The Nose, El Capitan/ザ・ノーズ エルキャピタン ヨセミテ~トレーニング編~

ビッグウォール
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 今回ヨセミテ国立公園にあるエルキャピタンのルートの1つである「The Nose」に挑戦し無事完登できました.Web上にノーズの登攀記録は複数散見されますが,トレーニングに関する具体的な記録は少ないのが実情です.実際に筆者らもノーズに向けてのトレーニングで何をしたらよいのかわかりませんでした.この記事では筆者らが実際に行ったトレーニングの記録を振り返る形で内容をまとめます.ノーズを目指す方の参考になれば幸いです.ただし「これをすれば絶対に登れる!」といった類のものではありませんのであしからず.

前提

 トレーニングの記録を見ていく前に筆者らのクライミングの実力を少しだけ紹介します.筆者はトラッドクライミングは中級者程度の経験はありました(と思っています)が,パートナーのI-Rokさんはスポートでは5.13を登る実力者ではあるもののクライミングにはブランクもあり,またヨセミテ行きを決めた時点で小川山の「カサブランカ」を何年も前に登ったことがある!くらいのトラッド経験でした.そこからトラッド通いをして最終的には5.11cをRPするくらいまで経験を積んでいました.

筆者(にわかアルピニスト)
  • クライミング歴4年,ビッグウォール経験なし
  • トラッド最高グレード RP 5.12b,OS 5.11c,FL 5.12a
  • その他:アルパイン
パートナー(I-Rok)
  • クライミング歴20年くらい,ビッグウォール経験なし
  • スポート,ボルダー主でトラッド経験は浅い,クライミング歴は長いが怪我での中断あり
  • トラッド最高グレード RP 5.10b →5.11c?(トレーニング期間中)
  • その他,トレラン,サーフィン

 ノーズのトポには5.9が登れれば大丈夫!的なことが書いてありますが,今回結果的にほぼfullエイドで完登できたのでこれは事実だと思います.とはいえ2点だけ言及しておく必要があります.1つ目はフリーで登れるセクションが多くなればなるほど行動は早くなり完登の可能性が高まるということ,2つ目はヨセミテの5.9はなかなかハードということです.

 I-Rokさんとはノーズ本番のおよそ1年前の2023年11月にパートナーを組み,そこから準備を開始しました.というものの筆者が2024年3月に足の怪我をして一時休養していたため本格的なトレーニングを開始したのは5月末からでした.それまでは各自のトラッドトレーニングや本を参考にしたビッグウォールシステムの確認,ラインやオンラインなどでの作戦会議などを行っていました.ここら辺についても別記事にまとめます.

トレーニング内容

 ここから実際に行ったトレーニングの内容を紹介します.基本的には花崗岩のビッグエリアである小川山・瑞牆で行いました.また今回のトレーニングはビッグウォールのハウツー本の殿堂入りともいえる「How to Big Wall Climb」のカリキュラムに則って行いました.英語の書籍ですが,写真も多く,ページ数も多くないためトレーニング前に一読しておくことを強くお勧めします!

 今回,2人で顔を合わせてノーズに特化したトレーニングとしては全部で16回行いました.そのほかにも各々クラッククライミングを中心としたクライミングを行っていました.

ノーズトレーニング①

日付/5月25日 場所/小川山兄岩 ルート/-

トレーニング内容/ビレイ点構築,荷揚げ(シングルピッチ)

 事前にHow to Big Wall Climbで各々確認したビレイ点の構築およびビレイ点での動作の流れ,荷揚げのやり方の確認.ビッグウォールではメインロープとバックロープの処理やギアの受け渡しなどをビレイ点で毎回うため,これらの動作の方法を共有しておく必要がある.

ノーズトレーニング②

日付/5月26日 場所/小川山屋根岩2峰 ルート/セレクション(マルチ)

トレーニング内容/L:フリー,荷揚げ(軽量),F:ユマール

 トレーニング①の翌日にはシングルピッチで確認したビレイ点での動きを実際にマルチピッチで確認.小川山の人気マルチであるセレクションルートを荷揚げを行いながら登攀.主に流れの確認.

ノーズトレーニング③

日付/6月29日 場所/瑞牆屏風岩 ルート/JECCルート

トレーニング内容/エイド,荷揚げ(40㎏),振り子&ロワーアウトシステム確認

 各々の予定や梅雨時期での天候不良もあり前回のトレーニングから1か月ほどの期間が空いた.岩も乾きが不十分だったがエイドであれば登れるだろうとの読みで瑞牆屏風岩へ.45mあるロングルートのJECCルートをエイドで登り,そのまま荷揚げ.前回は行わなかった本番を想定した高重量の荷揚げを行った.大量の容器を持参し不動沢の水をホールバックに詰め込み結果的に荷物は40㎏となりました.JECCは傾斜も強く40㎏であってもボディホーリングで荷揚げできた.フォローはフィックスロープをユマール.

エイドでは大量のギアを使う
JECCは傾斜が強い

ノーズトレーニング④

日付/6月30日 場所/瑞牆十一面岩末端壁 ルート/調和の幻想(マルチ)

トレーニング内容/L:フリー&エイド,荷揚げ(軽量),F:ユマール

 天候も怪しかったので午前中に集中してマルチでの流れの確認.瑞牆十一面岩末端壁にある調和の幻想をエイドを交えつつ,荷揚げを行いながら登攀(登攀時間:4時間10分).

ビレイ点

ノーズトレーニング⑤

日付/7月20日 場所/瑞牆 ルート/左稜線,一刀,調和の幻想

トレーニング内容/マルチ継続(フリー)

 再び間が空いておよそ1か月後.ノーズでは長時間の行動が予想されたため,この日は瑞牆マルチの継続でとにかく体力的に追い込むことに.大面岩左稜線,一刀,調和の幻想をフリークライミングで継続登攀(21P,登降距離450m,行動時間13時間40分).

左稜線
一刀の核心ピッチ

ノーズトレーニング⑥

日付/7月21日 場所/瑞牆 十一面岩正面壁 ルート/ベルジュエール

トレーニング内容/L:フリー&エイド,荷揚げ(30㎏),F:ユマール

 ⑤の翌日には今度は荷揚げしつつのロングルートにトライ.ベルジュエールをフリーとエイドを交えつつ登り,30㎏の荷揚げ.フォローはユマールでの登った(10P,登降距離290m,行動時間12時間,登攀時間8時間).

荷揚げしながらベルジュエール

 ノーズを2泊3日で登る場合に1日当たりの登降距離は300m強となるため高重量を荷揚げしながらのベルジュエール登攀はよいトレーニングになると思われた.実際にかなりハードだった.

細引きを使ってのホールバックマネジメント

ノーズトレーニング⑦

日付/7月27日 場所/瑞牆 ルート/左稜線,一刀,ベルジュエール

トレーニング内容/マルチ継続(フリー)

 前週に引き続きマルチ継続.とにかく体力的に追い込むことを目標に(27P,登降距離680m).

ノーズトレーニング⑧

日付/7月28日 場所/瑞牆クラック地獄エリア ルート/いろいろ

トレーニング内容/フリークライミング(クラックトレ)

 前日の疲れもありショートルートでエンジョイしながらクラックトレ.この時点ではノーズでもフリーを行うことを想定していたためクラックトレを行っていたが実際はほぼほぼエイドであった.

ノーズトレーニング 番外編

日付/8月3日 場所/小川山烏帽子岩,デビルズタワー ルート/ザ・ラストリゾート,大聖堂

トレーニング内容/フリークライミング(クラックトレ)

 炎天下でのマルチ継続や荷揚げなどでメンタル的につらくなってきていたので気晴らしがてらクラックのショートルートを登ることに.ザ・ラストリゾートは70mほどのクラックが続きヨセミテに近い雰囲気のクライミングを楽しめることができる.

ザ・ラストリゾート
大聖堂

ノーズトレーニング⑨

日付/8月4日 場所/瑞牆十一面岩末端壁 ルート/春うらら1P目

トレーニング内容/エイド

 荷揚げやシステム,流れの確認は大分できてきたので本格的なエイド技術のトレーニングをすることに.タイムを測定しながら春うらら1P目をお互い3回ずつエイドで登る.最初は小一時間かかっていたが3回目は30分程度まで短縮できた.

春うらら1P目でエイドトレ

ノーズトレーニング⑩

日付/8月17日 場所/瑞牆十一面岩正面壁 ルート/黄金の風

トレーニング内容/L:フリー&エイド,荷揚げ(20㎏),F:ユマール

 しばらく間が空いたのでロングマルチで本番を想定し荷揚げしながらのシミュレーション.ただし正面壁までの歩荷が大変だったので荷物は少し少なめで.

黄金の風

日付/8月17日 場所/瑞牆十一面岩末端壁 ルート/お昼寝テラス

トレーニング内容/ビバーク

 黄金の風を登ったあとにその足でお昼寝テラスまで行きビバーク.お昼寝テラスはノーズのどのテラスよりも快適性はなくよいトレーニングになった.

お昼寝テラスビバーク

ノーズトレーニング⑪

日付/8月18日 場所/瑞牆十一面岩末端壁 ルート/いろいろ

トレーニング内容/フリークライミング(クラックトレ)

 お昼寝テラスから降りてきてそのまま末端壁でクラックトレ.

ノーズトレーニング⑫

日付/8月24日 場所/瑞牆カサメリ沢コセロック ルート/-

トレーニング内容/緩傾斜での荷揚げ(50㎏)

 大分トレーニングとして煮詰まってきてはいたが,スペースホーリングをする機会が少なかったのでカサメリ沢のスラフェイスのルートで高重量&緩傾斜の荷揚げ.さすがにボディホーリングでは上がらずスペースホーリングを行うことに.実際に本番でスペースホーリングをする機会は多くはなかったがやり方の確認としては必要なプロセスだった.

ノーズトレーニング⑬

日付/9月14日 場所/瑞牆カサメリ沢秋場所ロック ルート/文武は両道,悪魔の踊り

トレーニング内容/エイド

 秋雨前線が停滞しており天候などもあり間が空いたが,9月に入ってからは基本的には毎週電話でコミュニケーションをとりお互いの疑問点などをすり合わせていった.

 本番まで1か月を切ったタイミング.高難度ルートのエイドを行うべくカサメリ沢の5.12のルートでエイドトレ.マイクロカムやナッツ,カムフックなどを使用してのエイドトレを行った.C1+~C2くらいあったのかもしれない.

ギアを並べてみる
カムフック

 オフセットカムはヨセミテでのクライミングの必需品です!!

ノーズトレーニング⑭

日付/9月15日 場所/瑞牆屏風岩 ルート/いろいろ

トレーニング内容/フリークライミング(クラックトレ)&ロワーアウト

 マルチ継続やビバークトレを想定していたが,天気も不安定であったため屏風岩でトレーニング.クラックトレに加え,画竜点睛のトラバースでロワーアウト練習をした.

ノーズトレーニング⑮

日付/9月21日 場所/瑞牆 ルート/調和の幻想,ペガサス,風鈴,他

トレーニング内容/マルチ継続(フリー)

 最後のノーズトレーニング.技術的なトレーニングは繰り返してきたが本番に向けてまだ不安があったため最後の追い込みとして瑞牆マルチ継続を行った(30P,登降距離835m,行動時間16時間37分).ベルジュエール3ピッチ目以降は完全な夜間登攀となったがこれもよいトレーニングとなった.ただ本番では幸いなことにいずれの日も日中に登り終えることができた.

夜間登攀

まとめ

 ノーズを完登した他のパーティがどのくらいトレーニングをしたのかはわかりませんが,自分たちは

それなりにやった方ではないかな?と思います.基礎的な技術は反復してスムーズにできるようになりましたし長時間行動の感覚も掴めていました.強いて言うならビバークしつつ3日間連日登るといったような本番をシミュレーションしたトレーニングはできませんでした.

 本番はかなりぎりぎりの完登だったと思います.運が味方してくれなかったら登れていなかったと思います.日本にビッグウォールがない以上,日本でのトレーニングは限界があるのかもしれませんがこの記事が少しでもノーズ挑戦の参考になれば幸いです.

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