というよりも英語圏ではこちらの方が主に使われている.それは”最後の手段”という意味だ.

 「ザ・ラストリゾート」というルートは小川山に残された最後のリゾートであり,なおかつ最後の手段でもあるのだ.

 決して厳しいグレードでもないし,プロテクションもよい.ルートの質は言わずもがな.何より雰囲気は抜群だ.ぜひとも一度トライしてみてほしい.

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