横尾から涸沢に向かって横尾谷の左岸を通っているときに左手に巨大な岩壁が姿を現します.前穂高岳北尾根の末端に位置するこの岩壁は屏風岩と呼ばれ古くから多くのクライマーによって愛されてきました.
登山者としてこの壁を眺めたときは登る人がいるとは露も思わず,クライマーになってからでさえその巨大さに圧倒されより一層遠い存在になってしまいます.
そんな屏風岩の中でも雲稜ルートは入門的な位置付けにあり,なおかつ長い歴史の中に埋もれず今も登られ続けている王道のクラシックルートです.今回は前後編の2回に分けて屏風岩雲稜ルートについて紹介していきます.後編である今回はメインである雲稜ルートの紹介をしていきます!
雲稜ルート
雲稜ルートはT4テラスから7P+歩きで屏風の頭まで抜けられるルートです.3P目が人工登攀A1である以外はⅣ級~5.9程度のフリークライミングで抜けることができます.ちなみに核心の3P目をフリーで抜ける場合には細かい垂壁で5.11c程度と言われており難易度は大分上がります.
自信のない方は最初は雲稜ルートをガイドしている山岳ガイドもいますので選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?
1P目 5.7 50m
1P目はT4テラスからみて右上にあるピナクルテラスを目指します.1段上がったレッジを右にトラバースし凹角にはいります.ステミングを中心に,クラックなども使用しながら高度を上げていきます.途中にある小ハングが核心でジャミングを駆使して思い切って登りましょう.
2つ目のハングをブッシュも使って右側に越えると高度感のあるフェイスに出ます.足元の草付きが邪魔ですがしっかり探すとガバホールドばかりなので落ち着いて登りましょう.途中にピッチを切れるような支点もいくつかありますが,ロープを50m目いっぱい出してピナクルまで登るのがおすすめです.
↑1P目の終了点
←1P目はピナクルを目指して登る
2P目 5.9 40m
2P目がルート全体を通して最初の核心です.出だしの垂壁を右上しますがホールドが遠く,スタンスも細かく難しいです.核心部を越えると傾斜は多少緩みますが細かいフェイスで支点も取りにくく緊張します.
15mほど登ると左上するルンゼに入り扇テラスは目前です.左上ルンゼは草付きの緩斜面でブッシュをつかみながら登っていきます.
扇テラスは以前は扇岩と言われる岩がありましたが2020年の地震で崩壊しビバークできる広さを持ったテラスになりました.扇岩が崩壊したため終了点の位置が高くなっているためテラス端にあるピナクルにスリングをかけて終了点とします.
3P目 Ⅳ+,A1(5.11c) 40m
3P目は雲稜ルートのハイライトで唯一の人工登攀パートです.扇テラスのピナクルに乗って1ピン目にアブミをかけて人工登攀をスタートします.
途中にハンガーボルトもぽつぽつとありますが,全体的には老朽化したリングボルトが中心で恐る恐る荷重をかけていきます.中にはリングが伸びきったもの,リングがなくなってスリングが通してあるものや,3mm程度の細いシャックルが通してあるようなものもありアブミをかける支点を慎重に選ぶ必要があります.
前半部分は比較的しっかりとした支点が続きますが,後半になってくると支点の状態はどんどん悪くなってきて緊張します.ただ徐々にホールドも増えてきておりフリーも混ぜながら抜けることが可能です.右上しつつフレーク下のレッジまで行きピッチを切ります.
アブミにはプレート式と振り分け式の2つがありますが,日本のアルパインクライミングルートであればプレート式がおすすめです.マウンテンダックスのアブミは最上段にプレートが付いており,リストループもついているためこれ1セットあれば日本のほとんどすべてのルートに行くことができます!!
4P目 5.9 30m
2P目が技術的な核心,3P目がルートのハイライトなら4P目は精神的な核心です.出だしの数手が非常にもろく,軽い音を立てるフレークやらを使いながら登っていきます.
5mほど上がるとバンドに出てここから恐怖のトラバースが始まります.ホールドはガバ,足はレッジなのですが,高度感と途中の草付きで足元が見えないのが相まって非常に緊張します.トラバースを抜けて左上する東壁ルンゼのブッシュを登ると終了点があります.
5P目 5.7 50m
ここからは東壁ルンゼのコーナーを登っていきます.出だしの草付きを越えるとフリクションのよく効くスラブになります.このピッチはコーナーを中心にクラックが発達しておりフィンガー~ハンドジャムができると気持ちよく登れます.またプロテクションもカムやナッツでとっていけます.
中間部の小ハングが技術的には少し難しく,クラックの内をもってレイバックで思い切って登るのがいいでしょう.視界が開けるところで小テラスがありピッチを切ります.
6P目 Ⅳ 20m
5P目までは快適な岩のクライミングですが,6P目は草付きのスラブになります.夏の時期だとブッシュが多くクライミングとしての楽しさは5P目までと比べると劣るので6P目は登らずに終了するのもありかもしれません.
草付きの凹角を草をかき分けながらホールド,支点を探しながら登ります.クライミング的な難しさはありませんが,全体的にプロテクションは悪く落ちられません.岩だけではなくブッシュも使いながら安全に登りましょう.
往路下降する場合には7P目は濡れたガリーで落石のリスクもあるためこの6P目で終了するほうがいいでしょう.ちなみに2023年7月時点で6P目の終了点と思われる小テラスにあるRCCボルトが折れていました.ここから1段上がったころで残置ハーケンがあるのでそこまで上がる必要があります.
下降路
6P目の終了点からT4まで50mの懸垂5回で降りられます.T4からはクライムダウンも織り交ぜながら懸垂4回ほどで取付きです.懸垂の時はルートと被る部分も多いので下にクライマーがいるときには落石などに注意しながら降りましょう.またシーズンはじめには残置のスリングも老朽化している場合があるので捨て縄は多めに持って行く方がよいでしょう.
まとめ
今回は屏風岩の入門ルートである雲稜ルートを後編として雲稜ルートについて紹介しました.前編ではルートの全体像がつかめる概要やT4尾根の登攀について紹介をしていきますので合わせてお読みいただけたら幸いです!!
今回の屏風岩雲稜の山行は下記のルート図を参考にしました.屏風岩をはじめ北アルプスの名アルパインクライミングルートが掲載されているクライマー必携の一冊です!!
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