錫杖岳は近いアプローチで本格的なアルパインクライミングが楽しめる人気のエリアです.無雪期には左方カンテや3ルンゼ,1ルンゼなど初心者でも楽しめる質の高いルートがそろっていますが,冬になるとそれらのルートも厳しいものに姿を変えます.それでもシーズンになると多くのクライマーが集まるのはそれだけ魅力のある山域だからでしょう.
そんな冬の錫杖岳の中で入門的な立ち位置にあるルートが3ルンゼですが,この3ルンゼは北東壁と呼ばれるところにある極上のアイスクライミングのルートへ継続することができます.今回は3ルンゼから左ルンゼへ継続するルートを紹介していきます.
目次
3ルンゼから上部アイスルートへ継続
錫杖岳の3ルンゼというと無雪期は暗くてじめっとしたパッとしない印象ですが,冬季になると雪壁あり,アイスあり,岩ありの本格的なミックスクライミングが楽しめる魅力的なルートに変貌します.とはいえ数ある錫杖岳のルートの中ではもっとも登りやすくおそらく冬期で一番再登されているルートでしょう.
そんな入門的な3ルンゼですが,終了点まで抜けると前衛壁の裏側にある北東壁のアイスクライミングのルートに継続することができます.北東壁にはグラスホッパーや左ルンゼといった全5-6ピッチほどで登られるルートがありますが,これらのルートは前半は単調な氷雪壁なので経験のあるクライマーには少し物足りないかもしれません.そこを3ルンゼから継続することで上部の登りごたえのある核心部から登ることができるので充実すること間違いなしです.
アプローチ
冬期の錫杖岳登攀のベースとなるクリヤ岩舎から直上すると前衛壁P4の基部につきます.そこから100mほどトラバースすると著明なルンゼである3ルンゼに到着します.無雪期の1P目は雪に埋もれているので2P目の取付きまで雪壁を登っていきます.ここは締まっているときはサクサク登れますが,降雪後だと苦しいラッセルになり思いのほか時間がかかることもあります.
装備
3ルンゼは基本的には岩のルートでプロテクションはカムやトライカムなどでとれますが,F5はベルグラを登るのでスクリューがあると役立ちます.左ルンゼは完全にアイスのルートでビレイ点を含めてスクリューで支点をとることになるので多めに持っていく方がよいでしょう.
- 50mダブルロープ
- アルパインヌンチャク 10本
- キャメロット #0.3,0.4, 0.5, 0.75×2, 1×2, 2×2, 3
- トライカム #0.5,1,1.5,2
- アイススクリュー 21㎝ 1本,16㎝ 4本,13㎝ 7本
- 捨て縄,ハーケン(敗退用)
ブルーアイスの「エアロ」はアルパインクライミングにおすすめのスクリューです.クロモリ鋼なので他社のアルミスクリューよりも軽量になっています.アルミスクリューである「エアロライト」は世界最軽量(筆者調べ)なので少しでも軽量化したいアルパインクライミング必携の1本です!
3ルンゼ
ここからはルート内容を紹介していきます.まずは3ルンゼから紹介していきます.
1P目 F2 Ⅳ-
雪に埋もれたF1を越え,ビレイ点の露岩右側のルンゼから登り始めます.ルンゼの先にF1がありベルグラを使いながらこれを越えていきます.
2P目 F3 Ⅳ+~Ⅴ
2P目のF3は直上ルートと左上ルートの2本が取れますがいずれも脆いベルグラを使ったデリケートなクライミングになります.左上する場合にはビレイ点左の凹角から取付います.細かいスタンスや脆いベルグラを頼りにルンゼ左壁方向に高度を上げ,雪に埋もれたハーケンやリングボルトで支点をとります.
ハイマツまであがるとようやく一息付けあとはルンゼに戻るべく雪壁をトラバースしていきます.
3P目 F4,F5 Ⅲ+~Ⅳ-
F4はチョックストーンの裏側のベルグラの張ったチムニーを登ります.
F4とF5は50mロープでリンクが可能です.F4を越えた後の短い雪壁を登りF5は右側の壁に張った氷を登ります.ここの氷は厚みもあり安心して登っていけます.
4P目 F6 5.9 or M6 or Ⅳ+A1(左),Ⅳ+(右)
F6はルート全体を通して核心部となるピッチです.左壁は一般的には人工登攀されますがチョックストーン下にカムを決めれば安定したプロテクションで5.9程度のミックスクライミングを楽しめるので挑戦してみるのもありでしょう.難しい場合には右壁から行くとフリーでも容易の越えていけます.
4mほどの岩のパートを越えるとあとは例のごとく雪の斜面を登り木でピッチを切り3ルンゼの登攀は終了です.
左ルンゼ
左ルンゼは北東壁にあるアイスクライミングのルートで3ルンゼから継続することで上部2Pを登ることができます.3ルンゼの終了点から左のルンゼを10mほど登りトラバースしていくとグラスホッパーや左ルンゼの氷に取付けます.
グラスホッパーの場合にはⅢルンゼの終了点からすぐに取りつけますが,左ルンゼはクライムダウンや氷雪壁の登りを交えながら50mほどトラバースすると取付きに到着します.
1P目 Ⅳ
左ルンゼはゴルジュ様の地形の中に張った氷を登ります.1P目は左右の岩壁も使いながら30mほど登ります.核心部分を除いて傾斜自体は強くないですが氷が脆くクライマービレイヤーともに注意が必要です.傾斜が落ちたところでスクリューで支点を構築しピッチを切ります.
ロープ目いっぱい伸ばすと不安定なところでビレイをすることになるので注意が必要です.
2P目 Ⅳ+
2P目は左側のランぺ状態の氷から登ります.直上ラインは氷も薄く傾斜も強くⅤ級くらいありそうです.ランぺ側も思ったよりも傾斜が強く上部は短いですがバーチカルな部分もあるので本格的なアイスクライミングを楽しめます.
最後は雪のたまったルンゼを登り灌木でピッチを切り左ルンゼは終了です.
下降
左ルンゼからの下降はいくつかの方法があります.1つはそのまま上部に抜け烏帽子岩を越え錫杖岳北尾根の2100mのコルから下降する方法です.このルートだと左ルンゼを越えた後もまだまだ長いので気合が必要です.2つ目は左ルンゼの登攀ラインを下降する方法です.3つめはグラスホッパー~3ルンゼのラインを下降する方法です.
3つ目のラインは基本的には往路下降となるため時間的には一番短縮できます.左ルンゼの終了点から左の小尾根を越えトラバースすると20mほどでグラスホッパーの上に出ます.ここから灌木を使うと1回の懸垂下降でグラスホッパーの取付に降りられます.クライムダウンを混ぜつつ3ルンゼの終了点まで下りるとあとは素直に3ルンゼのラインを下降できます.
まとめ
冬期の錫杖岳の人気No1ルートである3ルンゼからオーソドックスなアイスクライミングルートである左ルンゼへ継続するルートを紹介してきました.雪,岩,氷ありでとても充実するルートです.一度登ってみてはいかがでしょうか.
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