屏風岩東壁雲稜ルート|日本を代表するアルパインクライミングルート-前編(ルート概要&T4尾根)

アルパインクライミング
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 横尾から涸沢に向かって横尾谷の左岸を通っているときに左手に巨大な岩壁が姿を現します.前穂高岳北尾根の末端に位置するこの岩壁は屏風岩と呼ばれ古くから多くのクライマーによって愛されてきました.

 登山者としてこの壁を眺めたときは登る人がいるとは露も思わず,クライマーになってからでさえその巨大さに圧倒されより一層遠い存在になってしまいます.

 そんな屏風岩の中でも雲稜ルートは入門的な位置付けにあり,なおかつ長い歴史の中に埋もれず今も登られ続けている王道のクラシックルートです.今回は前後編の2回に分けて屏風岩雲稜ルートについて紹介していきます.前編である今回はルートの全体像とT4尾根のルート紹介を行っていきます!

屏風岩雲稜ルート
  • 屏風岩登攀の入門的立ち位置
  • 標高差約400m,計10Pのロングルート
  • 1Pの人工登攀を除き,他は岩の弱点を巧妙に突いたフリークライミング
  • 初登から70年以上も登り続けられる王道クラシックルート

屏風岩とは?

 谷川岳,劔岳と並んで日本三大岩場に数えらえる穂高岳は滝谷,奥又白谷,そして屏風岩と言われる大岩壁を有しています.

 横尾から涸沢に向かって歩いていると横尾谷を挟んで対岸に巨大な岩壁が見えてきます.この岩壁が屏風岩です.前穂高岳の北尾根末端にある屏風岩は横幅1000mに渡って屏風状に広がる日本最大級の岩壁で標高差は600mにも及びます.登山者としてこの壁を眺めたときはまさかこの壁が登る対象となるとは思いません.クライミングをする人にとってもそのスケールの大きさから敷居は高く容易には取りつけない憧れの岩場でしょう.

屏風岩

屏風岩雲稜ルート

 屏風岩は東壁,中央壁,北壁,右岩壁の4つに分けられますが,地震などによる岩場の崩壊もあって現在も登られているのはほとんど東壁のみになります.雲稜ルートは東壁に位置する屏風岩の入門的な立ち位置にあるルートで今から70年以上前に初登されています.

 アプローチ的な意味合いのT4尾根を含め全10ピッチほどのルートで,人工登攀の1ピッチを除いてほとんどの部分をフリークライミングで登ることができます.人工登攀のパートは比較的支点もしっかりしている垂壁のA1で,フリーのパートもⅣ級~5.9程度としっかりトレーニングをして臨めば一般的なクライマーにも十分楽しめます.

プランニング

 行程としては①上部の終了点から往路を懸垂下降するものと,屏風の頭まで抜けて涸沢経由で下降するものがあります.

 雲稜ルートは最終ピッチがプロテクションの取れない濡れたガリーでとても悪いため,クライミングを目的としていくのであれば6P目の終了点までとする計画でよいと思います.横尾をベースとする場合にはバスの時間もあるため2泊3日が一般的です.週末の土日で行く場合には初日にT4テラスまで上がって,2日目に雲稜ルートの登攀+下山という行程になるでしょう.

 屏風の頭まで抜ける場合には雲稜ルートの終了点からさらに2時間程度かかります.こちらは横尾ベースとT4幕営に加えて涸沢ベースという選択肢がでてきます.

装備(登攀具)

 筆者が雲稜ルートの登攀に使用した装備を紹介します.あくまでも一例なので参考程度にしていただければと思います.

個人装備
  • ハーネス
  • クライミングシューズ
  • ヘルメット
  • 確保器
  • アブミ ×2
  • フィフィ
  • PAS

 個人装備としては一般的な装備に加えて,人工登攀があるためアブミおよびフィフィが必要となります.また懸垂下降で降りる場合にはPASは必須装備かと思います.

共同装備
  • ダブルロープ50m~ ×2
  • カム類(キャメロット #0.3~2)
  • ナッツ(#1~6)
  • 3mmシュリンゲ
  • アルパインヌンチャク 120㎝×4,60㎝×6,シュリンゲ 60㎝×2
  • クイックドロー ×6
  • ハーケン(縦横×2,アングル×1) ※未使用
  • 捨て縄 7mm×10m

 長い下降もあるのでダブルロープシステムが推奨で長さは50mであれば十分です.残置のハーケンやリングボルトは沢山ありますが強度が怪しかったりランナウトする場面もあるのでカムやナッツなどの最低限のナチュラルプロテクションは必須です.

 人工登攀パートは比較的新しい支点もありますが,リングのないボルトや錆びた3mmのボルトが軸のシャックルしかない部分もあり3mmシュリンゲは数本必要です.また懸垂下降をする場合には,特にシーズンはじめなどは残置支点のロープは劣化している場合も多く捨て縄は多めに必要だと思います.

アプローチ

 上高地から長い道のりを経て横尾につくと梓川をはさんで対岸に屏風岩が姿を現します.横尾のキャンプ場をベースとすると快適な夜を過ごせます.

ベースとなる横尾
横尾から見る屏風岩
奥上高地 横尾山荘
奥上高地逍遥に、北アルプス槍ヶ岳・穂高連峰への行き帰りに、お風呂のある山小屋でゆっくりとおくつろぎください。

 横尾から20分ほど歩くと樹林帯を抜け左手が開け横尾谷をはさんで屏風岩が目の前に迫ります.右手に岩小屋跡の標識があるところで河原に入ると対岸に1ルンゼ押出があります.1ルンゼ押出はこじんまりしておりぱっと見はわかりづらいですが,岩小屋跡のほぼ真正面にある沢筋になります.

 流れの弱い所を探して渡渉します.私たちが行ったときは7月下旬で1ルンゼ押出の下流10mくらいの所で渡渉ができ膝くらいの深さでした.水量が多いときは渡渉に難儀する場合もあるようで,ウェブ上の記録では新村橋付近から梓川右岸を歩いてきたという記録もありました.

1ルンゼ押出

 1ルンゼ押出に入ると最初はうっそうとした樹林帯ですが,すぐに開けた地形になり30分ほど登ると目の前に巨大な屏風岩が姿を現します.渡渉が順調にいけば,横尾から1時間強でT4尾根取付きに到着します.7月中は1ルンゼ上部には雪が残りますが,T4尾根の取付きには雪渓の脇の小尾根を登っていけるのでアプローチにアイゼンは必要ないことが多いです.

T4尾根

 T4尾根は屏風岩東壁の各ルートの取付くためのアプローチ的な尾根ですが,1P目,2P目は内容も充実しておりアプローチにしておくのはもったいないくらいです.2Pの本格的な岩登りを経て,100mほどの歩き,最後にⅢ級程度の易しい岩場を越えるとテント2張りほどのスペースがあるT4テラスに到着します.

T4尾根

1P目 Ⅳ級

 T4尾根は1ルンゼ向かって右側の凹角に沿って登りだします.傾斜は強くなく一見どこでも登れそうですが,1P目からしっかりとしたクライミングになります.40mほどロープを伸ばすとハンガーボルトの終了点があります.

2P目 Ⅴ-級

 2P目の出だしは傾斜の強いフェイスで露出感があります.10mほど登って凹角にあるクラックに沿って登ります.1P目2P目ともしっかりしたホールドがあるのでよく探して登っていきます.

3P目~ Ⅲ級

 2P登り終えると100mほど歩きます.ところどころ岩場がありますが難しくはなくロープを出さずに登っていけます.視界が開けるとⅢ級ほどの岩場が現れ,ここのチムニーをステミングしながら登った先に残置のアブミ,お助けひもがあります.最後に夏には花が沢山咲いている草付きの斜面を少し歩くとT4テラスに到着します.

 T4テラスは2-3人用テント2張りほど張れる広いテラスで快適にビバークできます.トポには少々キジ臭いという記載がありますがあまり気になりませんでした.

まとめ

 今回は屏風岩の入門ルートである雲稜ルートを前編としてルート概要&T4尾根について紹介しました.後編ではいよいよメインの雲稜ルートの紹介をしていきますので合わせてお読みいただけたら幸いです!!

今回の屏風岩雲稜の山行は下記のルート図を参考にしました.屏風岩をはじめ北アルプスの名アルパインクライミングルートが掲載されているクライマー必携の一冊です!!

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