中央アルプスには他の山域と比べるとロッククライミングができるエリアが少なく,宝剣岳がほぼ唯一のエリアになります.岩質は花崗岩で硬く,節理が発達しているためプロテクションもよく思い切ったクライミングを楽しむことができます.また千畳敷駅から1-2時間で岩場に取り付ける至近のアプローチも魅力的です.
宝剣岳の岩場は1年を通して登ることができますがその真価を発揮するのは雪の付いた季節でしょう.アプローチ近しといえど3000m級の山であり環境の厳しさはまさにアルパインクライミングです.
今回紹介する第二尾根はそんな宝剣岳の西面にあるダイレクトに突き上げる尾根で,3-4ピッチと短いながらもウインタークライミングのエッセンスが詰まった魅力的なルートです.
宝剣岳の冬期クライミング
中央アルプスでもっとも馴染みのある山は一年を通じてロープウェイで手軽に登ることができる木曽駒ケ岳ですが,木曽駒ケ岳と峰を連ねる宝剣岳はロープウェイの千畳敷駅を降りると目の前に佇んでおりこちらも多くの登山者が訪れる山です.
宝剣岳は花崗岩によって形成された険しい岩峰で,東西に切れ落ちる急峻な岩稜を有しています.これらの岩稜は古くから登攀の対象とされています.千畳敷駅から1-2時間で岩に取付くことができ3000m近い標高でのクライミングをお手軽に楽しむことができます.
岩自体はしっかりとした硬さのある花崗岩で,節理も発達しているため安定したプロテクションをとることができます.逆に言えばどこでも登ることができてしまうためルートファインディングには気を使います.また残置支点は少なめで自分でナチュラルプロテクション主体で登ることになります.
宝剣岳第二尾根
第二尾根は宝剣岳の西面にあり山頂に突き上げる尾根です.短いながらも急峻で草付きや雪壁が少なく純粋な岩のクライミングが楽しめるルートです.取付きから山頂まで3-4ピッチと短いためスピーディーに行動すれば冬期でも日帰りでの登攀が可能な貴重なルートです.
第二尾根のトポは「冬期クライミング」か「登山大系」で確認することができます.「冬期クライミング」にはウインタークライマーズミーティングによる最新のトポが載っています.定番の「登山大系」は詳しく載っていますが人工登攀のラインとなっており若干異なります.
アプローチ
宝剣山荘から宝剣岳北稜を登り天狗岩を越えたB沢を下降します.B沢には小尾根がありますが小尾根のどちら側を降りても第二尾根に取付くことができるのでコンディションをみて判断しましょう.B沢は傾斜が強いので下降前にハーネスやギアの準備をお忘れなく!
B沢の下降は途中Ⅱ~Ⅲ級程度の急な場所もありクライムダウンをしながら慎重に下ります.雪のつきかたが悪そうであれば懸垂下降も選択肢になります.支点となるようなピナクルは沢山あります.
左手に宝剣岳の山頂へ延びる第二尾根を見ながら200mほど下降するとC沢と合流し尾根の末端にたどり着きます.第二尾根末端にあるルンゼから取付きます.取付きには残置のハーケンが打ってありました.
1P目
1P目は尾根末端のルンゼから登り始めます.1P目は全体を通して岩の弱点である凹角を登っていきます.凹角を登っていくとすぐに頭上を岩で抑えられたチムニーになるのでここを左または右に抜けることになります.宝剣岳は節理が発達しておりプロテクションは豊富に取れるので好きなラインで登ることができます.見た目の印象はどちらも同じくらいの難しさですが,筆者たちは登山体系にならいB沢側にでる左抜けとしました.一瞬スラブにでて再び凹角に戻るところが悪かったです.
その後も凹角に沿って第二尾根のB沢側を登っていきます.45mほどロープを伸ばすと目の前にチョックストーンが挟まった顕著なチムニーが現れるのでここでピッチを切ります.
第二尾根は残置が少なく,基本的には支点構築も含めてナチュラルプロテクションで行います.それもアルパインクライミングらしくおもしろいルートです.
2P目
2P目は弱点を突くとチョックストーンの挟まった著明なチムニーを登ることになりますが,左のクラックのある凹角も面白そうだったので筆者たちはこちらを登りました.グレード的にはⅣ+くらいで十分フリーで登れます.
リップをこえた後は関係者の雪面を登ります.30mほどでピッチを切りましたが,この先にある3P目にあたる岩も継続して登ることも可能です.
3P目
3P目の出だしは傾斜は強いですがクラックがよく発達しておりしっかりとしたプロテクションの下,思い切って登れます.ここも自由にラインがとれ,筆者は右側のうす被りのクラックを登りました.チョックストーンにアックスをかけてパワフルなムーブで超えていきます.4mほどの岩を越えると再び雪面に入るので次の岩峰の手前でピッチを切ります.
4P目
最終ピッチの岩峰左のコーナークラックか岩峰右のスラブを登ります.左のクラックはフリークライミングでは5.8-9程度ですがアイゼンでは足がかりもなく厳しそうです.右のスラブは元々人工のルートでリングボルトが2本打ってありますがこちらもフリクションクライミングを要するスラブでアイゼンで登るのは難しそうです.
筆者たちは人工ルートの右端にあるクラックを登りました.とはいっても出だしは足がかりがなく,離陸のみアブミを使用しました.離陸した後も厳しく,トルキングや草付きクラックへのアックスの甘い打ち込みなどでじわじわと高さを上げていき5mほど登るとようやく一息付けます.
その後,やさしい岩場を登ると傾斜は落ち宝剣岳山頂につながるリッジを歩いていきます.最後は一般ルートに合流し宝剣岳の山頂を目指します.
まとめ
宝剣岳西面第二尾根を紹介してきました.アプローチ至近でゲレンデ的な要素も持つエリアですが,とはいっても3000m級の稜線で本格的なアルパインクライミングを楽しむことができます.八ヶ岳などと比べるとピリリとしびれるとクライミングができる好ルートです.日帰りでお手軽に行けるルートでもあるので一度訪れてみてはいかがでしょうか.
今回紹介したルートは支点構築も含めてほとんどナチュラルプロテクションで行いました.シビアな行程になりがちなアルパインクライミングでは軽量化が重要事項ですが,カムについてはULを使うことで大きな軽量化を期待できます.以下のリンクではULキャメロットの紹介をしていますので参考にしてみてください!
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