錫杖岳は近いアプローチで本格的なアルパインクライミングが楽しめる人気のエリアです.無雪期には左方カンテや3ルンゼ,1ルンゼなど初心者でも楽しめる質の高いルートがそろっていますが,冬になるとそれらのルートも厳しいものに姿を変えます.それでもシーズンになると多くのクライマーが集まるのはそれだけ魅力のある山域だからでしょう.
今回はそんな冬の錫杖岳の中から,グラスリンネへ継続して本峰へ至る最も美しいラインとされる中央稜の稜上へ上がるルートとして最も一般的な中央稜右岩稜左ルートを紹介していきます.
錫杖岳 中央稜
錫杖岳でクライミングというと左方カンテや1ルンゼ,3ルンゼなどの人気ルートが集まる前衛フェイスが有名ですが,圧倒的な迫力のあるこれらの壁から北沢を挟んだ対岸にひっそりとあるのが中央稜です.前衛フェイスのルートはクライミングとしては非常に魅力的ですが,あくまでも壁の登攀という点に主眼を置いているため錫杖岳の頂上まで登ることはまれです.
一方で中央稜は「本峰へ至る最も美しいライン」とも言われており,東尾根やグラスリンネと合わせて錫杖岳の頂上に至るまでを1つのルート捉えるまさにアルパインクライミングを体現しているルートになります.
中央稜右岩壁左ルート
そんな中央稜に上がるルートは複数ありますが,冬期クライミングとして魅力的なのは右岩壁左ルートでしょう.その他のルートは人工登攀になったり,単純な草付き登りだったりなど少し見劣りします.
中央稜右岩壁は錫杖岳前衛フェイスの北沢フランケの対岸にある壁です.左ルートは一番目立つルンゼを直上するルートで,150m3ピッチほどを雪壁,チムニー,ベルグラなどを登って稜上にでます.
アプローチ
中央稜へは無雪期には錫杖沢をつめますが冬期は雪崩の危険があるため一度クリヤ岩舎から3ルンゼ付近まで樹林帯を登ってから前衛フェイス基部をトラバースします.ラッセル次第ですがクリヤ岩舎から1時間ほどで取付きまでたどり着きます.
装備
左ルートは雪壁登りが主体で,中間部でベルグラの張ったチムニーを登ります.カムやトライカムなどの岩用のプロテクションに加え中間支点用のスクリューが何本かあると心強いです.
ルート紹介
ここからは錫杖岳本峰へ至る中央稜~グラスリンネルートのうち,中央稜に上がる右岩壁左ルートを紹介していきます.
1P目 Ⅲ+~Ⅳ-
1P目は雪のつまったルンゼをつめます.締まった雪が詰まっているのでアックス・アイゼンはしっかりと決まりますがプロテクションはとりにくく緊張します.所々に残置のハーケンやリングボルトがあります.
中間部のルンゼが細くなるところで傾斜が強くなります.ここは氷雪が薄くなるためつながっていないこともあります.つながっていればそのまま10mほど登ったところの右手にあるテラスでピッチを切りますが,途切れている場合には左から巻いて岩壁手前のテラスで一度ピッチを切ります.
2P目 Ⅳ+
1P目を直上せず左上した場合は雪ののったテラスでピッチを切り,2P目は右にトラバースしてルンゼに戻ります.ルンゼに入るところが高度感があり緊張します.
ルンゼを5mほど登り本来の?1P目の終了点でピッチを切ります.
3P目 Ⅳ
3P目は引き続きルンゼ内の氷雪壁を登ります.徐々に雪は締まってきますが相変わらず支点はとりにくいです.チョックストーン下のテラスは広く完全にレストできます.
左ルートは全体を通して氷雪壁がメインになりますがそんな中ワンポイントとなるのが2P目中間部のチョックストーンチムニーの通過です.時としてチムニーの中が埋もれていることもあり外側のベルグラを登っている記録もありました.
チムニーの中はホールド・スタンスは豊富で気持ちよく登っていきますが途中狭いところがありザックがあるとスタックします.後半からは氷が垂れておりアックスを効かせながら登っていきます.
チムニーを抜けるとあとは雪のルンゼを登り灌木でピッチを切ります.
ここまで2P50mロープ目いっぱいで100mほどです.頂上まで継続する場合にはP3/P2のコルまでもう1P登ります.左ルートのみの場合にはここより上は登攀としての面白みはかけるためここで終了してもよいでしょう.
まとめ
錫杖岳本峰へ至る最も美しいラインと呼ばれる中央稜へアプローチする右岩壁左ルートを紹介してきました.継続すると充実すること間違いなしですが,左ルート単体としてみても氷雪壁の登攀としては魅力のあるルートです.一度挑戦してみてはいかがでしょうか.
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