世界一わかりやすいルーフクラック特集|瑞牆・城ケ崎・桐生辻・楯ヶ崎・ヨセミテ

トラッドクライミング
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 圧倒的なルーフ,,日本語で「屋根」と呼ばれるその壁の威圧感はすさまじくこんなもの登れるのかとクライマーを怖気づかせます.スラブや垂壁,前傾壁など多様な壁がありますが,その中でも時には完全に逆さまになって登るルーフには特別なものがあります.

 昆虫や爬虫類が天井に張り付いているのをみて「なんで張り付いていられるんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか?通常は人類がたどり着くことができないはるか離れた天井に岩の弱点を見出し攻略していく.ルーフのクライミングは強度が高く,高グレードの課題が多いため一般的なクライマーには敷居が高いとされることが多い,そんなルーフの中でも岩の割れ目を弱点として攻略していくルーフクラックは比較的取付きやすいことが多いです.

 本稿では筆者が触ったルーフクラック(完登できていないものも含む)のルートを紹介して行こうと思います.この記事をきっかけに少しでも多くのクライマーがルーフに目覚めてくれれば幸いです.

この記事で紹介するルート
  • 理想は180度だが体感的・ムーブ的には135度を超えるとルーフに感じる
  • コーナーのトラバースっぽいムーブのルートは除く
  • ワイドっぽいルートは除く(これはまた別の嗜好なので)
  • 筆者がトライしたルート
ルートグレードエリア傾斜ルーフ度クラック度
ネームレスクラック5.11a瑞牆180度15%95%
十文字5.12b/c瑞牆180度20%60%
岩小屋ルーフ
/アルカイックスマイル
/画竜点睛
5.10d
/5.12a
/5.12d
瑞牆180度80%
30%
100%
40%
タコ5.12a城ケ崎135度40%90%
マリオネット5.12a城ケ崎135度~80%70%
スコーピオン5.12b城ケ崎180度80%90%
ジェニュインリスク5.12a城ケ崎190度80%90%
オカシュカ―5.11b城ケ崎160度70%90%
スパニッシュダンサー5.11c城ケ崎150度40%40%
雄鹿が鳴くと雨ずらよ5.12a桐生辻135度60%100%
釣り師のテラスのルーフクラック3段楯ヶ崎180度60%60%
セパレート・リアリティ5.11dヨセミテ180度60%95%
用語解説
  • 傾斜    …一番傾斜が強い所の斜度
  • ルーフ度  …ルート中のルーフクラック部分がどのくらいあるか
  • クラック度 …ルート中のクラック部分がどのくらいあるか

瑞牆

 花崗岩のビッグエリアである瑞牆山にもルーフクラックは沢山あります.「画竜点睛」「現人神」「不動の拳」など名だたるルーフクラックが沢山あります.花崗岩の特徴としては下部がぽっかりと崩れ落ちた180度のルーフクラックが多めです.

ネームレスクラック(ドリルいらず)(5.11a) 180度

 カサメリ沢は花崗岩の聖地瑞牆の中でもおそらく一番人気のエリアで,シーズンの週末には人気ルートに行列ができるくらい多くの人でにぎわっています.そんなカサメリ沢の90%以上はスポートルートです.

 スポートルートが主流のカサメリ沢においてまさかルーフクラックがあるなんて思いもよらないでしょう.ですがモツランドに行ったことがある人は必ずこのネームレスクラックを見たことがあるはずです!しかし残念なことにスポートルートが主流のカサメリ沢ではこのルートを登攀の対象としてみていない人も多いと思います.

 2mほど張りだすルーフが特徴のルートでプラチナムの左の凹角のクラックを登りルーフに取付きます.シンハンドジャムを効かせつつフットワークを駆使しながらルーフを進んでいくと,あっと言う間にリップにたどり着いてしまいます.リップ越えのムーブも面白く,ルーフを越えた後もクラックが続き充実します.ルートのほとんどの部分をクラックで登れるのもこのルートの魅力です.

十文字(5.12b/c) 180度

 十文字しじま谷にあるルーフクラックで杉野保さんが2015年に開拓した比較的新しいルートです.目を見張るルーフクラックに取付くため,佐上する易しいランぺを登り,目的のルーフクラックのはるか左にあるルーフ下の水平クラックに取付きます.ここからジャミングとフェイスムーブをミックスさせながら長いトラバースを経てようやくルーフクラックにたどり着きます.

 ルーフクラック自体はハンドジャムがよく効きますが,長旅を経てからのパワフルなムーブはひと苦労です.見栄えのするルーフクラックを見事に弱点を突きつつ攻略していくとても興味深いルートです.

岩小屋ルーフ(5.10d)/アルカイックスマイル(5.12a) 180度

 岩小屋ルーフアルカイックスマイルというと効きなじみはあまりないかもしれませんが,画竜点睛というルートは瑞牆クライマーなら聞いたことがあるかもしれません.この3ルートはいずれも共通するルーフクラックから始まるルートになります.

 不動沢から続く瑞牆山の登山道を歩いていくと屏風岩を少し過ぎたところに何十人も入ることができそうな巨大な岩小屋があります.この岩小屋に上記の3ルートはあります.奇跡的なほどに180度のルーフは短いながらあなたをルーフクラックの世界にいざないます.リップを越えて2つ目のルーフまでが岩小屋ルーフです.いまは終了点もなくあくまでアルカイックスマイル,画竜点睛の一部としてとらえられています.

 2つ目のルーフ下を浅いクラックを道しるべにトラバースしながら突き当たったコーナーを上がり岩小屋の角にあたるところまで進みます.ここから左に行くとアルカイックスマイル,右に行くと画竜点睛です.どちらもルーフ下をトラバースしルーフの外に出たところが終了点となっています.

城ケ崎

 ルーフクラックと言えば城ケ崎,城ケ崎と言えばルーフクラックと言っても過言ではないほどルーフクラックが豊富にあります.城ケ崎のルーフクラックはドーム状になっているものが多く,135~160度くらいのルーフクラックが多めです.ドームの頂点にあたることろは180度近いルーフも存在しています.

タコ(5.12a) 135度

 タコは日本で一番最初に登られた5.12のクラックルートで,傾斜は135度程度ですが実際に取付いてみると体感的には完全にルーフクラックです.立体的なムーブの多い城ケ崎のクラックにしては珍しくジャミング一本勝負のルートです.なみだちというエリアにあり,その名の通り波が高いと濡れながらビレイすることもあります.

 全体的にオフフィンガーからシンハンドサイズで厳しいクラックですが,ところどころジャミングが決まる部分がありそこを中心にムーブを組み立てていきます.ルーフ部分は短めですがその短い部分に5.12が凝縮されており,ジャミング技術,ルーフ技術,フィジカル,精神力が試される好ルートです.

マリオネット(5.12a) 135~150度

 かつてROCK&SNOWという雑誌でOLD BUT GOLDという特集がありました.マリオネットはそこで取り上げられたルートの1本です.世界的なアルパインクライマーである山野井さんがヨセミテのルーフクラック「separate reality」に感化され「日本にもルーフクラックを!」という意志をもって開拓されました.

 マリオネットは城ケ崎の中でも異質な雰囲気をもつアストロドームと呼ばれるドーム状のエリアにあるルートで,徐々に強くなる傾斜壁をハンドジャムとガバホールド使いながら操り人形のようなダイナミックなムーブでつないでいきます.途中,ルーフの中のチムニーでのレストを入れつつ,最後はパンプ必至のルーフをハンドジャムで登ります.城ケ崎の立体的なムーブが満載に詰まった名ルートです.

スコーピオン(5.12b) 180度

 浮山橋と言われる別荘地から徒歩数分の静かな海岸にスコーピオンはあります.これまた城ケ崎らしいルーフのトラバースルートで様々なタイプのジャミング技術を求められます.とても所見では思いつかないような奇想天外なムーブで攻略していきます.

ジェニュインリスク(5.12a) 190度

 マリオネットやスコーピオンはルーフクラックながら城ケ崎を代表するルートでシーズンには多くのクライマーが集まります.一方,同じルーフクラックの中でもジェニュインリスクは知る人ぞ知るルートです.知名度は低いながら前述の2つに負けない魅力を持っています.

 赤沢港と呼ばれる城ケ崎の南端エリアにあるルートで見栄えのする180度を超えるルーフが特徴です.足先行ムーブでルーフを進み,リップを悪いシンハンドで超えていきます.短めのルートですが凝縮されたルーフの魅力を堪能できます.

オカシュカ―(5.11b) 160度

 オカシュカーはジェニュインリスクの隣にあるルートで短いルーフを越えていきます.他のルートと同じく独創的なムーブでルーフを越えていく城ケ崎らしさが詰まったルートです.

スパニッシュダンサー(5.11c) 150度

 バンブー北の磯と言われる城ケ崎の中でも玄人好みのエリアがあります.カメノテと言われるエリアのルートを登ってその先を懸垂で降り,さらに洞窟を抜けていくという冒険性に満ちたアプローチを経てたどり着きます.

 ルーフの途中からスパニッシュダンサーに取付き,強度の高いムーブでリップを越えた先に,プロテクションの取れないフェイスが待っています.洞窟の奥から続くイッカクというルーフクラックボルダーからつなげるとイッカクダンサーというルートになります.

桐生辻

 滋賀県に桐生辻と呼ばれる岩場があります.1980年代に開拓された知る人ぞ知る花崗岩のクラシカルな岩場です.ルート本数は多くはありませんが,紹介する「雄鹿…」をはじめとする味のあるルートがそろっています.

雄鹿が鳴くと雨ずらよ(5.12a) 135度

 雄鹿が鳴くと雨ずらよはフィンガーサイズから始まりシンハンドを経てハンドに至る135度ほどのクラックで見た目は「ルーフクラック?」となりますが実際に取付いてみると間違いなくルーフです!

 出だしのフィンガーパートは非常に厳しいですが,立ってスタートするとこのパートをすっぽり飛ばせるためシンハンドがよく効く快適なルートになります.それでもやはり強度は高く,ジャミング自体も決して楽ではないため短いながら十分満喫できることでしょう.

楯ヶ崎

 楯ヶ先をはじめとする尾鷲の岩場はクラシカルな岩場であると同時に現在進行形で開拓の進む若いエリアでもあります.うねうねと続く海岸線に花崗斑岩が連なり未だ無限の可能性を秘めたるエリアです.

釣り師のテラスのルーフクラック(3段)180度

 楯ヶ先は花崗斑岩の柱状節理が連なるエリアでルート課題のほかにボルダー課題も多くあります.またクライマーだけではなく釣り人も多く訪れるエリアです.

 そんな楯ヶ先の釣りをするのに快適すぎるテラスにルーフクラックがあります.柱状節理の下部1mほどがすっぽりと抜け落ち巨大なルーフを形成しています.7mほどルーフを進み,リップをこえた後に5mほどの垂直な壁を登ります.ルーフ部分はクラックだけではなく,多彩なホールドを使いながらムーブを作ります.ルーフを抜けた後は易しいクラックながらも落ちられない緊張感から手に汗を握ります.

ヨセミテ

 ヨセミテはアメリカ合衆国カリフォルニアにある言わずと知れた花崗岩の聖地です.そのスケール,質ともにトラッドクライマーなら一度は訪れたいエリアです!!

セパレート・リアリティ(5.11d)180度

 セパレート・リアリティはおそらく世界一有名なルーフクラックでしょう.180度の完全なルーフに走る1本のクラック,このルートを登るために多くのクライマーがヨセミテに誘われました.その見た目の美しさだけではなく,内容,ロケーションとも最高の1本です.

その他気になるルーフクラック

まとめ

 ルーフクラックについて紹介してきました.通常であれば到底登ることができないルーフですが,クラックという弱点を突くことで攻略可能になります.一見取付きにくいルーフクラックですが,クライミングである以上特殊な技術はいりません!必要なのは一般的なクライミングの技術と熱い思いだけ.一度触れば虜にされること間違いなしです!

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