穂高連峰は日本三大岩場に数えられる岩登りの聖地ですが,前穂高岳東面の岩場,通称奥又白の岩場は滝谷,屏風岩と並んで三大岩壁として人気のあるエリアです.奥又白の岩場は東面にあり明るい雰囲気で気持ちのいいクライミングを満喫することができます.
今回紹介する北壁~Aフェースは前穂高岳の東面にある北壁と東壁Aフェースをつなげて前穂高岳山頂まで登る王道のクラシックルートです.緊張するアプローチ,悩ましいルートファインディング,そしてしびれるクライミング全ての能力が求められるまさにアルパインクライミングを体現している名ルートです.
目次
奥又白の岩場(前穂東面の岩場)
穂高連峰は日本三大岩場に数えられる岩登りの聖地ですが,前穂高岳の東面には穂高有数の大岩壁である前穂東壁,北壁,北尾根Ⅳ峰があります.これらの岩壁は奥又白池をベースとして登られることが多く総称して奥又白の岩場と呼ばれています.
奥又白の岩場は3000m峰である前穂高岳の東面にあり,滝谷とも屏風岩とも違った雰囲気のクライミングを楽しむことができます.東面ゆえの明るさ,眼下に広がるお花畑や奥又白池はまるで外国で登っているかのような気分になります.一方で,ベースとなる奥又白池から尾根,ガレ沢,雪渓をつめて3000mのピークを目指すためアルパインクライミングの総合力が問われるエリアになります.
北壁~Aフェース
前穂高岳の東面には巨大な壁があります.東壁であるA~Dフェース,北壁によって構成されており,この中で北壁から東壁上部のAフェースをつなげて登るルートはフリークライミングで前穂高岳頂上まで抜けることができる人気のルートです.
下部は北壁とはいえ東面の壁であるため快適で,上部のAフェースは岩も硬く,ルート全体を通して気持ちのいいクライミングを楽しむことができます.アプローチも含めてアルパインクライミングを満喫できるおすすめのルートです.
北壁~Aフェースのトポに関しては「日本の岩場 下」を参考にしました.長らく絶版でしたが2022年に改訂版が再版されました.今のうちに入手しておくことをおすすめします!!
アプローチ
前穂東壁や北壁がある東面にはB沢をつめる必要があります.ですがB沢はガレガレで前穂からの落石がすべて集中するため途中まではC沢を登っていきます.C沢に入るまでは北条=新村ルートのページと共通なのでそちらを参照してください.
チョックストーンが目印のC沢に入り左岸の小尾根にあがると北条=新村ルートなどがある北尾根Ⅳ峰へのアプローチになります.前穂東面に行くにはさらにC沢をつめます.チョックストーンの右側のⅢ級くらいの岩場を通過していきます.
チョックストーンを越えるとガレてはいますが傾斜の強くないC沢をつめていきます.B沢へはインゼルを越えていきますが,C沢正面の滝を越えるとインゼルの平坦地に自然に上がれるためひたすらC沢をつめていきます.途中,傾斜の落ちたところでインゼルにあがることもできますが,B沢に降りる時に懸垂下降が必要となるので滝を越えるまでC沢を進むことがおすすめです.
15mほどの滝を右側の弱点をついて登ると,右奥にⅢⅣのコルへつながる沢筋が見えてきます.左に行くとインゼルの平坦地を経由して自然な形でB沢に降りることができます.
B沢に入ると傾斜が強くなります.基本的にガレまくっているので落石させないように注意深く登っていきます.両岸と沢の最低部(雪渓がない場合)は比較的岩がしっかりとしているのでフォールラインに注意しながら登っていきます.北壁へはDフェースの基部をトラバースして取付くのでB沢正面に見えているDフェースを目指して150mほどB沢を登ります.
Dフェースの基部まで行くと踏み跡のある横断バンドがあるのでここをトラバースしていきます.下の写真の正面の陰になっている部分が北壁です.この先は足場は不安定なのでトラバースを始める前にロープやギアの準備をしておく必要があります.
装備
- 50mダブルロープ
- アルパインヌンチャク 120cm 6本,60cm 9本
- キャメロット #0.3, 0.4, 0.5, 0.75, 1, 2
- ナッツ 3,4,5,6
- 捨て縄,ハーケン(敗退用)
- 個人登攀具(ハーネス,ヘルメット,クライミングシューズ,確保器,,,)
- アイゼン,ピッケル
北壁~Aフェースでは岩の弱点をついて右へ左へ登っていくためダブルロープ推奨で長さは50mあれば十分です.ルート上は残置のハーケンが沢山ありますが,古いものが多くナチュラルプロテクションは一式必要です.またアプローチには遅くまで雪渓が残るのでアイゼン,ピッケルが必要なことが多いです.
とはいえ冬山とは違うので軽量化したアイゼン,ピッケルで大丈夫です!!軽量アイゼンとしてはブルーアイスのハーファング,軽量ピッケルとしてはペツルのガリーがおすすめです!!
ルート紹介
ルートはおおむね北壁3ピッチ,Aフェース2-3Pで登ることができますが,ルート全体を通してあまり明瞭ではなく自分で弱点をみつけて登りやすい所を登っていく必要があります.またルートが変わったのか,ルートファインディング次第なのかトポのグレードよりも辛いピッチが多めです.
1P目(北壁1P目) Ⅲ級 30m
1P目は上部に見えている巨岩を目指して階段状の岩場を登っていきます.クライミング自体はやさしめですが動く石や砂利もあるので思いのほか緊張します.巨岩手前のテラスにピッチをきれる残置のハーケンがあります.
2P目(北壁2P目) Ⅳ+ 30m
トポ上では2P目がルート全体を通しての核心です.巨岩右から松高カミンと呼ばれる凹角部分を登っていきます.ホールドは豊富ですが1P目以上に動く石が多いので落石には十分に注意しましょう.
ちなみに北壁での落石は全部B沢に落ちていきますので後続がいる場合には特に気を使います.逆に自分たちが後続の場合にはいつ人の頭大の落石がきてもおかしくないので本当に怖いです.
30mロープを伸ばすと広い第1テラスにあがりようやく一息付けます.
3P目(北壁3P目) Ⅲ級(トポ),Ⅳ+級(体感) 50m
3P目はトポでは
左に出て階段状フェース~凹角部,チムニー
アルパインクライミングルートガイド 北アルプス編,廣川健太郎
とありますがルートファインディングに悩まされます.とはいうものの残置支点は豊富で,どのラインを選んでも50m目いっぱいロープを伸ばせば第2テラスにたどり着きます.登りやすいラインを選んで進んでいきましょう・
筆者のパーティは一段上がったあとに残置支点に導かれて左にあるチムニーのラインを選択しました.出だしのチムニーはザックがあると中に入れず体を外に出しながらフェイス登りをすることになります.チムニーを抜けた後も全体的に岩は脆く気が抜けないクライミングが続きます.このラインだと体感Ⅳ+でしょうか.
チムニーに入らず階段状の凹角を登っていくとグレードはもう少し易しいかもしれません.
4P目(Aフェース1P目) Ⅲ+級(トポ),Ⅳ+級(体感) 40m
第2テラスは広くて気持ちのいいテラスで,目の前に前穂高岳山頂に続くAフェースがそそり立ちます.緩傾斜帯を50mほど歩くと大ハングの下にAフェースの取付きがあります.
Aフェース1P目は傾斜の強い壁ですが,凹角のラインを選んでうまく弱点を突くことができます.
巨大なハングを左によけて登っていき最後のスラブ帯をレッジまで上がります.クラックが発達しておりカムでもプロテクションをとることができます.トポではⅢ+ということですがもう少し難しいかな.
5P目(Aフェース2P目) Ⅲ級(トポ),Ⅴ級(体感) 45m
前穂高岳山頂まで残すところあと1ピッチですが,最終ピッチもルートファインディングに悩まされます.でだしの易しいスラブを越えた先でいくつかのラインを選択することができます.
右側のガレたルンゼを登るのが一番簡単そうですが見た目で浮石が多く悪そうです.また正面にある傾斜の強い壁にはきれいなクラックが発達しており直上することもできそうですが,カムが1セットだと少し心もとないです.
筆者らは上の画像の青のラインを選択しました.スラブをトラバースをした後に左から回り込んだ先にあるチムニーを登っていきます.スラブのトラバースはスタンスが少なく,一歩だけですが緊張する立ちこみがあります.チムニーも一見易しそうですが,やはりザックが邪魔をして体がはいりこめず露出感のあるクライミングで苦労します.ロープの流れが悪くなるのでトラバースした先でピッチを切るのも一つの選択肢です.
苦しいチムニーを越えたあとはやさしい岩登りで広いテラスにあがれるのでここでピッチを切ります.ここまでくれば最後の緩傾斜帯はロープなしでも大丈夫です.ロープを片付けて30mほど登ればようやく前穂高岳山頂です.
まとめ
前穂高岳の山頂を目指して登ることができる北壁~Aフェースを紹介してきました.アプローチ,ルートファインディング,クライミングなど全体を通して総合力が問われるルートですが,登り切ったときの達成感はひとしおです.ぜひ挑戦してみてください!!
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