御在所岳藤内壁 中尾根(冬期)【山行記録】|2024年3月2日

アルパインクライミング
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 御在所というと東海や関西のクライマーにとっては本チャンに向けたトレーニングの岩場として親しまれている.それは無雪期に限ったことではなく初冬にはアイゼンをはいて一の壁や前尾根を登るクライマーの姿は珍しくない.1000mほどの山だが冬になるとルンゼは凍り岩は雪で覆われ北アルプスにも見劣りしないような極上のウインタークライミングを楽しむことができる.

御在所岳 中尾根

 御在所岳の中尾根は前尾根と並んで人気のマルチピッチルートのひとつだ.この2本はいわゆるデシマルグレードの付いたフリークライミングのマルチピッチというよりはⅣ級やⅤ級などといったアルパインクライミングのルートとして親しまれている.前尾根を入門者~初心者向けのルートとするならば中尾根は中級者向けのルートだ.

中尾根

 中尾根は厳密にいうと尾根ではなく連続した4つの岩峰を尾根のように継続して登るルートで,クラックシステムを利用し本チャンよろしくうまいこと壁の弱点を突いている.各ピッチの終了点にはボルトが打ってあるが中間支点としての残置物はなく,カムやナッツなどのナチュラルプロテクションを設置して登ることが醍醐味となっている.

 そんな中尾根は無雪期には日ごろからフリークライミングをやっている者ならそれほど難しくないが,ことアイゼンと手袋の登攀においてはⅤ級が連続する非常に厳しいルートに姿を変える.

概要

日程 2024年3月2日

天候 3月2日 雪

コースタイム

3/2

ゲート(06:55)-藤内小屋(07:27)-バットレス基部[準備](08:10)-中尾根取付(08:49)-登攀開始(09:06)-1P目終了点(10:52)-2P目開始(11:05)-3P目開始(12:28)-4P目開始(13:57)-下降開始(15:33)-バットレス基部(15:54)-ゲート(16:26)

装備(登攀具)

ダブルロープ(50m×2),キャメロット(#0.3~3×2,#4×1),アルパインヌンチャク(60㎝×8,120㎝×6),ハーケン,捨て縄etc

詳細

 この週末は元々穂高での岩登りを計画していたが冬型の気圧配置となり断念,さらにパートナーの体調不良も相まり近場の御在所でクライミングをすることになった.冬の中尾根自体は前にも登ったことはあるがP2の下部でアブミを使ったりテン山だったりしたことと,結局そのピッチで終わってしまったのでリベンジ的な意味合いでも登りたかった.そのため「P2下部をフリーで抜ける」「P1まで抜けて完登する」の2つをテーマに中尾根に行くことになった.

ゲートからの歩き

 ゲート前に車を止め雪のない道を歩き出す.今年は例年稀に見る暖冬で(毎年言っていない?)3月頭の時点で御在所には雪がほとんどなかった.10分ほどの歩きだがこの時点ですでにパートナーの様子がおかしい.なかなかペースが上がらないのだ.病み上がりということは聞いていたが,どうやらまだ夕方になると微熱がでるようだ...そんなんで山に来て大丈夫か?と思ったがまあ御在所なので大丈夫か.

藤内小屋

 雪のない御在所とは言え,この日はしっかりと寒気も入っており雪もぱらついてい藤内小屋あたりではうっすらと雪が積もっていた.当然のことながら?誰もいない.

藤内壁

 藤内小屋から藤内沢の出合までは地味に長いがここに来ると藤内壁が見えてきてテンションが上がる.藤内壁の写真をパシャリととるが,いったい今までに何回この画角での写真をとったのだろうか.藤内沢登りはうっすらと雪が積もっておりなかなか悪い.アイゼンをつけてもいいかな,と思いはしたがラインを得られば問題ないとそのまま登る.中又出合の小滝は濡れておりいつもに増して緊張する.1年ほど前からトラロープがフィックスされておりありがたい.

取付

 バットレスの基部で登攀の準備をして中尾根の取付きへ.中尾根の取付きへはいくつか行き方があるがこの日はP1まで抜けるのが目標だったので時間短縮のため悪いながらベーシックなラインを使った.無雪期にはわるい草付きもアイゼンとアックスがあるからかそれほど悪くは感じない.そのあとのプチ岩場もアックスがあると楽をできた.

1P目 P4 Ⅴ リード

 パートナーは本調子ではなく様子を見たいとのことだったのでとりあえず1P目は自分がリードをすることになった.スタンスには雪が乗っているが逆に雪が乗っているところに狙いを定めて除雪作業をすることができたしプロテクションも終始良いのでそれほど苦戦はしなかった.一か所ハングの部分がスタンスも乏しくハング下のクラックにジャミングをきめるまでが遠く手こずった.無雪期はワイド登りでずり上がったと思うがアイゼンではそれもできない.細いクラックにアックスをかけて思い切って左手を出した..気がする.そこからはクラックの中に入り込み「フォローはザックがあって大変そうだなあ」とか思いながら中段のテラスへ.

P4下部

 本来ならテラスでピッチを切るが,2P目はテラス上部のワンポイントなのとやはり時短がしたかったので継続した.ロープの流れ的には問題なかったが,その影響でこの出だし部分で落ちるとグランドすると思われた.マントルを返す時はそれなりに緊張した.そのあとはガバをつないでチョックストーンを越えるとP4の展望台に至る.案の定ザックが邪魔になったのかフォローは苦戦していた.このときくらいが一番風が強く,小雪は真横に舞い寒かった.

P4上部

2P目 P3 Ⅴ リード

 P4の頭からP3の基部へロープだけつないでフリーで行く.パートナーに確認するとやはり不調とのことで結局この日は全ピッチリードさせてもらえることになった.

P3取付

 P3は以前無雪期に登ったときにそれなりに難しかった記憶がある.また1年前に冬に来たときにリードをしたパートナーはフォールしていた.それでも今シーズンはそれなりに冬壁に行っていたので「まあ,行けるだろ」くらいの余裕があった.

P3

 出だしのクラックは無雪期ならばフットジャムが効くがアイゼンだと細かいスタンスを拾う必要があるので難しい.おまけにこの難しい部分はランナウトする.ありとあらゆる割れ目とスタンスを使って0.4(くらいだったかな)のカムをきめてようやく一息.中間部のチムニーになる部分はそれほどだが,後半部のダブルクラックになるあたりが傾斜も強く難しい.なるべくクラックに体を入れて360度(w)見渡し使えるホールド,スタンスを探して登っていく.ある程度余裕があるときはこんな感じで視野を広く保てるが,余裕がないときほど視野が狭くなって苦戦する.そういう意味でまだまだ余裕があったんだろう.雪も全然なかったしコンディションも後押ししてくれた.岩と岩の間を抜けビレイ.P2を眺めながら次のピッチをどう登るか考えていた.

3P目 P2下部 5.8くらい? リード

 15mほどの懸垂でツルムのコルと呼ばれるP2/3のコルに降り立つ.なんとなく登るラインは考えていたがまだ決めかねていた.選択肢としては無雪期に登ったハング上部のフレークトラバース,出だしにアブミを使うが比較的よく登られている直上ルート,あとはハング下をトラバースするマッドモイストのラインだ.

P2全景

 直上ルートは去年冬に登り痛い目を見た.それもそのはずハングを越えた先も5.10bだ.フレークトラバースはプロテクションがプアな上に途中ノーハンドトラバースになるので空恐ろしい.可能性があるとしたらカチをつなぐマッドモイストのラインだがそれも5.10bで大分厳しいだろう.出だしはボルトなので最悪エイドで抜けることもできる.

P2下部

 そんなことを考えているうちにふと崩壊したとされるトラバースルート(by100岩)にあるシンクラックが目に入った.「あれ?これトルキングできるんじゃね?」そういう目で下に立ちアックスをかけるとクラックにはしっかりとかかるではないか.おまけに凹角になっている壁や右側のハングの最下部にスタンスもある.プロテクションもとれそうだ.これだ!!そう決めて一度コルに戻ってから登攀の準備を開始した.

P2出だし ハングを越える

 ハング下にキャメロットの1番,ハング部分に0.3番を決めて再度クラックにアックスをかける.やはりバチ効きだ.2本のアックスを頼りに右足,左足と離陸していく.左の壁はどうやらアイゼンの跡のようだ.もしかしたら崩壊前かもしれないがこのルートを登っている人がいる!そう思うと途端に行ける気がしてきた.離陸したらすぐに0.4番をセット,アックスには体重の多くがかかっているのですぐに腕が張ってくる.左右のアックスを交互にあげていく.クラックは徐々に広くなるがレイバック体勢でトルキングが効いているうちは外れなさそうだ.両手と左足を張って,右足をハング上のへこみへ置く.少し姿勢が安定したところで1番をもう一つセット.さらにアックスを上げていこうとしたその瞬間,アックスが外れたのか,足が外れたのかフォールした.直前に決めた1番は外れたがその前の0.4番でとまりグランドフォールすれすれだった.

 行けたと思った...その油断から手か足いずれかの作業が雑になっていたのかもしれない.だがどうやらフリーで行けそうだ.半信半疑だったが次のトライで行ける可能性をみいだしたので一度下におろしてもらい小休止のち再トライをした.2トライ目は一瞬たりとも集中を切らさずに緻密なアックスワーク,アイゼンワークを心がけた.そうして中間部のガバをとらえ小レッジに立ち上がることに成功した.

P2下部後半

 その先もクラックを直上しようかと思ったがそんな余力は残っていなかった.落ちたら折れるであろう錆錆のボルトに支点をとり空恐ろしいトラバースをしてカンテを越えスラブにでるとようやく一息付けた.そこからは左側のクラックに適宜カムで支点をとりつつ,グレード通り(Ⅳ級)の易しい岩登りを経て三角形の頂点へ.やった!やったぞ!目標のひとつであったP2下部のフリーを達成した.このときの解放感と達成感のためにクライミングをやっているんだなあと悦に浸りながらフォローをビレイする.不調のフォローはフォールしながらもナイストライで無事にビレイ点まで登ってきてくれた.

4P目 P2上部 Ⅴ リード

 続く4P目だが消化試合になるはずだったこのピッチにも意外と苦しめられた.というのも100岩ではP2下部Ⅳ級(崩壊前),上部Ⅴ級となっているがなぜか逆に覚えており上部がⅣ級だと勘違いをしていた.だがそもそも論としてフリークライミングじゃあるまいしこのグレードだからどうという考え方自体が甘かったのかもしれない.

P2上部でだし

 P2上部はまず短い斜上クラックを少し登りマントルを返して横チムニーのバンドに上がる.大したことないムーブと思われたのでプロテクションはとらずに登るつもりで離陸しが,アイゼン冬靴だと実に悪い.素直にクラックの中にカムをきめようとするがクラックには泥が詰まっており安心できるプロテクションが取れない.やむなく覚悟を決めてそのまま登る.横チムニーを腹ばいになりながら立てるところまで行きようやくプロテクションが取れる.今時点では「あれ?Ⅳ級にしては難しいかも..」くらい.

P2上部後半の核心部

 それなりに気を使う中間部をこなし核心部へと至る.このパートはP2の中で唯一ボルトが打ってあるが登ってみるとその理由がよくわかる.クラックは微妙なサイズでまともなプロテクションは取れずやむなくボルトに支点をとり核心パートへ突入.直上するシンクラックにアックスをきめる.ダブルアックスでレイバック体勢になり右上の方にある遠いガバにアックスをかける.クライミングシューズならスメアリングで何とかなるようなところをアイゼンの前爪をクラックに差し込んだり粒に置いたりしながらそおっと体を上げていく.「これはさっきより難しいかも..」

 核心部を抜けるとオニギリの頂点へと上がる斜上クラックだがここも苦戦する.クラックはハンドサイズでジャミングがしっかりと決まるが相変わらず足が悪い.フットジャムできるわけもなく遠いスタンスに足を開いてバランスとる.最後はガバにフッキングしてパワフルに乗越すとようやく終了点に到着する.目の前には最終ピッチとなるP1のチムニーがそびえたつがもうすでにいい時間.今回は中尾根完登を諦め下降の判断をした.

総括

 錫杖や足尾,宝剣など冬壁に通ったシーズンだったがどのルートにも負けないくらい面白かった.雪の付着が少なかったからなんとか形になる登攀ができたがコンディション次第では歯もたたなかっただろう.プロテクションもいいしアプローチ近いしそもそもクライミング自体が面白い.中尾根完登に向けて引き続き精進していきたい.

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