山で死にかけた瞬間|あの選択を間違えていたら私は今ここにはいません

アルパインクライミング

 こんにちは!にわかアルピニストです.

 皆さんは登山やクライミングなどの山岳アクティビティをしていて「あ,これ死ぬかもな?」と思った瞬間はありますか?

 ご承知の通り,これらは他のスポーツよりもリスクが大きく,ある程度歴のある登山者やクライマーであれば少なからずそのような経験をしたことがあると思います.

 今回は,筆者自身の山行を振り返って死ぬかもと思った経験を紹介していきたいと思います.

※この記事は決して遭難しかけたことを肯定あるいは武勇伝のように語るものではありません.また遭難の経験があるひとを非難する者でもありません.筆者の準備不足や技術不足が招いた状況を振り返ることで少しでも読む方の今後の山行に役立てればと思い書いています※

山やクライミングでは常にリスクと向き合う必要がある

 山やクライミングというスポーツはとても魅力的で多くの人を惑わします.時には人の人生を大きく変えてしまうこともあります.

 ですが別の視点からこのアクティビティを見ると,誰もが知っているように大きな危険を伴うものでもあります.安全に遊ぶには様々なリスクをしっかりと評価して,マネジメントする必要があります.この過程も含めて山やクライミングの楽しさと感じる人は少なくないかもしれません.

 これを読んでくださる皆さんの中にも命の危機に瀕したことがあるひとがいるかもしれません.あるいは知り合いがそのような場面に遭遇したという話は近界隈ではけっして珍しいものではありません.

 筆者は山に関するアクティビティをはじめて5年ほどになりますが,その決して長くはない期間でも”死にかけた瞬間”は何度かあります.いや,正確な表現をするのであれば”死ぬかもしれないと感じた瞬間”です.

成功体験の積み重ねの果てに今がある

 「登山は成功体験の積み重ねである」

 という言葉をきいたことがあります.この記事を読んでいる皆さんはきっと生きていますよね?でももしかしたらそれはたまたま運がよかったに過ぎないのかもしれません.

 もしかしたら,あるシチュエーションでは死ぬ可能性が99%あったけれども,残りの1%を引いていたのかもしれません.もしそうであったのであれば,それに気がつかないまま再び同じシチュエーションに巡い同じ選択をしてしまったらおそらく次は助からないでしょう.この死ぬ可能性というのは実際は数値では表現できないものですが,世の中で『リスク』と言われているものと近いかもしれません.

 どの程度のリスクであれば命を懸ける価値があるのかは人によって異なると思いますが,リスクがあるとわかって臨むのと,リスクを把握せずに能天気に臨むのとでは全く異なります.もちろん想像力を働かせてリスクを事前に把握することはとても重要なことですが,経験から浮かび上がるリスクがあるのも事実です.

 「たまたま助かったのだから今度も助かるだろう」と楽天的になるのではなく「今度は助からないかもしれない」と悲観的になり,しっかりと経験を分析しリスクを洗い出し評価することが大切です.

筆者が死にかけた瞬間

 ここからは実際に筆者が死にかけた(と思った)瞬間を紹介していきます.筆者なりの分析も行っているので皆さんのリスクアセスメントの足しになれば幸いです.

死にかけた度 【💀】

 まずはライト目なやつからです.死にかけた度としてはそこまで高くありませんが,”一歩間違えれば”というやつです.

奥穂高岳 ”はじめての山は穂高でした”

 今から6年ほど前に筆者は山に出会いました.それまでに静岡県出身ということもあり親に連れられて富士山に登ったことはありましたが,自分で計画して準備してという山行はこの時が初めてでした.

 初めて登った山は奥穂高岳で,当時は装備も必要最低限のものしかなく,さらにはソロでの山行で,おまけに天気も悪い中の山行でした.多少の経験を積んだ今にして思うと完全にリスクだらけで,本当に何事もなくてよかったです.山を甘く見ているといわれてもおかしくないような山行でした.

 それでも決して山をなめている気持ちはなく,限りなく念入りに計画を立てて,金銭的に許す範囲で装備を揃えて,真摯に向き合っているつもりでした.このように知識や技術,経験が足りないと,そもそものリスク(ハザード?)の認識さえできないこともあります.

なぜそうなった?
  • 知識,技術,経験が足りなかった
  • 山を甘く見ていた
なぜ助かった?
  • たまたま何もなかった
次はどうする?
  • 同じ状況であれば撤退するかも
  • その前にしっかりとしたリスクアセスメントを行う

剱岳源次郎尾根 ”滑落!滑落!!滑落!!!”

 続いては筆者が人生で初めてした滑落の話です.

 アルパインクライミングをはじめて間もない頃に仲間と剱岳の源次郎尾根に登ることになりました.山の経験が豊富な仲間と一緒ということもあり計画や準備はそこまで問題なく進み,当日を迎えました.

 源次郎尾根は入門バリエーションにもよく名前が上がるルートで,基本的には易しく,ちょっとした岩場と懸垂下降がぽつぽつとあるくらいで行程のほとんどは歩きです.

 ですが筆者はそのちょっとした岩場で滑落しました.源次郎尾根に取付いてすぐのちょっとした岩場です.幸いなことに本当にちょっとした岩場だったので滑落距離は短く,事なきを得ました.

 これが同じちょっとした岩場でも高いところにあったら,,あるいは転がり落ちたときに打ち所が悪かったら,,,と考えると本当に大したケガもなく終わったよかったです.

なぜそうなった?
  • 技術不足
  • 登山靴での登攀に慣れていなかった
なぜ助かった?
  • 落下距離が小さかった
  • ザックがクッションになった
  • 同行者が複数人いた
次はどうする?
  • 荷物を後から引き上げる
  • ロープを出す

厳冬期北岳バットレス ”ヘッドライト死す” 

 日常生活では町のいたるところに灯りがあり,夜を暗いと思うことはありません.しかし山ではその様相は大きく異なります.ヘッドライトは山の必須装備であり,万が一忘れようものなら命にかかわることもあります.実際に筆者は厳冬期の北岳バットレスで灯りを失い命の危機を感じたことがあります.

 その山行では3日目の早朝から北岳バットレスにアタックをしました.無事に登攀を終え北岳山頂に至ったときには20時を過ぎており辺りは真っ暗でした.あとは一般道を歩いてテントまで戻るだけだったのですが途中からヘッドライトの灯りが徐々に弱くなり,あと少しで樹林帯という所で電気が完全に消えました.これはまずいと予備電池に変えましたが,おそらく寒さのためでしょう,電池を変えて灯りがつくことはありませんでした.

 幸いなことに安全で明瞭な道だったのでスマートフォンの灯りで歩くことはでき,懐で温めていたらヘッドライトも復活し事なきを得ましたが,不安に押しつぶされそうになったことを覚えています.もしこれが登攀中であったら,もしスマートフォンの電池も消えたら...それからは予備電池だけではなく予備ヘッドライトも持ち歩くようにしています.

なぜそうなった?
  • 電池および予備電池の電圧低下
なぜ助かった?
  • ルートがわかっていた
  • 月明りがあった
  • 行程のリスクが小さかった
  • 温めたらヘッドライトが復活した
次はどうする?
  • 電池だけではなくヘッドライトの予備も用意する

死にかけた度 【💀💀💀】

 ここからは死にかけた度が少し上がります.救助要請をしようかとちょっとだけ考えた経験です.

八ヶ岳 ”道に迷って三千里”

 あなたは山で道に迷ったことがありますか?

 毎年警視庁から山岳遭難の概況が発表されていますが,それをみると『道迷い』が遭難の態様の中で一番多いことがわかります.そのほかの態様としては滑落,転倒,病気,疲労などがありますが『道迷い』は毎年不動の一位となっています.

 筆者の道迷いエピソードとして挙げておかなければならないのはやはり八ヶ岳での出来事です.その日は友人たちとアイスクライミングに訪れていましたが,ひとり日帰りの筆者は先に下山することになりました.暗いなかトレースを頼りに沢筋を下っていましたが途中で見失い,それでもなお沢筋を下っていると気がついたら道に迷っていました.

 何回か行ったことがあるエリアだったこともあり,まさか道に迷うまいという慢心から地図アプリで地図をダウンロードすることも怠っていました.いまから地図をダウンロードしようにも電波が入らない状況でした.幸いなことに尾根にあがると電波も入り自分の場所が分かったのですが,登山道からはわずか100mほどしか外れていませんでした.それでもまさに五里霧中といったかんじで自分がどっちの方向に進んだらいいかが全くわかりませんでした.道迷いの恐ろしさを再認識しました.

なぜそうなった?
  • 準備不足(地図,行動食)
  • トレース不明瞭
  • テキトーに下りた
なぜ助かった?
  • 電波を求めて尾根に上がったらたまたま電波が入る瞬間があった
  • 体力的には余裕があった
次はどうする?
  • しっかりと地形図を見ながら行動する
  • そもそも地図をダウンロードしておく

尾鷲 ”たった一人の脱出行”

 登山やクライミングをはじめてから大小さまざまな怪我を経験しましたが,筆者の一番大きなけがは第五中足骨基底部骨折です.レントゲンで見ると数mmの骨が剥がれているだけですが,ここは腱の付着部位でもあり,たったこれだけで人間は歩けなくなります.

 この怪我を受傷したのは尾鷲に一人でボルダリングに行った時です.駐車場から目的の岩までは釣り師の踏み跡を下った後に海岸をへつってたどり着きますが,片足を引きずった状態ではとてもへつることはできず,帰りは悶絶しながら藪をかき分け150mほど上部にある遊歩道を目指して直上しました.

 帰宅後に病院を受診したところ骨折が判明し後日手術をする羽目になりました.

なぜそうなった?
  • 登攀力不足
  • ひとりだった
  • 緊急時の対応の想定不足
なぜ助かった?
  • 地図アプリを使って地形図および現在地を把握していた
次はどうする?
  • なるべくソロではいかない
  • ソロで行く場合もしっかりと緊急時対応を考えておく

死にかけた度 【💀💀💀💀💀】

 ここまでは紹介してきたエピソードはそうは言っても意外と何とかなるやつで同じことが起きても多分助かります.ですがこれから紹介する2つはまじで死ぬかと思いました.冷静な判断を下した当時の自分に感謝です.

残雪期コブ尾根 ”吹雪の中のビバーク”

 あなたは人生でビバークしたことがありますか?これは筆者が生まれて初めてビバークしたときの体験です.

ビバーク(独: Biwak、英・仏:bivouac)とは、登山や探検などにおいて、しっかりしたテントを用いず露営すること(なかば外気にさらされるような状態で休息をとり、泊まること)を指す用語。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%AFより

 コブ尾根は残雪期のアルパインクライミングの人気ルートです.ベースである岳沢から日帰りで取付くことができ,憧れの穂高岳にバリエーションルートから登ることができます.

 筆者は雪山をはじめて3シーズン目のGWに挑戦する機会が訪れました.天気も良く放射冷却の影響もありよく冷えた天気でした.9時半に核心であるコブに取付いたくらいには「少しガスがでてきたな?」くらいでしたが登攀を終えたコブの頂上から懸垂下降を終えた4時間後には本格的に天気が悪くなってきました.ですがこの時点で敗退可能なラインはすでに超えており前に進むしか選択肢がありませんでした.

 その後も想定よりも時間がかかり気がついたら辺りは薄暗くなってきていました.18時時点で標高3000mほどまで登っていましたが,薄暗い上にちょっとした吹雪となっており稜線に抜けてもそこから穂高の稜線を2-3時間歩くことは現実的ではないと判断しビバークすることにしました.実際は懸垂下降をした時点でほのかにビバークは想定していました.

 生まれて初めてのビバーク,3000m標高で岩陰にお座り状態.場所が不安定なのでセルフは外せない.おまけにツエルトの外は吹雪.燃料も非常用のものしかなくかろうじて水が作れるくらい.寝ようと思っても寒さと体勢のきつさとひもじさで目が覚める.時計を見ると5分しか経っていない。そんな事を何十回も繰り返しているうちにようやく東の空が白んできた.長い長い夜でした.

なぜそうなった?
  • 天候の読みの甘さ
  • 体力および登攀力不足による行動スピードの遅さ
  • 敗退タイミングの判断の甘さ
なぜ助かった?
  • 早めのビバーク
  • 十分なビバーク装備
  • そうは言っても残雪期
次はどうする?
  • たぶん途中で撤退する
  • あるいは初めからビバークを想定した計画を立てる

ヨセミテ エルキャピタン・イーストバットレス ”突然の豪雨!?凍える懸垂下降”

 これまでは国内の話でしたが,筆者は海外でも死にかけたことがあります.それも危険な山域やリスクの高いアルパインクライミングでもなんでもなく,ヨセミテにフリークライミングに行った時です.

 ヨセミテといえばまず思い浮かぶのが世界最大級の花崗岩の一枚岩であるエル・キャピタンですが,そんな巨大な岩壁の右端の方にイーストバットレスというマルチピッチがあります.最大グレード5.10bで全部で10数ピッチとお手軽にビッグウォールが楽しめる人気のルートです.筆者たちもとりあえず「エル・キャピタン登ったぜ!笑」と言いたくてこのルートを登ってみることにしました.

 筆者たちはGWにヨセミテに行きましたが,この時期のヨセミテにはまだ雪が残っています.エル・キャピタンの南東壁など部分的にはその雪解け水が流れてきて滝のようになっています.

 幸い東の端にあるイーストバットレスはその影響は少ないようで快適に登り始めることができました.「エル・キャピタンを登っているんだ!」という感動を胸に登り進めていると行程の3分の1くらい登ったところで異変を感じます.高度が上がったからなのか,時間帯的なものなのかわかりませんが風が強くなってきたのです.そして離れたところにあった雪解け水の滝のしぶきが風に乗ってこっちに流れてきたのです.最初はちょっと濡れるなくらいでしたが,あっという間に水しぶきの量は増え,最終的には自分たちが登っているラインも滝になりました.

 こうなってはもう登れないと引き返す判断をしましたが,その時は冷たい雪解け水に全身ずぶ濡れで強風にも吹かれて軽い低体温症になっていたと思います.ボルトや残置ハーケンなどの非常に少ないイーストバットレスをカムやスリングを残置しながら無事に降りてきたときには本当に安心しました.

なぜそうなった?
  • 雪解け水というリスクの未把握
  • 装備不足
なぜ助かった?
  • カム残置をいとわなかった
  • 早めに撤退の判断ができた
  • パートナーが強かった
次はどうする?
  • 事前のリスク洗い出しを丁寧に
  • 装備をしっかり持っていく

遭難をゼロにすることはできないけど,遭難をゼロにしようとすることはできる

 世の中には遭難した人を見て「山をなめているからだ」という人たちがいます.

 でも山をなめていなくても遭難はします.もちろん遭難しないにこしたことはないけれど,リスクを承知でチャレンジすることは山をなめているわけではないと思います.人によっては山やクライミングにその価値を見出す人もいるでしょう.

 一方でそのリスクを十分に評価せずに,あるいはそもそものリスク(ハザード?)を把握せずに登山やクライミングをしている人が多いのも事実です.

 最後に幽遊白書という漫画の名言を紹介してこの記事の締めとします.

おまえもしかしてまだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?

戸愚呂弟

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