Portable Mantle V4|スコーミッシュ~世界で一番高密度のクライミング~

フリークライミング

 2025年夏,筆者はスコーミッシュに行った.

 スコーミッシュは日本人にとっては訪れやすいエリアだ.ちょうど日本のお盆休みがクライミングのシーズンにかぶっている.同じく日本人になじみ深いエリアとしてヨセミテがあるが,こちらは春と秋がシーズンでなかなか休みにくいのが実際のところだ.

 スコーミッシュでは6日間をクライミングに費やしその間に30本ほどのルートを登った.易しいものから難しいものまでいろいろなものを触ったが,中には印象的なルートが何本かあった.その一つが”Portable Mantle”だ.

 もともとタイミングがあればこの課題は触ろうと思っていた.とはいえ基本的にはリードクライミングが主体であったので出会わなければそれも良しと考えていた.だが出会ってしまった.それはほんの偶然のことだった.いや,今にして思うと必然だったのかもしれない.

世界で最も小さなクライミング

 ”ボルダー(boulder/bóʊldɚ/)”とは英語で”大きな石”を意味する単語だ.これを手足を使って登る行為を”ボルダリング”と言いで最も根源的なクライミングともいえる.昨今ではスポーツクライミングはオリンピックの競技となったし,ボルダリングのジムも沢山あるのでなじみもある言葉だと思う.

 ある程度岩が大きくなるとロープによる安全確保が行われるため,ボルダリングとして登られる岩の大きさはせいぜい5m程度までが一般的だ.とはいえここには明確な定義はない.

 10mをこえるハイボルダーと呼ばれるものあるし,身丈より小さいものも沢山ある.一体どこからどこまでがボルダーなのだろうか?ボルダーとは何なのだろうか?

 ”Portable Mantle”はThe Grand Wallの基部にあるボルダーの課題だが,なんとこの岩は30㎝ほどの大きさしかない.重さにして20㎏くらいだろうか.もしかしたらそんなにないかもしれない.その名の通り持ち運ぶことだって容易にできる.一つの岩に複数の課題があることは珍しくないが,この岩には当然一つの課題しかない.おそらく世界で最も小さなクライミングだろう.

凝縮されたエッセンス

 そんな小さな岩なのだから,だれしもが「話題だけのおふざけ課題だろう」と思うだろう.だが実際に触ってみると案外難しい.それもそのはずこの課題にはV4のグレードが付いており,これは日本のグレードに直すと2/3級相当で,有名なものだと穴社員だとかコンケーブだとかそのあたりと同等かやや難しいという位置づけになる.

 課題の設定はSDでスタートしてマントル(?)を返して岩の上に立ち上がれば完登だ.岩は高さ30㎝程度で四角錘状をしている.よく見るとホールドともスタンスともいえるようなでっぱりがある.また左右対称ではなく重心は正中からずれていそうだ.

 岩を両足の間に挟んだ状態でスタートすることになると思われるが,どの向きで岩を置くか,手と足をどこに配置するか,その時点からこの課題の攻略は始まっている.というかそこが8割を占めており,それがミスマッチしていると離陸すらできないで敗退する可能性も十分にある.離陸ができても立ち上がるのに苦労する人も多いだろう.

 たかだか30㎝程度の石ころにどれだけのクライミングが凝縮されているのか.ふだん自分たちがやっているクライミングがいかに濃度が薄いかを思い知らされる.そして西洋人の頭の柔らかさ,茶目っ気に感心する.

 ちなみに先ほどはこの岩に課題は一つしかないと述べたが,実はもう一つ課題がある.”Portable(V6)”という課題で,岩をピンチで持ち上げて反対の手に持ちかえるというものだ...これはさすがにユーモアがすぎる.

日本に持ち帰りたい

 Portableというだけあってこの岩は容易に動かすことができる.それでもおそらく初登された時から大きく位置は変わっていないだろう.長い間,スコーミッシュで一番大きなGrand Wallの麓に一番小さなPortable Mantleがたたずんでいる.そのことに意味がある気がする.

 ANAの国際線では受託手荷物は1個あたり32kgまで預けることができる.とすれば本気を出せばこの岩を日本に持ちかえることだって可能だ.だがそれでは面白みにかける.クライミングに冒険性という魅力を感じるのであれば,自分だけのPortable Mantleを見つけるのがやはり最善だろう.

 

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