はじめに ー山岳遭難は増えている!!ー
近年登山人口が増加していることもあってか以前より山岳遭難のニュースをよく見るようになりました.ただニュースで取り上げられているのはあくまでも氷山の一角であって軽度のものも含めると山岳遭難の件数は増加傾向となっています.その中には残念ながら山で亡くなる方もいます.
このような登山業界の現状もある中で筆者は登山活動をしていますが,一方で普段は内科医として働いています.そんな中,とあることから山岳医というものを知りました.調べるうちに山岳医に興味がわいてきたため今回まとめてみました.
山岳医とは?
山岳医という言葉は聞きなれない方が多いと思います.明確な定義があるわけではありませんが「山岳診療に携わる医師」と考えて問題なさそうです.
山岳医療を専門にしている医師もいますが,普段は内科や外科,救急科,大学病院などの研究職など多種多様な医師が山岳医として活動しているようです.下界の医療では,循環器,呼吸器などの臓器ごとの専門家,あるいは膠原病,感染症などの疾患毎の専門家がいますが,山岳医は臓器や疾患にかかわらず山岳地帯で生じる医学的な問題すべてに対応します.そのためある特定の診療科から派生しているというわけではなく,多様な診療科の医師が山岳医として活動しています.多くは「登山」という趣味から派生したものなのでしょうか.
日本の山岳医の中でも一番有名なのが大城和恵先生ではないでしょうか.メディアでの露出もありますし,登山家の三浦雄一郎氏がエベレストに最高齢で登頂した際にも山岳医として同行していました.
山岳医の仕事内容は?
ではそのような山岳医ですが実際にはどのような仕事をしているのでしょうか?
日本で唯一の山岳医療の専門家の団体である日本登山医学会によると①研究活動,②山岳地域での診療や救助の2つにわけられるようです.
①研究活動
本学会の研究分野は、低酸素分圧・寒冷・紫外線曝露等の高地環境が各臓器機能へ及ぼす影響、高所での運動やトレーニング法、水分・ミネラルの摂取法等極めて多岐に渡っていますが、とりわけ急性高山病などの高所障害、その中でも致命的な高地肺水腫等の研究には力を注いでおり、メカニズムの解明だけでなく医学生理学的背景としてのゲノム解析等にも及んでいます。このような高所医学研究をさらに推進する目的で、旧富士山測候所を活用した共同研究事業も展開しています。
日本登山医学会HP 日本登山医学会について (jsmmed.org)
山で体にどのような変化がおきるかや,安全に登山をするためのトレーニングや各種接種方法などたくさんのことについての研究活動を行っているようです.1年に1回,学術集会が行われていてその場で各自の研究成果の報告などを行ったりしていますね.
②山岳地域での診療や救助
山岳地域での診療や救助にも関与し、野外での緊急対応や、低体温症・凍傷・低酸素症への対応等に関する知識の向上・普及を図っていますが、この活動を通じて、国内外の登山活動・トレッキング・高地を訪れる海外旅行の安全に貢献しています。
日本登山医学会HP 日本登山医学会について (jsmmed.org)
イメージしやすいのは,前述の三浦雄一郎さんなどの登山家やTV番組でタレントさんが海外の高山をはじめとする登山を行うときに同行して健康管理や緊急時の対応を行うといったことですね.他にも日本アルプスの山小屋などには診療のが併設されていることがあってそこに駐在して登山者の診療を行うといったことですね.
山岳医の資格や種類は?
さて山岳医については大まかに説明してきました.山岳医とは?でも触れましたが,山岳医として活動している医師の中には「山岳医だけしている」という医師は多くはなく,下界で日常診療をしながら山では山岳医として活動している医師が多いようです.医師免許をもっていれば山岳診療を行うのに特別に必要な資格はありません.しかし下界の診療でそれぞれの分野で認定医や専門医が存在するように山岳医にも専門制度が存在します.それらについて紹介していきます.日本でとれる資格としては大きく3つあります.
- 日本登山医学会専門医
- 国内認定山岳医
- 国際認定山岳医(Diploma in Mountain Medicine)
1.日本登山医学会専門医
2021年より開始された制度であり,多領域の専門医(総合内科専門医や外科専門医)と同様に分野の専門家であることを示す.学会独自のプログラムを受講することで取得できる.現在20人程度が所有している.
2.国内認定山岳医
専門医制度ができる以前の制度でありDiMMに準じたもの.現在新規の取得はできない.この資格自体も2023年3月までであり専門医への移行制度がある.
3.国際認定山岳医(Diploma in Mountain Medicine:DiMM)
DiMMは医師(あるいは看護師や救急救命士)の養成プログラムであり受講者に与えられる資格のこと.UIAA Medcom(国際山岳連盟医療部会)・ISMM(国際登山医学会)・ICAR(国際山岳救助委員会)など国際的に認められており,山岳地帯で発生しうる疾病および外傷についての理論と対応実践について学び,山岳医学の臨床および研究を実践出来る医師(あるいは看護師や救急救命士)の養成を目指すプログラムである.現在(2021年6月)は日本では48人がこの資格を有している.
山岳医の取得方法は?
山岳医にも専門制度があることを述べました.現在日本で取得できる資格は日本登山医学会専門医と国際認定山岳医の二つになります.これらの資格にはどのようなことが必要なのでしょうか?まず大前提として医師であることが必要となります(ただしDiMMについては看護師や救急救命士でも取得可能).そのほかの要件については下記にまとめていきます.
1.日本登山医学会専門医
日本登山医学会に所属している医師で,(1)山岳診療実践経験がある,(2)日本専門医機構のいずれかの基本領域の専門医を取得している,(3)DiMM holderまたは日本登山医学会国内認定山岳医であるなどのことが必要です.それらのいずれかの条件を満たした上で1単位1時間のe-Learningを21単位受講する(ただし条件によって必要単位数が異なる).
2.国際認定山岳医(Diploma in Mountain Medicine:DiMM)
日本登山医学会に所属している医師でDiMMのプログラムに申し込む.DiMMのプログラムでは学術集会の参加,外傷や山岳医療理論などの座学,山岳技術や救助技術などの演習,夏山/冬山登山技術検定など合計120時間の講義や演習,検定を受講・合格することで与えられる.冬期の認定試験は赤岳鉱泉をベースとして行われる.
http://www.jsmmed.org/download/2021DiMM-JP_CoreProgram.pdf
おわりに
山岳医についてまとめてきました.専門制度があるもののまだ歴史が浅く専門家といわれる医師も多くないことがわかりました.一方で登山人口は増えてきており今後山岳医の需要は高まると思われるので興味のある方は志してみてはいかがでしょうか.かくいう私も山岳医を志すひとりになります.
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