南八ヶ岳の美しい稜線の中ほどに大同心・小同心と呼ばれる2つの巨大な岩峰があるのを知っていますか?一般登山道からは離れ,通常の登山では踏み入ることができない領域にあるこれらの岩峰はロッククライミングができるエリアとして人気があります.
八ヶ岳のクライミングと言えば冬期が人気ですが,この大同心・小同心は夏場も楽しめる貴重な岩場です.今回は2つの岩峰のうちより大きな大同心のど真ん中を登ることができる大同心雲稜ルートについて紹介していきます!!
大同心
南八ヶ岳を構成する山である横岳の稜線には別に大同心,小同心と呼ばれる巨大な岩峰が存在しています.横岳の稜線から眺めるこの2つの岩峰は威圧的でその姿に圧倒されます.大同心の上部はドーム状になっており,遠くから見ても一目でそれとわかる特徴的な姿をしています.
南八ヶ岳を中心に八ヶ岳にはいくつものアルパインクライミングルートがありますが,八ヶ岳のクライミングルートと言えばその岩のもろさから無雪期にはあまり登られず主に冬季のエリアとして人気があります.しかし,この大同心・小同心と呼ばれる岩峰は岩が硬く,無雪期でも登れる数少ないルートになっています.さらに標高3000m近いところにある西面の岩場でもあり真夏でも快適に登れる貴重な岩場です.
今回紹介する大同心雲稜ルートは大同心で人気のルートですが,小同心で人気のルートと言えば間違いなく小同心クラックです.クラックと呼ばれますがクラック登りではなく凹角にあるガバを使用しながらぐいぐい登っていく気持ちのいいルートです.
大同心雲稜ルート
大同心雲稜ルートは大同心の真正面から登り始め,最後に高度感のあるドームのカンテを登っていく全5Pのルートです.大同心特有のコンクリートされたガバホールドを使いながら,スポートクライミング的なムーブで登っていくアルパインクライミングにしては珍しいルートです.1P目と5P目が傾斜が強くグレードが5.10a程度と高めですが,ホールドもよく,中間支点もしっかりしているので思い切って登っていくことができます.もしフリーで抜けられなくても元々は人工登攀のルートであったためA0,A1で抜けることもできるので安心です.またそのアプローチの良さも魅力のひとつです.
アプローチ
大同心,小同心へのアプローチのベースは赤岳鉱泉です.赤岳鉱泉から硫黄岳への登山道を歩き出すと1つ目の沢(大同心ルンゼ)に入るところで標識があります.踏み跡に沿ってルンゼを歩いていくと途中から大同心稜に上がり,引き続き踏み跡に沿って歩いていくと赤岳鉱泉から1時間ほどで大同心の基部に到着します.
大同心稜から裏同心側(硫黄岳側)へ大同心の基部を踏み跡に沿って50mほど進むとボルトの打っていあるちょっとしたテラスがありここが取付きです.
装備
- 50mダブルロープ
- クイックドロー 4本
- アルパインヌンチャク 120cm 4本,60cm 8本
- キャメロット #0.3, 0.4, 0.5, 0.75, 1, 2
- 捨て縄
- 個人登攀具(ハーネス,ヘルメット,クライミングシューズ,確保器,,,)
大同心から稜線に抜ける場合にはシングルロープでも大丈夫ですが,懸垂下降で取付きまで下りて大同心稜を戻る場合にはダブルロープをおすすめします.また基本的には支点が豊富にありますが,2~4Pは古いハーケンが主体なのでカム類も1セットはあった方が安心です.
ルート紹介
前置きが長くなりましたがここから大同心雲稜のルート内容を紹介していきます.5Pですが各ピッチ25m前後と短めになっています.
1P目 5.9
雲稜ルートは1P目から第1の核心があります.すっきりとした壁にあるコンクリートされたガバホールドを使ってスポーツクライミング的に登っていきます.一見いつ取れてもおかしくなさそうなホールドですが意外としっかりしています.
でだしはガバガバですが最初のボルトが遠いので緊張します.傾斜の強い壁を10mほど登ると核心のハング帯に入ります.よいホールドを探して思い切ってハングを越えるよいでしょう.傾斜は強いですが,このピッチはハンガーボルトを中心に支点がしっかりしているので安心して登ることができます.
2P目 5.9?
2P目も岩はしっかりしています.核心部は中間の凹角ですが1P目のガバホールドを生かしたスポーツクライミング的な登りとは少し変わってステミング,レイバックなど全身を使ったクライミングで高度を稼いでいきます.核心部を越えて右上するとすぐに終了点があります.このピッチも25mほどです.
3P目 Ⅳ級
3P目は今までのピッチとは異なりアルパインクライミングの要素がみっちり詰まっています.登り自体はⅣ級程度で難しくありませんが岩がもろかったり,浮石が多かったりなど緊張感のあるクライミングを楽しめます,右上にあるピナクルを目指して登っていき凹角下の小テラスでピッチを切ります.
4P目 Ⅳ級
4P目は出だしの短い凹角を登りバンドに入ります.逆コの字状になった高度感のあるバンドを体を外に出しながらトラバースし広いテラスまで行くと終了点があります.
出だしの凹角部は岩のもろいところもあり,また支点も残置のハーケンになるため緊張感があります.
草付き帯を5mほど右上しますが,一部崩壊しているところもあるため意外と悪いです.
逆コの字状のトラバースは狭いため体を外に出す必要があり高度感が強いです.
5P目 5.10a
最終ピッチを登りきると大同心の頭に出ることができます.うす被りのフェイスでグレード自体は5.10aくらいでしょうか.最終ピッチはルート全体を通しての核心ですが,ホールドもよく支点も豊富にあるため安心してクライミングを楽しむことができます.3000m近い標高でクライミングはとても気持ちいいです.
まるでフリークライミングのゲレンデのようなしっかりとした岩で安心して登ることができます.
下降
下降は大同心の頭から横岳の稜線にでて一般登山道を歩く方法か,懸垂下降で大同心ルンゼ経由で大同心稜に戻る方法があります.夏の時期にはコマクサなどの植生保護のためにも懸垂での下降が推奨されているようです.
5P目終了点から5P目の取付きまで25mの懸垂下降を行います.5P目取付きからは小同心方向へ草付き帯をトラバースし大同心ルンゼ上部にある懸垂支点から懸垂下降で降りていきます.シングルロープなら2回,ダブルロープなら1回の懸垂下降で大同心基部から小同心取付きへとつながるバンド帯に降りることができます.
まとめ
大同心雲稜は夏の八ヶ岳で登れる数少ないルートです.ピッチグレードは高めですが全体的に岩も支点もしっかりしているので手ごろな印象を受けます.また日帰りで行けるのも魅力的です.アルパインクライマーにもフリークライマーも楽しめるおすすめのルートです.
登山大系は大同心のトポが載っている数少ないルート図です.大同心以外にも八ヶ岳,小川山などの奥秩父,中央アルプスなどのトポが網羅的に乗っているおすすめの一冊です!!
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