そのトップロープ,本当に後悔しませんか?|フリークライミングのスタイルの話

スポーツクライミング

 こんにちは!にわかとはいえ”アルピニスト”と名乗っていながら最近フリークライミングばかりになっているにわかアルピニストです.今回はみんな大好きトップロープのお話です.

 それなりの頻度でフリーの岩場に行く筆者ですが,岩場に行くとトップロープでのトライを見ない日はありません.筆者自身も何気なく行っているトップロープクライミングですが,実は筆者はトップロープでのトライをして後悔したことがあります.

 今回はそんな経験も踏まえてトップロープクライミングについて思うことをつらつらと考えていきます.トップロープに対しての批判的な意見も出てきますが,筆者自身もトップロープで登りますし,この記事は決して個人のスタイルを否定するものではなく,自分自身がこうありたいという意思表明的なものなので温かい気持ちで見守っていただけると幸いです.

トップロープクライミング

 フリークライミングを行うときに通常はロープによる安全確保を行います.その安全確保のやり方として大きく2種類あります.一つがリードクライミング,もう一つがトップ―ロープによるものです.この記事を読んでくれる方はクライミング愛好者だと思いますのでそれぞれのシステム的な内容については割愛させていただきます.

 現代のクライミングにおいて”完登”とされるのはリードで登った場合に限ることが多く,トップロープで登り切ってもそれはあくまでもリハーサルに過ぎなかったり,仮のものとされることが多いような気がします.

 というのはクライミングではただ登るだけではなく,登り切ったときの”スタイル”も求められるからです.通常は”初登者(あるいは既登者)よりもよいよいスタイルで登るべき,それが難しい場合には同等(あるいは同等程度)のスタイルで登る”ことが求められます.つまり,初登者がリードで登ったのであれば,やはり再登者もリードで登る必要があります.

トップロープでのリハーサル

 ただし多くのクライマーがあくまでも趣味の範疇で登っていることを考えれば,そこまで厳格ではありません.究極のことをいえばリードで初登された課題をトップロープで登り切って「完登した!」といっても自分が満足できればそれほど問題はないわけです(公には認めれない可能性はありますが).それでも多くの人は一般的に”完登”とされるスタイルであるリードでの完登を目指します.

なぜ人はトップロープを選ぶのか

 リードで登ることが”完登”とされるとは言え,トップロープでのトライを一回もしたことがないというクライマーは少ないのではないでしょうか?それはなぜか?

 それを考える際に重要なこととして,リードクライミングとトップロープクライミングの墜落距離の違いというものがあります.

 厳密な計算はもっと複雑ですが単純化して考えると,リードの場合には最後にとった中間支点までのロープの長さ×2+ロープの動荷重の伸び率分落ちます.一方でトップロープの場合はロープの伸び率の静荷重の伸び率分落ちます.これは中間支点が抜けない想定であり,クラッククライミングの場合にはカムが抜ける可能性もあり,想定以上に落ちる可能性があります.

 このことを踏まえてなぜ人はトップロープをするのかを考えます.

①初見でのリードトライに対する恐怖心のため

 初見トライではムーブやホールドがわかっていなく,それらがわかっている状況よりもフォールする可能性は高いです.そうすると必然的に落下に対する恐怖心は強くなります.

 またクラッククライミングの場合には,前述の如くカムが抜けるリスクや安定してプロテクションが取れるかわかりにくいルートもあります.これらの場合にはフォールの想像は容易く怖さを感じます.

 トップロープであれば落下しても距離は短いし,グラウンドフォールや壁に激突する可能性は低くなるので安心してトライができます.

②効率の良いムーブの練習のため

 墜落距離が短いことはムーブの練習をすることにも役立ちます.ある1か所のムーブを探ったり,練習したりするときに,それがボルトの近くであれば落下距離も短く繰り返しの練習もやりやすいですが,いちいち長い距離落ちているようでは余分な登り返しも多く労力を要します.トップロープであれば効率的に反復練習が可能です.

傾斜が強いと落ちたら戻るのが大変

③なんとなく

 トップロープを選んでしまう3つ目の理由ですがなんとなくです.

「誰かがトライしていてたまたまロープがかかっているから」

「今日は自分の宿題回収したけど終わるには少し早いから」

みたいな感じでなんとなく触ってしまうことはありませんか?筆者はけっこうあります.

 他にもトップロープをする理由はあるかもしれませんがとりあえずパッと思いついたのはこのあたりです.

”The Progression”の後悔

 ここで少しだけ筆者の経験をお話しさせてください.2024年の9月に名張の”The Progression”というルートにトライをしたときのことです.

 このルートは5.13aという高グレードのクラックで,その時の筆者からするとトライもしたことがない逸脱したものでした.加えて核心部分はプロテクションのセットもシビアで,ここで落ちるとテラスに激突するリスクもあるという恐ろしいルートです.

 このルートに対して筆者は最初からトップロープでトライすることを選択しました.何日も通い,ムーブとプロテクションがきまり,バックロープを引いての疑似リードをして,それがノーフォールとなった後にようやくリードトライを行いました.結局リードは3トライで無事完登できましたが,その前には無数のトップロープの残骸が転がっていました.

ひたすらトップロープトライ

 登れたことはとてもうれしかったのですが,どこか心の中に”モヤっと”がありました.その正体は「これってグラウンドアップで登れたんじゃね?」というものでした.この”モヤっと”がトップロープに関して考えるきっかけとなりました.

そのトップロープ,後悔しませんか?

 この経験を踏まえて最近筆者がぼんやりと考えていることをまとめていきます.

オンサイトトライを大切にしたい

 クライミングのスタイルに関してはさまざまな意見があるでしょうが,完登スタイルの中で至高とされるものが”オンサイト”であることには異議はないと思います.一つのルートをオンサイトできるチャンスは一生に一度しかありません.最初からトップロープでトライすることによってこの機会は奪われます.

オンサイト onsight 初見。または初見で(テンション、フォールなしに)完登すること。

https://www.climbing-net.com/general/%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86%EF%BC%88%E3%81%82%E8%A1%8C%EF%BC%89/

 オンサイトするために自分の実力が見合うまでそのルートをトライをせずに温めているクライマーも少なくないでしょう.それほどオンサイトには価値があると思います.

温めて無事にオンサイトしたトワイライト

 クライミングにおいてそのルートの隅々まで知り尽くしてムーブを作って完登するレッドポイントもとても楽しいですが,オンサイト(あるいはフラッシュ)トライではより深く岩との対話が楽しめると思います.筆者がここで強調しておきたいのは仮に”オンサイト”できなくとも”オンサイトトライ”自体に意義があるのでは?ということです.

エイドでもいいからグラウンドアップでトップアウトしたい

 クライミングのスタイルを語るときに”グラウンドアップ”か”トップダウン”かというテーマもあります.

 現代においてはスポーツ化しているクライミングですが,その由来はアルパインクライミングや登山にあります.これらは”登る”あるいは”攀じる”とも表現されるように下から上を目指す行動です.これらに源流があるとすればフリークライミングも基本的には下から上を目指して登っていくグラウンドアップのスタイルであるべきだと考えます.

 とはいえルートが難しくなればなるほどそのハードルは上がります.それでも筆者たち一般的なクライマーが触るようなルートではそれは決して非現実な話ではないように思います.仮にそれがエイドになろうとも少しずつ新しい世界が開けてくるのは魅力的なはずです.

ヨセミテ,ザ・ノーズのエイドクライミング

 ここで瑞牆クライミングガイドより一つ文章を引用します.この文章は日本最難クラスのトラッドルートである”最後の者”について初登者の安間佐千氏が書いたものです.

(前略)

新たな穴に到達し、プロテクションを決める度に僕たちは歓喜し、この危険な挑戦に夢中になっていった。

(中略)

今までにない達成感と解放感は、エイドクライミングも立派なクライミングであり、喜びを与えてくれるものなのだと気づかせてくれた。思い返せば、この登攀が僕にとっては何よりも価値があったと思う。

瑞牆クライミングガイド上 最後の者 安間佐千氏の手記より引用

クラッククライミングでトップロープをする矛盾

 クラッククライミングはトラディショナルクライミング(略称:トラッド)とも言われるクライミングでありナチュラルプロテクションを用います.このクライミングはその名の通り伝統的で前項で触れたような源流に近いスタイルのはずです.そこではすべてがオンサイトトライで,事前の残置物など一切ないはずです.

 そのクライミングで,トップロープを張って,ムーブを組み立てて,カムを打つ場所を決めて,,,,などあまりにもスポーツ化しすぎていて滑稽な感じがします.

 以下にあるブログの記事を引用します.筆者レベルとはスケール感は全く異なりますが,あるクライマーのルート開拓における葛藤が書かれています.若干テーマからはそれますがとても考えさせられる内容です.

リードトライできないルートは時期尚早という考え

 そもそもリードトライできないのであればそのルートにトライするべきではない,という考え方もあると思います.クライミングには当然フォールの可能性があり,フォールに伴って怪我をするリスクがあります.リードトライすることでこのことに対する安全性を担保できないのであればそのルートをトライする資格がないのかもしれません.

 ただ自身を成長させるにおいては限界をこえたルートにも触る必要があります.そのルートを登りながら成長するという経験をしたことがあるクライマーは決して少なくないはずです.そういう意味ではトップロープで本来自分が触れないようなルートにトライできるというのはいい機会なのかもしれません.

トップダウンで開拓されたルートこそグランドアップで登るほうがいい

 ここまで”グラウンドアップ最高!”みたいなことを述べてきましたが,そうはいっても世の中にあるルートの中で実際にグラウンドアップで登られていないルートはたくさんあります.

 難しいルートやプロテクションの悪いルートをトライする際に,筆者の中で「このルートは初登者も試登していたしトップロープでやるか」という思いが湧いてくることがあります.

 ですが先で述べた”初登者(あるいは既登者)よりもよいよいスタイルで登るべき,それが難しい場合には同等(あるいは同等程度)のスタイルで登る”という原則を考えると,そこは甘えるのではなく,トップダウンで開拓されたルートこそグラウンドアップで登る価値があるのかな?とか考えることもあります. 

結論:それでもトップロープをしちゃうんだよなぁ

 いろいろ述べてきましたが「それでもトップロープをしちゃうんだよなぁ」というのが筆者の本音です.それでもフロンティアスピリッツを見失わないクライミングができるように日々精進していきます!

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