「日本で一番難しい山は?」
と聞かれたときにおそらく多くの登山者は
「剱岳」
と答えるでしょう.
たしかに岩の殿堂とも言われる剱岳は森林限界をこえた先は岩稜や岩壁に囲まれており山頂を踏むのは容易ではありません.
ですが「どうしても剱岳に登りたい!!」という人もいると思います.そんな人におすすめなのが今回紹介する早月尾根です.この記事を最後まで読んでもらえればなぜ筆者が早月尾根をすすめるかが理解できると思います!!
- 富山県から伸びる長い尾根
- 北アルプス三大急登にも数えられる急な登り
- カニのはさみをはじめとする険しい岩稜帯
剱岳
剱岳は富山県に位置する日本で22番目の高峰です.その標高は2999mとわずかに3000mには及びませんが,日本百名山にも名を連ね多くの登山者の憧れとなっています.その他にも日本では数少ない氷河があることやライチョウの生息地としても有名です.

一方で剱岳は「岩の殿堂」と比喩されるほどその山容は厳しく,登頂するのが日本で最も難しい山と言っても過言ではないかもしれません.新田次郎の小説「剱岳 点の記」は映画化もされている小説で,そこには今から100年以上前に行われた剱岳登頂の厳しさが書かれています.
早月尾根
そんな剱岳に登るにはいくつかの方法がありますが,一般的な登山で登られるルートが立山黒部アルペンルートを利用して登る別山尾根と今回紹介する早月尾根になります.いずれのルートも長い行程や険しい岩稜帯を経て山頂に至るため体力や技術,経験など多くのものが求められます.

別山尾根は立山黒部アルペンルートを利用して標高2450mにある室堂ターミナルまで行き,そこから登山が始まります.一方で早月尾根は標高762mの馬場島を登山口としてそこから標高差2200mほどを登ります.
このように聞くと別山尾根の方が標高差が少ないので登りやすい印象を受けますが,室堂から登る場合には剣御前小屋を経由するなどアップダウンもあり,実は累計の標高差の差は500mほどしかありません.加えてそれぞれの核心部は”カニのよこばい”,”カニのたてばい”と名前がついていますが,これは別山尾根の”カニのよこばい”の方が難易度は高く,総合的には早月尾根の方が登りやすいと思います.
| 別山尾根 | 早月尾根 | |
|---|---|---|
| 室堂ターミナル(2450m) | 登山口 | 馬場島(762m) |
| 5/10 | 体力度 (富山県山のグレーディング) | 6/10 |
| E | 難易度 (富山県山のグレーディング) | E |
| 13.2時間 | 合計コースタイム | 15時間 |
| 16.7㎞ | ルート長 | 15.8㎞ |
| 1900m | 累計標高差 | 2430m |
| カニのたてばい,よこばい | 核心 | カニのはさみ |
上記はそれぞれのルートの簡単なデータをまとめたものですが,これをみると2つのルートにそれほど差がないことがわかります.
早月尾根はなぜ難しいのか?どのくらいの経験が必要なのか?
とはいえ,早月尾根が決して簡単なわけではありません.一般的に難しめの山とされる穂高岳や槍ヶ岳と比較すると一段階難しい山であることは間違いありません.それでもこれらの山に登れるくらいのある体力や経験,技術がある人であれば剱岳に挑戦する資格は十分にあると思います.
早月尾根を難しいとしている点は主に以下の点です.
- 標高差2200mという長大さ
- 2400m以降のアップダウン
- 2600m付近の急登
- 2800mから山頂まで続く岩稜帯(核心のカニのはさみを含む)
それぞれ解説していきます.
標高差2200mという長大さ
まずは何といっても早月尾根の特徴であるその標高差です.登山口の馬場島は標高762mとこの標高の山にしては類まれなる低さです.早月尾根唯一の山小屋である早月小屋までも1500mほどあります.
たしかにこの標高差を一気に登ろうと思うとかなり大変です.ですが,早月小屋で1泊ないしは2泊することで体力的な負荷は分散することができます.また一般的に難易度の別山尾根,体力の早月尾根という風に比べられますが上記のデータを見るとそこまで大きな差はなく,いずれにせよ劔岳に登るには相応の体力が(最低でも1日で1500mの標高を登る)必要であることがわかります.
2400m以降のアップダウン
剱岳は早月小屋までは一様な登りが続きますが早月小屋から先はアップダウンが続きます.単純な標高差である800mよりも長く感じます.早月小屋から先には山小屋はないため一度登りだすと必ず戻ってくる必要がありそれが可能な体力(1日で800mを登り下りする)が求められます.
2600m付近の急登
また2600mからは急登となります.この山に挑戦する人であれば核心部分を除いて登りではそこまで苦労はしないかもしれませんが問題は下りです.山頂まで行き帰ってきて疲れもあるような状態で急な勾配を安定して下りる技術と体力が必要です.
2800mから山頂まで続く岩稜帯
2800mを越えてからは核心であるカニのはさみを含めた岩稜帯が続きます.ここを通過するには確実な三点支持が必要です.とはいえもの「ものすごく難しい!!」ということではなく穂高岳や槍の穂先の岩稜やはしごが安定して登れるようであればそこまで問題ないと思います.
これらの岩稜帯は濡れていると一気に危険度が上がるので状態次第では引き返す勇気と判断力が求められます.

ルート紹介
ここからは実際のルートを紹介していきます.
早月小屋まで
まずはアプローチともいえる早月小屋までの道のりを紹介します.
試練と憧れ 登山口から松木平
馬場島荘の駐車場に車を止めしばらく歩くとすぐに「試練と憧れ」の石碑があります.ちなみに馬場島のキャンプ場の水は沢の水で公式には飲用不可となっているので事前に水を用意しておくことをおすすめします.一応煮沸すれば問題なく飲めると思います.

石碑のさらに先には看板が立っておりここからいよいよ早月尾根の登山がはじまります.北アルプス三大急登の名の通り出だしから急登ですが道は整備されています.

時間にして小一時間,標高差で300mほど登ると平坦地に出ます.ここでいったん急登は終わりでしばらくは緩やかな登りが続きます.

延々と続く急登
再び登りが始まるとここからはひたすら急登です.200m毎に標識がありますが,1400mと1600mがやたら近かったり,逆に1800mはなかなか離れていたりなど実際の標高とはややズレているようです.適宜休憩を取りながら黙々と登りましょ.全体的には木の影に覆われています.

途中池ノ谷側に出るところもあり隣の急峻な尾根である小窓尾根が見えることもあります.

急な登りを2000mまで登るといったん傾斜は落ち目の前には池が姿を現します.ここまでくれば早月小屋まではもう少しですが最後に一押しの急登が待っています.

池から少し進むとはしごが連続する急登です.

鎖場もありますが傾斜は強くなく難しくはありません.

2200mの丸山まで一気に上がるとすぐ眼下には早月小屋が見えています.

早月小屋は小屋泊もテント泊も対応していますが規模は大きくなく週末などは早めに計画を立てないと小屋泊は予約が取れないかもしれません.テント場はそれなりの広さがあり,かつ早い者勝ちなので直前の計画でも問題ないと思います.

ちなみに早月小屋は水場がなく,ヘリで荷揚げしたペットボトルのミネラルウォーターを販売しています.2Lで1300円とお高いので体力に自信のある人は自分で歩荷するのもありかもしれません.
通常は早月小屋で1泊して翌日早朝に出発し剱岳山頂を目指します.
早月小屋から山頂まで
早月小屋から剱岳山頂までの往復はコースタイムで6時間ほどです.それほど混まないルートですが登山の基本である早出を心がけましょう.
小屋を出てしばらくは樹林帯が続きます.池ノ谷側のトラバースも多く,道は広くよほど落ちないと思いますが落ちたら大ダメージです.

2600mまでは難所はありませんが,2400mを越えたところで1か所鎖場があります.とはいえ手も足も豊富にあるため難しくはありません.

その後,杭の上を歩く箇所もありますがここもあえて杭の上を歩かなくても普通に岩の上を歩けます.

2600mの標識を越えてからはなかなか標高は上がらず岩峰を巻いたり,アップダウンを繰り返しながら進んでいきます.

地図でいう2614mのピーク手前に岩場があります.これを越えるとコルに上がりますがここから先は急登が続きますのでしっかりと休憩をして装備を整えましょう.特にコルすぐ先の2650m付近は下山時に滑落事故も起きている箇所なので要注意です.

2800m付近はざれた急登で嫌でも慎重になりますが,これを登りきるといったん傾斜が落ち着きます.登山道自体は直角に折れ曲がり,正面には剱岳の山頂を見上げることができます.


しばらく気持ちのいい稜線歩きが続きますがすぐに難所は訪れます.両側が切れ落ちた細い尾根を灌木とフィックスロープを頼りに越えます.


ここを越えるといよいよ最後にして最大の難所である獅子頭とカニのはさみです.
獅子頭~カニのはさみ
ここからが核心だと遠めにみてもわかるような威圧的な岩峰が我々をまっています.岩峰を巻くように池ノ谷側にできている岩のバンドを鎖も使いつつ進んでいきます.高度感はありますが足場は意外としっかりしておりしっかりとした三点支持ができていれば問題な通過できるはずです.


最後の最後に訪れるのがカニのはさみと呼ばれる個所で,さらに細いバンドを進んでいきます.最後の一歩は水平に打たれた鉄の杭を足場に越えていきます.

これを越えた後ももう少しだけ岩場は続きます.鎖や岩につけられたマーク,踏み跡に沿って50mほど登ると傾斜は落ち,右下方には別山尾根を登る登山者の姿も確認できます.


別山尾根との分岐の目印を越えあとは稜線を歩くと最後はほとんど傾斜がなくなりついに剱岳の山頂です!!

剱岳の山頂には別山尾根からの登山者も合流するため早月尾根を登っているときには想像できなくらい多くの人で賑わっています.

山頂からは富山湾や後立山,北アルプス南部など360度の絶景を望むことができます.撮影スポットはもちろん山頂の祠ですが,その他にも剣沢や立山,室堂を望む位置に看板があるのでぜひここでも一枚とってみることをおすすめします.


山頂のひと時を満喫できたらそろそろ下山の時間です.山の事故の多くは下山のときにおこるといわれています.

要注意個所としては2850m付近の核心部はもちろんですが,2650mあたりの急こう配の箇所も気が抜けません.一歩一歩慎重に下っていきましょう.
まとめ
剱岳は多くの登山者の憧れの山です.またそれに見合うだけの難しさもある山ですが登り切ったときの悦びはひとしおです.
確かに劔岳は難しい山ですが,こと早月尾根においては想像を絶する難しさというわけではなくしっかりとした経験や体力,技術をもった登山者であれば十分に登ることは可能です.おそらく剱岳山頂に至るルートの中ではもっとも易しいと思われます.ぜひ一度挑戦してみてください!!






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