はじめに
医師といえば病院で働いていたり,開業してクリニックで働いていたり,あるいは白い巨塔の世界のように大学病院ではたらいていたりというのがよくあるイメージですが実はそれ以外にも医師が働ける場所はたくさんあります.
厚生労働省の調べによると全国約30万人いる医師のうち95%は病院や診療所などの医療機関に勤めていますが残りの約5%は医療機関以外に勤めているとされています.日本ではおよそ15000人の医師が医療機関以外に勤めていることになります.
厚生労働省
平成30年 医師・歯科医師・薬剤師統計より作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/kekka-1.pdf
本稿では医師の働き方,特に病院以外での仕事につてい考えてみましょう.
一般的な医師のキャリアコース
約5%の医師は医療施設以外で働いているとは言え大半の医師は病院や診療所などの医療機関で働ていることになります.では一般的な医師のキャリアコースとはどのようになっているのでしょうか?
まず医師になるには医師国家試験に合格し医師免許を取得する必要があります.医師免許を取得する際に厚生労働省が管理する「医籍」というものに登録すると医師として働くことができます.現在は医師国家試験を合格後に初期臨床研修を行うことが義務付けられていますので医師免許を取得したほとんどの人は2年間の初期臨床研修プログラムを受けることになります.初期研修医はよく誤解されますが,医師としての資格をしっかりもっており一人前の医師とまったくかわらない医療行為を行うことができます.もちろん技術・知識ともに未熟で修行中のみではありますが...
初期研修をおえるとそれぞれの医師は自分の専門の道に進みます.専門家としての修練を積むにあたって多くは大学病院の「医局(いきょく)」に所属することになります.地域にもよりますが印象としては初期研修を終えた医師の6-7割がどこかの医局に入っている気がします.
医局に入ると大学病院で勤務をしたり,関連病院といわれる地域の病院で勤務をしたりして専門的な技術・知識を学んでいきます.医師5-7年目くらいに「専門医」といわれる資格を取得することができ,ここまでくるとようやく一般的な専門診療を行うことができるくらいになっています.その後は大学院にいって更なる専門性を高めたり,地域の病院で臨床医として働いたり,あるいは開業したりなどの選択をする医師が多くを占めます.
このように多くの医師が通常は医局および自身の専門性を中心にキャリアアップをしていきます.近年はフリーランスといった医局に属さない医師もいるようです.
一般的な臨床医以外での働き方
先ほど紹介したのは,一般的な大半の医師が進むキャリアコースです.では残りの約5%の医師にはどのような選択肢があるのでしょうか?今回は大きく3つのカテゴリーに分けて紹介していきます.
病院以外の場所で臨床医として働く
一つ目は「病院以外の場所で働く」です.大人数が所属する企業であったり,限られた環境であったりなど病院以外にも臨床ができる医師を必要としている場所はあります.
介護施設の常勤医師
高齢化社会の日本では医療ではなく介護を必要とする高齢者がたくさんいます.介護老人保健施設などでは入院するほどではないけれど,体に不具合を抱えている高齢者が生活しています.そのような高齢者の不調時に診察を行います.ここでは専門的な診察ではなくあくまでプライマリケアの範疇で必要に応じて医療機関への紹介を行います.
産業医
ある程度の規模を持つ事業では産業医の配置が義務付けられています.産業医は従業者の健康管理などについて専門的な立場から指導・助言を行います.産業医になるにはいくつか方法がありますが,一般的には医師会主催の産業医の講習会を受ける場合が多いです.
山岳医
山岳医は山岳地帯での診療を行う医師のことをいいます.一般的には山岳医のみではなく,臨床医のプラスアルファとして山岳医を行っている医師が多いです.登山が趣味の人などはいいかもしれませんね.
船医
名前の通り船に乗っている医師です.豪華客船など長期の船旅に同行して船の中で体調を崩した人の診察を行います.限られた資源の中でどのように診察を行うかは腕の見せ所です.また外国のお客さんが多い場合には英語での診察スキルも必要となるようです.
南極観測隊
日本は定期的に南極大陸に調査船を出して様々な研究活動を行っています.南極で長期に生活するために様々な職種が募集されていますがその中に医師の募集もあります.究極のへき地医療でしょうか,ロマンがありますね.
臨床医以外として働く
二つ目は「臨床医以外として働く」です.ここでは診察をしたり,薬を出したりなど診療行為は行いません.しかし医学的な知識を,医学の発展や研究開発,あるいは社会のために使うことができます.
基礎研究
医学の発展のためには細胞レベル・分子レベルの研究が必要となってきます.有名なのはノーベル賞を受賞した山中先生のiPS細胞です.このような基礎レベルの研究を行うことは医学の発展に結びつくことがあるので非常に貴重な仕事だと思います.
製薬会社
製薬会社でも医師の知識・経験を生かすことができます.新薬の研究・開発にかかわったり,あるいは薬の安全性の評価にかかわったりなどすることができます.
保険会社
保険会社で働く医師は「社医」ともよばれ保険加入者または加入希望者に、診査・査定を行います.これまでと全く違った環境で働けたり,ワークライフバランスを優先できたりなどが魅力になります.
医療系サービス
医師向けのウェブサイトや医療サービスを提供する会社などいわゆるベンチャー企業を起業する人もいます.医師だからこそわかるニーズにこたえることも可能です.
議員/弁護士
少し毛色は変わりますが,議員や弁護士でも医師の知識を生かすことはできます.医学的な知識をもって立法や司法にかかわってみるのも一つの選択肢かもしれません.
行政機関で働く
三つ目は「行政機関で働く」です.医師という職業は行政機関の中でも必要とされています.医学的知識を社会のために使ったり,あるいは行政機関で診療行為を行ったりします.
医系技官
医系技官とは厚生労働省に所属し,医学的な専門知識をもって保健医療に関わる制度づくりに関わる行政官のことです.直接患者さんと関わることはありませんが政策や法案を通じて保健医療の現場に関わることができます.
公衆衛生医師
公衆衛生医師は保健所につとめ地域保健にたずさわります.医系技官よりも現場レベルで保健医療に関わることができます.
矯正医官
矯正医官は聞きなれないかもしれせんが,法務省に属して刑務所など刑事施設に常勤している医師です.被収容者の健康管理を行います.医療刑務所や医療重点施設といわれる施設では病院と同等の診療も行われます.
外務公務員医療職(医師)
外務省でも医師を募集しています.世界各国には日本国大使館や総領事館等の「在外公館」がありますが,発展途上国をはじめとして医務官が配置されています.在外公館館員及びその家族の健康管理や在留邦人の健康相談,現地の医療情報の収集などを行います.
医科・歯科幹部自衛官
医科・歯科幹部自衛官は自衛隊の各衛生部門において,医療や健康管理,予防衛生などに携わる自衛官になります.
おわりに
一般的な医師のキャリアコース,そして医療機関以外での医師の働き方を紹介してきました.普段の臨床とは少し違った仕事をしたい人,ワークライフバランスを考えたい人などは選択肢になるかもしれませんね.
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