槍ヶ岳や穂高岳,あるいは笠ヶ岳や双六岳などを目指して多くの登山者があるまる新穂高温泉ですが,錫杖岳はそんな新穂高温泉からほど近いところにひっそりと佇むます.クリヤ沢の登山道を歩いていると突如として姿を現す巨大な岩の要塞である前衛フェイスは人気のロッククライミングエリアです.
今回は,そんな錫杖岳の前衛フェイスで中でも初登ルートであり,1位2位を争う人気がある「1ルンゼ」について紹介していきます.
錫杖岳
錫杖岳は日本百名山のひとつである笠ヶ岳の南に延びる稜線に位置する標高2168mの山です.一般的な登山道はなく,登山者にとってはあまり馴染みのない山かもしれません.
しかし,錫杖岳には前衛フェイスをはじめとした巨大な岩壁がありクライマーにとっては本格的なロッククライミングが楽しめる山になります.また新穂高温泉から2時間ほどで岩場にたどり着くというアクセスの良さも魅力のひとつかもしれません.
初心者でも楽しめるアルパインクライミングの入門的なルートから一流のフリークライマーが苦労するような高難度のものまで多彩なルートがあり,錫杖岳には春から秋の週末には多くのクライマーが集まります.
1ルンゼ
錫杖岳の前衛フェイスには3つのピークと3つのルンゼがあり,それぞれ1ルンゼ,2ルンゼ,3ルンゼと呼ばれています.1ルンゼと3ルンゼは一年を通して登られており,特に無雪期の1ルンゼはこの壁の初登ルートでもあり,左方カンテと並んで1位2位を争う人気のルートです.
ルンゼとはいうものの実際に登るのは1ルンゼ左のフェイスになり,明るく気持ちのいいクライミングを楽しむことができます.初登はなんと1931年とのことですが100年近く経つ現代でも十分楽しめる充実した内容となっています.グレード的には左方カンテと概ね同じですが,ルートの長さ,高度感,ルートファインディングなど左方カンテよりは少しだけ難しく感じますので左方カンテの次のステップに登るルートとしておすすめです!!
アプローチ
新穂高にある槍見館脇からクリヤ沢の登山道を登り錫杖沢出合まで1時間半ほど登ります.そこからさらに1時間ほど錫杖沢を登ると前衛フェイスの基部に到着します.前衛フェイスの基部を左方カンテを過ぎて100mほどトラバースした広いテラスが1ルンゼの取付きです.アプローチの詳細については下記リンクで紹介していますので参考にしてください.
装備
1ルンゼを登るのに必要な装備を紹介します.
- 50mダブルロープ
- アルパインヌンチャク 120cm 4本,60cm 8本
- キャメロット #0.4, 0.5, 0.75, 1, 2, 3(0.4~2は2セット)
- n個人登攀具(ハーネス,ヘルメット,クライミングシューズ,確保器,,)
- ハーケン,捨て縄(敗退用)
下降は懸垂下降になるのでダブルロープ推奨です.ルート中にボルトや残置ハーケンもありますが基本的にはナチュラルプロテクションで登ることになるのでカムやナッツなどは必携です.1セットでも登攀可能ですが,プラスアルファで持っていくと安心です.下降時は比較的しっかりとした支点が残置されていますが,シーズンはじめなどは劣化もあるので捨て縄は持っていく必要があるでしょう.
ルート紹介
1ルンゼはルンゼ左のフェイスを登るルートで,トポでは7-8ピッチになっているものもありますが50mロープであれば6ピッチで最終ピッチ終了点の横断バンドまで行くことができます.ピッチを切るところではすべてハンガーボルトがあるので見当たらない場合にはルートから外れているかもしれません.下降は登っていたラインを辿りとりつきまで懸垂下降します.
1P目 Ⅴ+級 50m
1ルンゼの核心は1P目でルンゼ左のフェイスを登っていきます.トポによっては途中のピナクルでピッチを切っていますが50mロープであれば十分リンクできます.よいホールドを探して右へ左へと動きながら登ることになるのでランニングを延長しながらとっていきましょう.所々にクラックがありカムを中心にプロテクションをとることになります.
出だしは段々でホールドもよく気持ちよく登れますが,ピナクルを越えたあたりから傾斜も強くなり手強くなります.この1P目は左方カンテ右手にあるバンドを歩いてくると省略することができますが,このルートの魅力が半減してしまいます.
2P目 Ⅳ級 45m
2P目はこのルート中唯一のルンゼを登るピッチです.出だしのフェイスを登った後は傾斜が緩みます.
ルンゼ右岸にある凹角を登って広いテラスに出てピッチを切ります.そのままルンゼを進むとルートを見失うので注意しましょう.終了点にはハンガーボルトが2点打ってあります.
3P目 Ⅳ級 50m
3P目もトポだと2ピッチに分けていますが50mロープで自然につなげることができます.カンテラインを意識しながら頭上に見えているハングのあるカンテ基部を目指します.このピッチは登れるラインが複数ありルンゼ方面に進むとルートを見失います.カンテの右面に広いテラスがありますが,そこから一段上がったところにハンガーボルトの終了点があります.
4P目 Ⅳ級 25m
以前はこのピッチが核心で人工登攀でハングを越えて登っていたようですが,最近はカンテ左の凹角をステミングを駆使して登っていきます.出だしはハンガーボルトで支点をとりつつカンテを左に巻いていきます.凹角に入ったらそのまま直上し開けたところでピッチが切れます.
5P目 Ⅳ級 35m
このピッチは開けたスラブです.様々なラインを登ることができますがスラブを直上するとランニングがあまり取れないので注しましょう.右側の弱点を突いて登るとカムやナッツが使えたり,残置のハーケンがあります.
スラブの先で凹角部を登るとテラスにあがりピッチが切れます.
6P目 Ⅳ級 20m
最終ピッチの前半部分は広いチムニーです.両側にスタンスが豊富があるのでステミングでぐいぐい高度を上げていけます.
20mほどで岩のパートは終わりバンドに出ます.トポだとここで終了となっていますが筆者は終了点が見つけられなかったので後半部分も登りました.他の方の記録をみるとこのあたりにハンガーボルトの終了点があるようです.見落としやすいので要注意です!!
後半部分は草付きのルンゼで悪いです.途中細い木やガタガタのクラックにカムを入れてプロテクションをとれますが怖いです.10mほど登るとテラスにでて立木で終了です.
まとめ
1ルンゼは100年近く前に登られた錫杖岳前衛フェイスの初登ルートですが,現代でも十分楽しめる名クラシックルートです.自然で魅力的なラインですのでぜひ登ってみてください!!
トポに関しては「日本の岩場」が錫杖岳のいろいろなルートが載っていてます.そのほかにも穂高や劔周辺もたくさん載っているのでおすすめです.
アルパインクライミングルートガイドはルート数は少ないですが左方カンテなど人気のルートはピッチ毎の情報がより詳しく載っています.初めて行く場合にはとてもおすすめです.
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