登山者が惹かれるのはもちろんのこと登山をしない人でもその山容に見ほれる日本随一の山である槍ヶ岳ですが,クライミングの対象となる岩場という点では穂高連峰や谷川岳,剱岳などにには一歩遅れを取ります.
そんな槍ヶ岳にも実は近年再注目を集めているバリエーションルートが存在しています.槍ヶ岳の隣にそびえる巨大な岩峰である小槍,そこから曾孫槍,孫槍を経て槍の穂先に登るルートは槍ヶ岳西稜と呼ばれ本格的なアルパインクライミングを楽しむことができます.今回はこの槍ヶ岳西稜についてルート概要,アプローチ,小槍の登攀にフォーカスをあてて紹介していきます.
槍ヶ岳西稜ってどんなルート?
日本百名山の一座であり日本で5番目に高い山,東洋のマッターホルンともいわれる槍ヶ岳のその美しい山容は多くの登山者を魅了します.そんな槍ヶ岳のバリエーションルートでは北鎌尾根が有名ですが,他にも本格的なアルパインクライミングを楽しめるルートが槍ヶ岳西稜です.
槍ヶ岳の隣にそびえる巨大な岩峰である小槍.その小槍の西面を登攀し懸垂下降を交えながら曾孫槍,孫槍を経て槍の穂先を目指すルートです.10ピッチほどのロングルートで,核心部には「くの字ジェードル」を要しており本格的なマルチピッチクライミングを満喫できます.
小槍自体は100年ほど前に初登されたクラシックルートですが,槍ヶ岳西稜は近年再注目されているルートです.
アプローチ
槍ヶ岳西稜は小槍の西面の大テラスから取付きます.大テラスまでは①槍ヶ岳山荘のヘリポート脇からトラバースしてガレ場に合流しそのまま下る,②槍の穂先への一般道を5分ほど登りガレ場を下るの2つの方法がありますがどちらも時間は同じくらいです.今回は比較的道が安定している①のアプローチを紹介していきます.
槍ヶ岳山荘横のヘリポートから穂先への一般道(上図:黄)ではなく,左のトラバース道(上図:赤)の方に進みます.飛騨沢側を巻きながら小槍の手前のガレた沢筋までトラバースしていきます.ここのトラバースは道は狭いですが明瞭な踏み跡があり岩自体もしっかりしているので比較的安心して進んでいけます.
小槍の手前まで来たらガレた沢筋を下っていきます(下図:赤).この沢を下らず小槍の方にトラバースしていくと1ピッチで小槍の頂上まで行ける小槍南面の取付きに行けます(下図:黄).
このガレ場の下りは浮石だらけで不安定ですが,左右の壁の岩はしっかりしておりそれらを支えに慎重に下っていきます.途中,小槍の方にトラバースしている踏み跡(下図:青)がありますが無視してさらに下降します(下図:赤).ここでトラバースすると1ピッチ目の途中にでてしまいます.
細くなっている部分をすぎると少し開けてきます.右側の壁が一枚岩になっておりこれに沿って右に寄りながら降りていくと自然と小槍の方にトラバースしていきます.トポだとⅣ級でロープが必要となっていますが,そこまで悪くはないです.ただし岩がとても脆いのでホールドが剥がれないか確認しながら進んでください.トラバースした先に1ピッチ目の取付きがあります.
小槍 西面
槍ヶ岳西稜のクライミングのメインディッシュは小槍西面です.核心(5.8-5.9)のくの字ジェードルを含む4ピッチからなり魅力たっぷりのクライミングを楽しめます.西壁なだけあって夏場でも寒いのでしっかりと防寒しましょう.
1ピッチ目 5.7
1ピッチ目は大テラスから易しいながらもプロテクションがとりにくいスラブを登り始めます.スラブを登り切ったら小ハングにぶつかります.このハングをガバホールドを頼りにパワフルなムーブで超えていきます.強度は高めですが欲しいところにハーケンが打ってあり安心して登れます.小ハングを超えた凹角の中にハーケンが2枚打ってありここでピッチを切ります.
2ピッチ目 Ⅳ+
2ピッチ目は凹角に沿って豊富なホールド,スタンスを使いながら登っていきます.目の前に核心のくの字ジェードルが迫るあたりでピッチを切ります.
3ピッチ目 「くの字ジェードル」 5.8-5.9
3ピッチ目は「くの字ジェードル」と呼ばれるクラックを登ります.このクラックがアームバーサイズのワイドクラックでなかなか奮闘的です.クラックの中に甘いながらもカチがありフェイス的にも登ることができますが,いずれにせよプロテクションをとりながら登るリードは緊張必至です.
甘いホールドのリップを超えるとクラックの幅は狭くなり傾斜も緩みますが,まだまだ気が抜けません.ハングで上が行き詰まるあたりで支点がありピッチを切ります.
4ピッチ目 Ⅲ
4ピッチ目はハングを右に巻きながら登ります.高度感のある出だしをすぎるとあとは階段状のリッジを登っていきます.
小槍頂上
小槍の頂上は意外と広くきっとアルペン踊りを踊ることもできるでしょう.登り切った反対側に懸垂支点があるので慎重に移動します.懸垂支点は新旧のものが乱立しているのでしっかりと確認して安全なものを選択しましょう.
40mほどの懸垂下降をして小槍と曾孫槍のコルにでます.このときに小槍南壁右ルートにそって下りてくるので登攀している人がいる場合には注意しておりましょう.
曾孫槍~孫槍~大槍
小槍のコルからは曾孫槍2ピッチ,孫槍2ピッチ,大槍2ピッチのクライミングがありますが,いずれもⅢ~Ⅳ級程度であり余裕をもって登れることでしょう.ただし岩がもろいので注意しましょう.
まとめ
槍ヶ岳西稜は槍ヶ岳山荘までの長いアプローチですが,そのアプローチをしても登る価値のある素晴らしいルートです.まず普段は遠めに見ている小槍の巨大さに圧倒されるでしょう.そしてクライミングでいたる槍ヶ岳山頂は,いままで登ったどの槍ヶ岳登山よりも感動を与えてくれるでしょう.
槍ヶ岳西稜のルートも掲載されている日本の岩場下巻です!!槍ヶ岳西稜のトポが載っている書籍は少なくアルパインクライミングを楽しむ人には必携の一冊です.
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