錫杖岳といえば登山対象としての認知度は低いですが,知る人ぞ知るロッククライミングのルートが沢山ある人気のエリアです.左方カンテ,1ルンゼなど入門的なアルパインクライミングが楽しめるルートはシーズンになると多くの人で賑わいます.
一方で錫杖岳には入門ルートだけではなく,しっかりとトレーニングをしたや一部のエキスパートしか受け付けない厳しいルートもたくさんあります.
今回はそんな中級アルパインクライミングルートの登竜門的なルートでもあるP4ルーフの紹介をしていきます.
錫杖岳
錫杖岳は日本百名山のひとつである笠ヶ岳の南に延びる稜線に位置する標高2168mの山です.一般的な登山道はなく,登山者にとってはあまり馴染みのない山かもしれません.しかし,錫杖岳には前衛フェイスをはじめとした巨大な岩壁がありクライマーにとっては本格的なロッククライミングが楽しめる山になります.
左方カンテや1ルンゼなど入門的な立ち位置にあるルートは人気がありシーズンになると渋滞ができるほど賑わいます.
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しかし,錫杖岳にはこれらの入門的なルートだけではなくデシマルグレードがつくような中難度や高難度のルートも多く存在しており,フリークライミングで修練したクライマーの挑戦の場という側面も持っています.
P4ルーフ
クリヤ沢の登山道から錫杖岳前衛フェイス見上げると,台形の巨大な岩壁とルンゼを挟んで小ぶりな岩峰が目に入ります.これがP4と呼ばれるピークで今回紹介するP4ルーフはP4の3ルンゼ側に位置していると著明なルーフです.
2004年と比較的最近開拓されたルートで,ROCK&SNOW 27号で発表されています.最初の2ピッチは3ルンゼの左岸の壁をF1基部から取付くじーやの大冒険を登ります.2ピッチ目の前半から真上に見えているルーフに向かって進み,4ピッチ目で核心部のルーフクラックを登ります.2ピッチ目から右上に登っていくじーやの大冒険と比べるとこちらの方が自然なラインに感じます.
核心部は150度ほどの前傾した壁でコーナーのシンクラックに沿って登ります.このピッチに5.10dがついておりアルパインクライミングのルートとしては厳しめです.
1ルンゼや左方カンテなどの人気ルートと比べると再登者は少ないですが岩は比較的安定しておりプロテクションもしっかりとれるため安心して登れます.
ルート紹介
全5ピッチのルートで1ピッチ目と2ピッチ目の途中までは既成ルートのじーやの大冒険と共通です.各ピッチについて紹介していきます.
1P目 5.10a 50m
1P目はじーやの大冒険と共通です.3ルンゼF1手前から右側の壁にあるクラックを目印に取付きます.50m目いっぱいロープを伸ばすのと,3ルンゼ内は落石のリスクもあるため一段上がったところにカムで支点を構築してビレイをする方がよさそうです.
出だしは傾斜の強い壁をポジティブなホールドを使いながら高度を稼いでいきます.クラックが広くなるところで体がはいるため一息付けますが,ここからが核心です.フェイスはホールドも乏しいためチムニーの中に入る必要があります.ですが抜け口ではクラックが狭くなっているため被りを感じます.被ったクラックを抜けると易しい岩場を少し登りピッチを切ります.
2,3P目 Ⅳ+級 30m,Ⅴ級 20m
2P目の途中まではじーやの大冒険と共通ですが,途中からは分かれて頭上に見えているハング帯を目指します.2-3ピッチ目は長さは50mですが屈曲も多くピッチを切る方がいいでしょう.
2ピッチ目は草付き交じりの岩場を登り左にトラバースする手前の狭いテラスにハンガーボルトが1本あるのでここでピッチを切ります.
3ピッチ目はブッシュの多いコーナーから脆い凹角内に入り核心のルーフ下でカムで支点を構築してピッチを切ります.
4P目 5.10d 30m
4P目はルート中の核心で,P4ルーフのハイライトでもあります.
核心のルーフは150度ほどの傾斜でコーナーにクラックがありここにプロテクションをとりながら登ります.ルーフに入るところはハンドジャムがよく効くサイズですが,途中からキャメロットの#0.4程度のサイズになった後にクラックは閉じます.このクラックが閉じる抜け口が思いのほか悪くムーブの組み立てが必要でした.両側の壁にスタンスが拾えるのでレイバックで思い切って登っていきましょう.がクラ
ワンムーブ起こした後はまだ傾斜は強いですがホールドも豊富でクラックも再び開くので安心できます.垂壁になった後は弱点を探しながらひたすら登ります.30mほど登るとハンガーボルトが1本ありピッチを切ることができます.
ルーフを抜けた後の垂壁は難しくはありませんがルーフ越えの疲労感に加えて,高度感がすごく,ところどころ脆いところもあるため緊張します.
5P目 Ⅴ級 20m
5P目は見るからに脆いフェイス登ります.15mほど登ってブッシュ帯に入ったところで終了です.ルート自体の魅力は4P目がハイライトでこのピッチは落ちるので割愛するのもありしれません.
下降はブッシュ帯に入った後に3ルンゼのコルまで歩いて降り,そのまま3ルンゼを懸垂下降するか,北側から歩いて下山をする,あるいは登ってきたルートを懸垂下降する選択肢があります.ただし3ルンゼに後続パーティがいる場合には落石のリスクもあるため懸垂下降は避けた方が無難かもしれません.
まとめ
錫杖岳の中級アルパインクライミングルートであるP4ルーフを紹介してきました.人気ルートである1ルンゼや左方カンテ,注文の多い料理店などとはまた一味違った錫杖岳を楽しむことができます.ルート自体は岩もしっかりしておりプロテクションもよいため隠れた名作の1本です.フリークライミングを頑張っている人は挑戦してみてはいかがでしょうか.
P4ルーフのトポは日本の岩場に少しだけ載っています.詳細を知りたい人はROCK&SNOW27または33に詳しいトポが載っているので参照してみてください!
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